PSO2小説

チームメンバーをギャルゲーのヒロインにしてみました

ふぁるぷだいありぃ 小春編

天鷲館学園は武道を重んじる。

武道を通じて心身を鍛え、礼儀を学び健全な人間を育むことを念頭に置いた教育方針は社会的にも高く評価されているらしい。

それは体育とは別に武道を学ぶ時間が定められているくらいで、中等部では柔道、弓道、剣道から。高等部ではそれに相撲と空手を加えた5種目から、1年ごとに履修する種目を選択することになる。

広く浅く、毎年違う種目を選択するのもいいし、ずっと1種目を選び続けるのも認められている。

この武道の授業を、1種目に絞って履修した場合、他校の部活動に匹敵する水準の技術が会得できると言われているほどで、天鷲館学園の部活無所属の一般生徒が、県大会で上位を狙える

だけの力を持っていたりする。

 

僕、水宮彩乃介が天鷲館学園中等部に進学して竹刀を初めて握ってから1年半、今ではそこそこ様になってきたと思えるようになった。

中秋の10月。

その日の武道の授業の練習試合で、僕はクラスメイトの女子生徒、十名河小春と相対していた。

三人の審判は剣道部に所属する生徒が努め、他30人ほどの生徒と、妙齢の女教師、榊原先生が見守る中、僕は小春と竹刀を交える。

面ごしに見えるまっすぐな視線。

白い道着に白い袴、背丈は僕と同じくらい。

姿勢よく中段に構えて、竹刀の切っ先を喉元に向けてくる構えた姿からは、凛とした雰囲気を醸し出している。 

小春とは去年入学した頃からのクラスメイトで、武道の授業では同じ剣道を選択しているという以外、特に僕と接点があるわけではなかったが、お互い剣道部には所属せず、また2年続けて剣道の履修を選択していたために腕前も近いということもあり、自然と彼女と練習や試合をすることが多くなった。

2年生に上がった最初の頃は、女子に負けたくないとライバルとして意識していただけだった。しかしそのうち、休憩中や練習後に話をするのがいつしか楽しくなり、また気さくで見た目にもかわいい彼女との練習を、やっかまれたりするのが嬉しくなったりすることを自覚した時、僕は彼女に恋していることに気がついた。

しばらくは好きな子とこうして対峙するのが、嬉しくもあり、またひどく緊張してしまったりもしたが、

最近では面をつけている時には、甘酸っぱい恋心も割り切ることができるようになってきた。

 

「やあっ!」

「せあっ!」

鋭く響く気のこもった声を上げてお互いに牽制。張り詰めた空気の中で場に飲まれないためにもそれは有効だ。

そして僕は剣先を小さく振りながら、少しずつ剣線を下げていく。

小春の視線が、僕の眉間に向けらているのを感じて僕は小春が面を打ってくると確信する。

得意の刺し面をまっすぐに。

運動神経の良い小春は、僕よりも遠い間合いから面を狙うことができるが、彼女の馬鹿がつくほどまっすぐな性格は誘いにのせやすい。しかし今の僕の腕前では来ると分かっていても、確実に応じ技を決めることもまた難しい。

1本目は出鼻を狙って篭手を狙ったが、有効打とならず面を決められてしまった。

2本目は際どかったが、なんとか篭手を決めることができた。

そして3本目。

ここで1本を取ったほうが勝ちとなる。

「面っ!」

「どぁうっ!」

小春が僅かに動いた瞬間、反射的に僕も動く。

面を狙ってくると確信していた僕の竹刀がイメージどうり迷うことなく弧を描き、小春の胴を捉えた。

バシッと、こ気味のいい音が道場に響き、3人審判が一斉に赤色の旗を上げる。

よしっ!

その喜びを体で表現したいところだが、武道の世界ではそれをやったら怒られる。

思った通りに技が決まったときの心地よさ、勝利の満足感を心の内に秘めながら、礼をして退場すると、小春と一緒に榊原先生の前まで行って正座する。

練習試合の後はこうして指導を乞うのが決まりになっているのだ。

道場では他の生徒の試合が始まっているが、先生はそれを見ながら、僕たちへの指導を行う。

榊原先生はまず小春に対して口を開いた。

「小春!あんな見え見えの誘いに乗ってるんじゃないよ!可愛い顔してまったくあんたは、直進ましっぐらのイノシシ武者かい!?この町の生徒に脳筋が多いのは地域柄ってやつなのかね?」

榊原先生の叱責が飛び、小春が小さく肩をすくめる。

そして次に僕を見る。

「それからあんたは頭でごちゃごちゃ考えすぎ!駆け引きとかまだ10年早い!今はそんなんに頼らず基本をもっとしっかり磨きな!まだ右手に力入りすぎてるから一本目の篭手が決まらなかったんだ」

あんたら2人は足して2で割ったくらいでちょうどいい。榊原先生は僕と小春をみてよくそう言う。

榊原先生は厳しいが、生徒のことをしっかり見ていて、とても面倒見のいい先生だ。

競技者としての実力も凄まじく、全国でも名が知られているらしい。本当は僕たちのような初心者には勿体無いくらいの指導者なのだが、そんな先生の指導を受けられるのも天鷲館学園ならではと言えるだろう。

榊原先生に礼を言ってその場を離れ、静かに道場の隅に座って篭手と面を外す。

その隣では、小春が同じように面を外していた。

体は礼節を守っていても、ニヤケ顔までは隠せていなかった僕の腹に小春が裏拳を入れてきた。

胴をつけているため痛かったのは小春の方だろうから、その理不尽な暴力は目を瞑ってやるとする。

「うぅ~。負けたぁ」

どことなく涙声なのは、胴を殴って痛かったからだろう。しかしそれは自業自得だ。

「フハハーン。これで僕の勝ち越しだな」

「でも取った本数はまだわたしのほうがまだ3本多いんだからね!」

「1本勝ちでも勝ちは勝ちさ」

彼女とはこれまで21戦して9勝8敗3引き分け。とった本数は僕が13本で彼女が16本。

メモしているわけではないが、お互いしっかり覚えていたりする。

1本勝ちが多い僕に対して、小春はしっかり2本狙ってくるから、取った本数が多い小春より、勝ち数で僕が上回る形になっているわけだ。

「そこの2人!無駄口を叩き合うならもう1戦やってみな!」

不意に道場に榊原先生の叱責が響いた。

どうやら僕と小春に向けられるているようだ。周囲の視線が集まる中慌てて面を付ける。

小春との試合は僕にとって願ってもないことだ。小春の方も、そう思ってくれているだろうか?

 

「1本目、始め!」

「やあっ!」

主審の声を合図に小春が声をあげる。

さっきの借りを返そうと気合が入っているようだ。

でも、こういうときほど行動が読みやすいんだ。小春は……。

小春の腕が動いた瞬間に篭手を打つ。

切っ先に手応え、ほぼ同時に前頭部に鋭い衝撃を受ける、

主審と副審一人の旗が上がり、やや遅れてもう一人の旗が上がる。

「1本、篭手あり」

主審が告げる。

しっかり狙いを定めて打ち込んだわけではない。慣れた小春相手だったから取れた1本だろう。他の生徒だったら決まったとは思わない。

「2本目!」

主審の合図があるや、即効で小春が動いた。

「めぇぇぇん!」

まあ、そう来るだろうとは思っていたから、僕は打ち込まれる竹刀をいなすとそれを避けた。

続けて篭手、面と続けて来る連続技もいなし、躱し、距離を取って回避。

1本目を先取されて、小春はむきになっているようだ。だから僕はこちらから前には出ずに小春の打ち込みを躱すことに専念する。

小春には悪いが、無駄に勝負せずここは逃げ切らせてもらおう。このまま試合時間が過ぎるまで逃げ続ければ僕の1本勝ちだ。

これは、小春相手にはよくあるパターンで、僕に1本勝ちが多い理由である。しかし、今回の小春は一味違った。

「やぁぁっ!」

打ち込んできた小春は、つばぜり合いに持ち込むではなく、勢いよく竹刀を握ったままの両手で僕を思い切り突き飛ばしてきたのだ。

元から逃げ腰だった僕は、それを受け止める事ができずバランスを崩して倒れた。

なんとも乱暴な。

しかし、主審が僕に場外反則を告げられて、僕は小春の狙いに気づく。

剣道では2回場外に出すことができれば、それで1本になる。マリア先生も認めるイノシシ武者の小春がそれを狙ってきたとしてもおかしくはない。

……逃げ回る僕に腹を立てただけかもしれないが。

「いいぞ小春ー!逃げ回るようなやつはぶっ飛ばせーっ!」

小春を煽る榊原先生。

それに続き、周囲の生徒からも同調するような声が聞こえてくる。

単純な力比べで負けはしないと思うが、さっきのようにのらりくらりと打ち込みをかわそうとすれば、小春は本気でぶっとばしにくるだろう。

小春の突進力に関しては榊原先生すら認めるところで、下手に受けられないのは今ので証明済みだ。

榊原先生の後押しがあろうと無かろうと、こいつは絶対やる。

ならば、僕も覚悟を決めなければならない。

「始め!」

再び構え直し、主審が試合再開を告げる。

「面っ!」

……とか言いながら全力で小春が突っ込んでくる。

猪突猛進にも程があるだろう!?

僕はそれを横っ飛びに躱すと、小春は勢い余って足をもつれさせ、派手な音を立ててすっ転んだ。

剣道では転んだ相手でも1打だけなら許されるのだが、小春があまりに綺麗に前のめりに倒れたためこちらも手を出すことができなかった。

「止めっ!」

主審が止めに入り、小春がゾンビのように起き上がる。

試合中は相手に手を貸すことも、声をかけることもできない。もちろん土下座して謝ることなどもってのほかだ。

改めて中央で構え直し、試合が続行される。

ガルルルル!

唸り声が幻聴として聞こえてくる程の殺気を放ち、構える小春。

「始めっ!」

「轟っ!」

主審の声を合図に人の声とは思えない裂帛が轟いた。獲物に襲いかかるかのように小春が飛びかかってくる。

それからの数分間、僕は暴れる小春から全力で逃げ回り、結局僕の1本勝ちとなった。

 

「ぶぁっかもーーーん!あんたらはさっきの話、何を聞いとったんじゃあっ!」」

試合を終えて、いつものように眼前に正座した僕と小春に榊原先生は等しくげんこつを落とす。面をつけていてもずしりと響く一撃だった。

試合中は熱くなっていた小春も、さすがに今はしゅんとしている。

「まず水宮!いつも言ってるだろう?きっちり2本狙っていけ2本!最初の篭手は良かったよ。どんどん狙っていきな。そのための練習試合なんだ!あんなセコイ手使ってるんじゃないよ!」

「……はい、ありがとうございます」

おとなしく頭を下げる。

あんな周囲が呆れるような試合でも、榊原先生はちゃんと指導してくれる。いい先生である。

そして次に小春の方を向くと、榊原先生は再びは雷を落とした。

「小春、あんたはここに剣道しに来ているんだろう?竹刀を使え、竹刀を!相撲がしたいなら外でおもいっきりやってこい!」

さっき煽りまくっていたのはマリア先生ではありませんでしたか?もちろんそんなこと思っても口には出さないが、小春が途中から剣道していることを忘れていたのは間違いないと思う。

「まぁ、また今度こいつが逃げ回るようなら、容赦なくこいつをぶっ飛ばせ。でももう少し体裁は考えな。普通なら失格にするから」

……本当に良い先生である。

「「ありがとうございました!」」

小春と声を揃えて深々と頭を下げる。そして立ち上がろうとしたところを急に横から突き飛ばされて、僕はその場にひっくり返った。

いったい何が起こったんだ!?

僕が目を白黒させていると、榊原先生の大笑いが聞こえてきた。

「こら小春。ぶっ飛ばすのはまた今度だっていっただろう?」

 

 

 

十名界神社大祭。そう書かれたのぼりが幾重にもはためいているのが見える。

祭りを明日に控え、町のあちらこちらでその準備が進む様子を眺めながら、食材の詰まったエコバックを手に僕は家路へと歩いていた。

明日の今頃、今歩いているこのあたりも夜店が立ち並び、大勢の人で賑わっていることだろう。

そんな僕の前を、二人の女の子が楽しそうにおしゃべりをしながら歩いていた。

「瑠環ちゃんち今日カレーか、いいなー。食べに行っちゃおうかなー」

「うん。食べに来てよ。お兄ちゃんも来るし、カレーもご飯も一度にたくさん作ったほうが美味しくなるの」

「なんだあやすけも来るのか」

「悪かったな」

ひょこひょことポニーテールを揺らし、人のことを"あやすけ"などと勝手につけた略称で呼ぶ失礼なのが水来流々穂。学園の後輩でアークス学園中等部の1年生だ。

もう片方、二つの大きめに編んだおさげ髪を揺らして歩いているのは、近所に住んでいる小学生の蛙塚瑠環。

瑠環は、父親の友人の娘さんで、昔から僕のことを"お兄ちゃん"などと呼び、海外暮らしで滅多に会わない実の妹より妹していたりする。

僕が3年前にこの町に引っ越してきたのも、仕事で海外にいることが多い両親に代わって保護者になってくれる瑠環の家族がいたからだ。

今日もうちは僕一人ということで、瑠環の家で夕食をご馳走になる事になっていた。

そこでせめて何か手伝おうと、瑠環のお使いについて行ったのだが、その帰り道に神社に向かう流々穂に偶然会ったのだ。

「うーん、でも本番明日だから遅くなるだろうし、うちの方も忙しいから今日は無理かな」

「そっか。残念だけどしょうがないね」

流々穂は祭りで伝統的に行われている神楽の舞手に選ばれたとのことで、この2ヶ月ほど練習のために神社に通っているのだという。

また、流々穂の家は老舗の和菓子屋で、出店やら奉納する菓子の準備やらで、猫の手も借りたいほど忙しいらしい。

流々穂も、神楽が終われば今度は家業の手伝いに追われるのだろう。

やがて神社の石垣の向こうに、雨よけの天幕を張った櫓が見えて、自然と視線がそちらへと向く。

明日から行われる奉納相撲大会の会場だ。

一緒にいる二人も同じなようだ。会話は祭りで行われる奉納相撲大会へと移っていた。

相撲大会では小学生による子供の部があって、流々穂も瑠環も毎年参加していたが、中学生になった流々穂は去年で卒業。瑠環も今年が最後になる。

「今年はるるちゃんとお相撲の特訓できなかったから不安なの」

「ごめん。今年は舞の稽古で手が一杯なんだ」

あまり友達の多くない瑠環は、練習する相手もそうはいない。それに流々穂がこの春アークス学園に進学してからというもの、少し寂しい思いをしていたようだ。

だったら出なければいいのにと僕は思うのだが、どうも瑠環の頭にはその選択肢が無いらしい。

「いいなー、わたしもまた出たいなー。どうして女子は小学生までなんだろう」

「流々穂なら小学生に混ざっててもわからないんじゃないか?」

「なんか言ったかあやすけ!」

僕の言葉に流々穂が目を釣り上げる。

流々穂の背丈は瑠環と似たようなものだし、身体付きなど少し細いくらいだ。小学生の中にいても違和感を持たれることはないだろう。

「るるちゃんはこのあたりでは有名人だから絶対バレると思うの」

悪ガキとしてな。僕は心の中でそう付け加える。

「そだよ!大会では毎年優勝候補の一角ってずっとマークされてたんだから!」

それはよく知っている。

自分より大きい相手でも臆することなく立ち向かい、勝利してしまう流々穂のことを、今でも内心では憧れをもって見ていたりするのだ。

この町で育った子は、自分にはない強さを持っている。僕はずっとそれに引け目を感じていた。

だがしかし、流々穂は昔からいろんな意味で人を振り回すのが得意な奴だった。

「女子の部に混じってても気がつかれなかった誰かさんとは違うんですよーだ」

「それ全部お前が原因だろ!」

それは3年前のこと。この町に引っ越して来た最初の年に、僕は流々穂達に誘われて一度だけこの相撲大会に参加したことがある。

その頃、瑠環を除けば流々穂はこの町で初めて出来た友達だった。

相撲の特訓にも付き合ってくれたし、当日は選手登録からまわしの付け方まで、初出場で勝手のわからない僕の面倒をいろいろ見てくれた。

しかし、何を思ったのかこいつは僕を女子の部にエントリーさせたのだ!

大人達は何故かそれに気がつかず、何人もいたはずのクラスメイト達も何故か何も言うことなく、僕が自分でその事実に気がついたのは、最初の試合が終わった後だった。

普段から鍛えられている地元の子を相手に、苦戦したもののなんとか勝利した僕は、すっかりはしゃいで特訓してくれた流々穂や瑠環に礼を言おうと思ったのだが、そのときふと目に入ったトーナメント表には小学生高学年女子と書かれ、そして僕の名前は水宮 彩乃になっていた。

「あのときは恥ずかしくって、死にたくなったんだぞ?」

僕はそこで棄権して、数日家に引きこもった。

その年以来、僕は祭りはおろか、地域の行事にもほとんど顔をだしていない。

そういえば、流々穂ともそれがあってしばらく疎遠になったんだったな。

久々に会ったら印象変わってて驚いたんだけど。

しかし、僕にとっては散々な思い出である相撲大会も、この近所で生まれ育った子供達にとって、大会への出場は毎年恒例の行事で力の見せ所である。

瑠環は同年代の中でも身体が小さい方だし、マイペースで内向的な性格だから格闘技に向いてるようには見えないが、意外と運動神経はいいし、体力もあるから結構強い。町の力自慢が集うこの大会でも、これまでいい成績を残していると聞いたことがある。

「うん。がんばって勝てたら神様はお願い聞いてくれるかな?」

この相撲大会で頑張った子供には神様がご褒美として願いを聞いてくれるという言い伝えがあるそうだ。

「今年は流々穂ちゃんと特訓できなかったし、ちょっと不安なの」

「ごめん瑠環ちゃん。でも大事なのは勝ち負けじゃなくて、どんな相手にも逃げずに立ち向かった心に神様は答えてくれるんだって、みんな言ってるよ。……わたしもそう思う」

……逃げずに立ち向かう心。この町の子達が持っているもの、僕が持っていないもの。その言葉がその言葉が僕の心を少しばかり騒めかせる。

「流々穂ちゃんはお願いかなったことがあるの?」

「うん。叶ったよ!」

臆面もなくそう言ってのけた流々穂の顔が、ちょっとだけ眩しく見えた。

 

「あっ!」

神社の前まで来て流々穂がソレを見つけて駆け出していく。

流々穂の向かう先、鳥居の下で箒を手に、白と緋色の巫女服姿で掃除に勤しむ少女の姿を目にして、僕も心臓が高鳴った。

それはさっき学園で、人のことをぶっ飛ばしてくれたクラスメイト。小春だった。

神様、ありがとうございます!思わず八百万の神々に感謝してしまったが、そうでもしなければ罰が当たるというものだろう。

小春が神社の娘であるとは最近になって知って、。それで嫌な思い出のある神社や祭りにも足を運ぼうと思うようになったのだ。

好きになった女の子が巫女服着て竹箒で掃除してる姿が見れるとか、それこそ奇跡級の幸運ではないだろうか?

「せんぱーい、お疲れ様です」

「あっ、流々穂ちゃんいらっしゃい」

流々穂にこやかに挨拶をすると、小春は流々穂にやや遅れて着いた僕を見て、何故か少し驚いたような顔をしていたが、すぐに微笑みを返してくれた。

小春はどうやら相当機嫌がいいらしい。

「あら?こんにちは」

「あ、ああ。帰ってからも掃除なんて大変だね」

こんにちは?小春が僕に巫女服姿で「こんにちは」だと?巫女服着ると性格まで清楚になるのだろうか?

……素晴らしい。巫女服って最高だ。

「あたし先に帰る!」

僕は感動でしばらく放心していたらしい。不機嫌そうな瑠環の声にはっと我に返る。

瑠環はそんな僕の手からエコバックをひったくると、おさげを振り乱しながら走って行ってしまった。

「どうしたんだ瑠環のやつ?」

「あーあ、あやすけわかってないなー」

流々穂はにやにやしているが、聞かなかったことにする。

「やきもち焼いていたのかな、ほっぺたがこんなになってたよ」

小春が自分の頬を膨らませてみせる。可愛かった。

「瑠環はもともとそんな顔だぞ」

「あー、ひどいなー。そんなことないよ」

「そうか?最近太ってきたような気がするんだけど?」

最近、瑠環の身体つきがふっくらと丸みを帯びて来ていたと思っていたから、僕はついそう口走っていた。

「あ、ひどい事言うなー」

「あやすけ最低」

案の定女子2人から抗議の声が上がる。

この話題は危険だ。

しかたなく、瑠環の件から話を逸らそうと、この神社について話をふることにした。

「そういえば、ここって珍しい神様を祀ってるって聞いたけどどんな神様なんだろう?」

「あやすけ逃げた!」

「やかましい」

しかし小春の方は話に乗ってくれたようだ。

「うん?ここの神様?狐の神様だよ」

「そっれてお稲荷様じゃないの?」

「うん。違うんだよ。ここでお祭りしてるのはこの土地の昔から繁栄と豊穣をもたらしてきたと言われる神狐で、伏見の稲荷神社とは全く別なんだ。図書館に行けばそのあたりの伝承の本とかあるから読んでみるといいよ。絵本にもなってるしね」

「そういえば小学校の図書室においてあったな」

その絵本なら、珍しかったから読んだ覚えがある。確か昔この土地を戦から救った狐の話だ。

昔、このあたりは小さな村があるだけの荒れた土地だったそうだ。そこでは村人と一緒にとても賢い狐が住んでいた。

あるとき2つの国がこの土地をめぐって戦を起こそうとしたしたとき、狐は僧侶に化けてそれぞれの殿様のところに行ってこう言ったそうだ。

 

「ここの土地の村は貧しく、取れる作物も僅かなもの。戦をすればますます土地は荒れ人が死にます。そこで間もなく村では収穫を感謝する祭りが行われます。その祭りの場で両家の代表が相撲をとり村はその年勝った方の国に年貢を収めるというのはどうでしょう?」

 

戦を始めようとしていた殿様は僧侶の言葉は受け入れた。

祭りの日には多くの人が集まるようになり、街道も整備され村は次第に豊かになっていった。土地を取り合っていた2つの国の仲も良くなり、やがて一つの国になった。

人々は戦を止めた狐を土地の守り神として崇めるようになったという。

 

それから300年余りの時がたったが、この地に根付いた"諍いは相撲で決めろ"という風習はしっかり現代まで続いている。

つまり、この町の人間が脳筋なのはこの狐のせいと言える。

 

「うん。山の方に長い階段があって、その上に小さなお社があるの知ってる?実はね、そこがここの神様をお祀りしている、本当のお社なんだ。でも場所が場所だけに、参拝者もなかなか来ないものだから、100年くらい前にここに新しくお社を作ったの。だから、山の上のお社もうちが大事に管理してるんだけど、それを近所の悪ガキが遊び場にしてね」

小春がその近所の悪ガキ代表、流々穂の頭をぐりぐりと頭を撫で回す。

割と力が込められているように見えるにもかかわらず、流々穂は撫でられて喜ぶ猫のように嬉しそうに目を細めていた。

「それでも神様だって人が来ないの寂しいだろうし、きっと子どもが遊ぶのは許してくれるからって大目に見ていたの。それで年も近いし、お目付役も兼ねてたまに一緒に遊んでたんだよ。まったく、目を離すと何をするかわからないんだもの。何度一緒に怒られたことか」

「……それは大変だったな」

僕も覚えがあるからよくわかる。僕もこいつにはさんざん振り回されたからだ。

社まで続く長い階段を競争して駆け上がったり、相撲、チャンバラ、木登りとか普通の遊びをしているうちはまだ良いが、洒落にならない遊びを初めて、周囲に迷惑をかけまくった事例は、付き合いが短い僕でも事欠かないくらいだ。

野生のウサギやリス、タヌキを捕まえて遊んだ日には、全員病院に連れて行かれてめちゃくちゃ怒られた。野生動物にはどんな雑菌が付いてるかわからないらしい。

猪が出て畑が荒らされたと聞けば討伐隊を組織して山へ繰り出し、警察が出動する騒ぎになって、まためちゃくちゃ怒られた。

また、流々穂は運動神経抜群のくせに泳げない。

その理由が、昔カッパに襲われたからだとかで、それ以来、水が怖くなって泳げなくなったと言い張っている。

そのリベンジのためカッパを探すとか言い出して、誘き出すためにカッパの真似をして川で遊んでいたら、自分たちがカッパと間違えられてしまい町中が大騒ぎになって、またまためちゃくちゃ怒られた。

そうやって怒られてばかりしているくせに、流々穂は街の大人達からは案外気に入られているようだ。最近は実家の和菓子屋の手伝いなんかもよくやっているようで、近所のお年寄りや奥様方から可愛がられているらしい。

馬鹿な子ほど可愛いというやつだろうか?

でも、流々穂が小春と以前から親しかったのは初耳だった。

僕が流々穂と遊んでいたのは、僕がこの街に引っ越してきてしばらくの間だけだった。

その間に僕が小春と会うことはなかったけれど、もしも、もっと長く流々穂と遊んでいたならばもっと早くに出会えてたのかもしれない。

小春のことは小学校の頃からたまに見かけることはあったが、その頃はクラスも違ったし、たまに見かける可愛い子、という認識でしかなかったからだ。

もっと早くに出会っていれば、もっと色んな思い出が作れただろうか?

今はそれが惜しく感じられた。

「えへへ。先輩には昔からお世話になってます」

「先輩なんてなんか寂しいな。この前まではちゃん付けで呼んでくれてたのに……」

「中学生になったら先輩のことは先輩って呼ばなきゃダメなんです。でないと怖い先輩に目をつけられちゃうんですよ?」

確かに中学生になると、小学生の間では緩かった先輩後輩の関係が厳しくなってくるのは確かだ。そして、僕も一応上級生、先輩である。

「……なんで僕のことは"あやすけ"なんだよ」

「えー、あやすけはあやすけだよ。あやすけのくせにー」

こいつ頭カチ割ったろか!?

しかし残念ながら僕が振り下ろした空手チョップはあっさりかわされて空を切ることになる。

「べーっだ!」

流々穂は舌を出すと、ポニーテールをなびかせて境内へと駆けていく。

「まったく、しょうがないやつだなー」

腹は立つが小春の前だし大人気なくムキになるのも格好悪い。ここは年長者の余裕というのを見せるべきだろうと、平静を装って黙って見送ることにした。

生意気な下級生などいなくなって清々するというものだ。ここはお邪魔虫がいなくなることを歓迎するとしよう。

「お姉ちゃんなら社務所にいるよー!」

小さくなっていくその背中に呼びかける小春に、流々穂はくるりと向きを変える。

「はーい!またねー、せんぱーい!あやすけー!」

そして大きく手を振って走っていった。

「前は男の子みたいだったのに、流々穂ちゃん、可愛くなったよね」

「そうかな?」

「そうだよ」

確かに今年4月、中等部の制服に身を包んで久々に僕の前に現れた流々穂は、最初気がつかなかったくらい可愛らしい女の子になっていて驚いた。それは外見だけだとすぐに気づかされたのだが……。

とはいえ、今の僕には流々穂のことなどまるで目に入っていなかった。

頭の中は、すぐ傍にいる小春のことでいっぱいだったからだ。

小春に妹がいるとは知っていた。中等部の1年生で、小春によく似た元気な子だ。

でも姉がいるとは初耳だった。

小春のことを1つ知ることができて嬉しかった。

近くの大樹からツクツクホウシの声が聞こえてきて、秋の風が小春の長い栗色の髪を揺らし、小春はその細い指で長い髪をかき撫でる。

やわらかい西日に照らされた横顔に釘付けになった。町の喧騒も聞こえなくなるくらい、目の前の少女に夢中だった。

好きだと言いたい、この子に誰よりも早く、誰にも渡さないために、僕は焦る気持ちに背中を押されるように、その日人生で初めて告白をした。

 

"好きです。付き合ってきださい"

 

十名界神社の社務所は6畳ほどの和室だが、祭りを明日に控え、お守りやおみくじ、破魔矢の在庫がダンボールに入って積まれ、普段の整然とした様相からすっかり物置へと様変わりしていた。

そんな社務所の中の限られた空間で、ぐ白衣に緋袴の伝統的な巫女装束を着込んだ小春が、同じく巫女装束に着替えようとする、流々穂の着付けを手伝っていた。

本番に向けて衣装も同じものを着て練習を行っていたが、不器用な流々穂は袴の着付けに毎回手間取る。

「小春ちゃん、きつい!苦しいってば!」

「こ、こら!動くな!しっかり結べないじゃない!」

「だって、小春ちゃんの帯の締め方きついんだもん」

「あんたが自分で袴を着れないのが悪いんでしょうが!まわしは一人で締めれるくせに、なんでこれが出来ないのよ!」

「あんなの布一枚だし。こんなに難しい結び方もしないもん」

「蝶蝶もできないのかあんたは!緩いと舞ってる途中でまた袴がずり落ちるわよ?本番で恥ずかしい思いしたくなかったら大人しくしな!」

「もー、小和先輩はもっと優しくやってくれるのに」

「あん?何か言ったかな?」

小春が帯を締める手に力を込めると、流々穂が悲痛な声が上がる。

「ぐえっ……、ご、ごめんなさぃぃぃ」

小春がようやく大人しくなった流々穂の着付けを終えてしまおうとしたとき、社務所の中に小春によく似た巫女装束の少女が息を切らして駆け込んできた。

小春の双子の妹、小和だった。

「……はぁ、はぁ。お、お姉ちゃん、ど、どうしよぅ」

「小和?」

「あれ?小和先輩、どうしたんですか?」

のんびりとした小和が普段見せないその様子に二人は手を止めて揃って目を丸くする。

「なんであんた、私にちゃん付で小和には先輩なのよ?」

「えー、だって小春ちゃんは小春ちゃんだよ。小春ちゃんだしー」

小春は黙って、更に腕に力を入れて流々穂の悲鳴が上がる。

しかし小和は二人のじゃれあいを気にしている場合ではなかったようだ。

「あ、あのね……、お姉ちゃん、。私、さっき告白されちゃった……」

「「な、なんだってーーーっ!!」」

「それってまさか、あやすけからですか?」

「う、うん……。さっき流々穂ちゃんと一緒にいた子」

「はぁ!?なんであいつがあんたに……?」

小和はアークス学園ではなく公立の中学に通っていて、彩乃介とはこれまで話しているところすら見たことが無い。確かにおっとりとした小和が自分より男子にモテそうな気はしなくもないのだが……。

「そうだよね。私もあの子のことよく知らないし、それで思うんだけど、多分その人、私とお姉ちゃん間違えてたんじゃないかな?でも私、驚いて逃げてきちゃって……。どうしよう」

はぁーっと、小春と流々穂が同時に息をついた。そして……。

「ほっとけばいいわよ。あんな馬鹿」

「ほっとけばいいです。あんな馬鹿」

「えっ、お姉ちゃんはそれでいいの……?それに彼女のこと傷つけちゃったよ?どうしよう」

「いいわよっ!私はあいつのことなんかなんとも思ってないんだからっ!」

小春が乱暴に流々穂の帯を結び付けると、三度、社務所に流々穂の悲鳴が上がる。流々穂の着付けを済ませたところで、ふと何かに気がついたように、小春は小和に怪訝な顔を向ける。

「……小和?あんた今『彼女』って言った?」

 

 

 

幸いうちの家族は皆海外ででしばらく帰ってこないため家の中は僕一人だ。

だからリビングのクッションを涙で濡らしても誰にも見られることはない。

"困ります"

そう言って走っていった小春の姿が、頭の中で何度も再生されている。

つまり、あれはこういうことなんだ。

僕はフラレた。失恋したのだと。

一人で家に帰って来てからどれくらい時間が経っていたのだろう。まるで僕の涙腺に合わせるように外はいつの間にか大粒の雨が降り出していた。

通り雨が多い季節だ。明日は晴れるというし祭りには影響ないだろうが、それは僕にはどうでもいいことだ。

また当分は神社に近づく気持ちにはならないだろうから。

「お兄ちゃん、いるの?」

玄関が開く気配と、その後の瑠環の声に、僕は慌ててソファーから身体を起こすと、袖口で涙を拭った。

時計を見るともう20時を回っている。

僕は瑠環の家で食事させてもらう約束があったことを思い出した。

瑠環は心配して見に来たのだろうか?

近所とはいえ、小学生が一人で出歩く時間じゃない。

瑠環の家に誤りついでに送っていくかと、立ち上がる。長い時間ソファーで横になっていたせいか、すっかり身体も硬っていた。

「ごめん、ちょっと寝てたんだ」

「お兄ちゃん、泣いていたの?」

「……」

僕の嘘は一発で見抜かれてしまったようだ。

目が赤くなっていたのか、声が少し震えていたからか、頬に涙の後でも残っていたのか?

どっちにしても格好悪いったらない。この子の前ではいいお兄ちゃんでありたかったのだけれども、それも、もう台無しのようだ。

「あの人の事が好きだったの?」

おそらく流々穂から聞いたのだろう。瑠環は僕が小春に告白してフラレたことを、どうやらもう知っているようだ。

流々穂の奴め余計な事を……。ポニーテールの少女を少し恨む。

「あたしね、ずっとお兄ちゃんに伝えたいことがあったの。……もうちょっとだけ、もうちょっとだけ大人になったらって思っていたのに。もう言えなくなっちゃった」

瑠環も泣いていたのだろう。その声は震えていた。

「うん……。ごめんな」

瑠環の好意には、ずっと前から気がついていた。

僕が小春と話をしていたときにやきもちを焼いていた事も、僕は気がつかないフリしていたんだ。瑠環の想いには答えられなかったから。

僕が小春の事を好きなことを、瑠環も前から知ってたのだろう。

自分の想いが叶うことががないと知ったとき、瑠環も今の僕と同じようにひっそりと涙を流したのだろうか?

でもそれは、どうしようもない。どうしようもないことだった。

「……少し一人にしてくれないか?ちょっと色々あって、疲れたから、今日はもう休みたいんだ」

しかし、瑠環は帰ることはなかった。代わりに、小さな、消えそうなくらい小さな声で、ソレを聞いてきた。

「お兄ちゃんは、……小春さんに告白したんだよね?」

「うん」

「やっぱり気がついていなかったんだね……。あそこにいたのは小春さんの双子の妹の小和さんだよ?」

なんの冗談を言っているのかと思った。

驚いて瑠環の方を見ると、瑠環は淡々と事情を話し始める。

「小和さんがお兄ちゃんに告白されたって、小春さんもるるちゃんも驚いてたの。でもお兄ちゃん小和さんのこと知らないよね?だから変だなって」

どうやら冗談では無いらしい。

小春が双子?妹?聞いたことが無い、そんなこと……。

「……本当なのか?それ?」

「うん。小春さんが長女で、双子の妹の小和さん。その下に結衣さん。十名界神社の美人三姉妹って有名なの」

知らなかった。神社にはずっと近づかなかったから。

しかし、そうと知ったからにはここで泣いている暇はない。

確かに遅い時間だけど、このままにしておけない。すぐにでも神社に行って小和さんに謝罪しよう。そして、改めて小春に告白しよう。

「ごめん瑠環、神社まで行ってくるよ、教えてくれてありがとう」

まだ、希望があると分かり、視界が明るくなった気がした。

瑠環の目から涙がこぼれるのが見えたが、僕はソファーから立ち上がる。

「嫌っ!行っちゃ嫌!」

しかし、これまで聞いたこともない悲痛な声を上げて飛びついて来た瑠環に、再びソファーへと押し戻された。

「……瑠環」

瑠環はなりふり構わない様子で僕をソファーに組み伏せ、抑えつける。

「嫌!……お兄ちゃんずるいの、もう一回やり直しなんて、そんなのずるい……」

そのとき僕は、どうしていいのか、わからなくなった。

僕が好きなのは小春なのだ。だから瑠環の気持ちには答えられない。でも、瑠環が泣いているのも、見ていられないくらいに辛い。

今にも抱きしめてその想いを叶えてあげたくなるが、僕はまだ小春への未練を残している。

瑠環が小学生だってことを見ないことにするにしても、この先瑠環を恋人として見ることなんてとてもできなかった。

胸に顔をうずめてすすり泣く瑠環を振り払うこともできず、僕は迷っていた。

確かに、小春のところへ行くことは日を改めてもできるだろう。でも間違えてしまった小和さんに謝りに行くのは、なるべく早くしないと心証が悪くなる恐れがある。

瑠環から小和さんのことを聞かされた時点で、もう"知らなかった"は通用しないだろう。

瑠環を力尽くで振り払うことなど、とても出来ない。どうすればいい?どうしたら瑠環を納得させられる?

"かなり分は悪いけれど、もしかしたら……"

考えた末、この町の伝統に賭けることにした。

「瑠環、僕と勝負しよう。僕が勝ったら、このまま神社に行かせてもらう。瑠環が勝ったら、今日は諦めるよ」

「勝負?」

「うん。相撲しよう。諍いは相撲で決めるのが掟なんだろう?」

「……そうだけど、本気で言ってるの?お兄ちゃんあたしに勝てないと思うの」

「僕も最近だいぶ体力付いたからわからないよ?……でもそうだね。僕は初心者だし、この町の子はみんな強いから、一発勝負じゃなくてどっちかが降参するまででどうだ?」

「うん、やろうお兄ちゃん。でも、あたしが勝ったら……ううん、なんでもないの」

「……瑠環?いいんだな?」

「うん。いいの」

瑠環は何を言いかけたのだろう?この勝負は瑠環に有利だから、勝者の権利を吊り上げられると困るのは僕だ。

「後で泣いても知らないからな?」

「もう2人とも泣いてるの」

「それもそうだった」

アークス学園に入ってからそこそこ体力はついてきたとは思うが、相撲の経験は昔流々穂にちょこっとしごかれたくらいだ。

今の瑠環は当時の流々穂より強いだろうし、この町の子供はこの時期真面目に相撲の練習してる

から、実力差があって当然だ。

それに体格にしても、実はあまり差がない。

背丈は僕の方が高いけれど、たぶん体重はほとんど変わらない。

乙女の体重をなんで知っているかといえば、ごく最近、僕の体重を知った瑠環がやたらショックを受けていたからだ。

とても面白いことになっていた、そのときの瑠環の表情から察するに、僕とほとんど変わらないか、少し重いくらいだったのかもしれない。

一応瑠環の名誉のために言っておくが、瑠環は傍目に決して太ってはいない。ただ、もやしっ子で、普段から女子に間違えられたりするような僕よりは健康的な体付きをしているというだけだ。

雨はまだ降っていたが、勢いは弱まっている。

僕たちは素足で庭に出た。

うちの庭は2、3世帯が集まってバーベキューができるくらいの広さがある。建物の大きさは普通だが、この家を建てるとき海外生活の長い父親が、ご近所集めてパーティーができるくらいの広さに拘ったためだ。

築5年にして、家族すら全員集まったことが無い我が家だが、いずれはお世話になった人達と、家族全員が集まってパーティがしたいということを、父親が以前電話でぼやいていた。

そんな理由もあって、掃除や手入れはこまめにやっていたから小石やゴミを気にする心配はない。

瑠環と対峙して腰を落とす。蹲踞の姿勢は剣道でもやるけれど、袴を履いてないとどこか違和感が有った。

「さあ、おもいっきりやろう!手加減なんてしなくていいよ!」

地面にてを付く。

この町の神様。僕はこれから真剣にこの子と勝負します。だからどうか明るい結末を、僕たちにください!

八卦よい!

瞬間、瑠環の頭が激しく顎を打って、怯みそうになるが、必死に瑠環の身体に食らいつく。

こうして組み合って気が付くこともある。小さく見えていた少女は、思った以上に大きくて、そして強かった。

瑠環も僕の体をがっしりと捉えて、じっくりと押し上げるように力を加えてくる。僕もなんとか抗おうとするが、瑠環の体は動じない。体を安定させる姿勢、より強く力を加える方法、相手のバランスの崩し方という技術をしっかり習得しているのだ。

無理だ、勝てない。

10秒も経っていなかっただろう。瑠環の力に圧倒されて、気持ちが折れたのと同時に、僕は地面に倒されていた。

雨に濡れた地面は柔らかくて痛くはないが、とても気持ちが悪かった。

あまりに呆気ない敗北。

情けないとか、悔しいとか、そんな気持ちはわかなかった。

ただ、恥ずかしい。

実は僕は瑠環が手を抜いてくれると期待していた。僕の気持ちを優先してくれると、都合の良い展開を期待していた。

でも違った。瑠環は本気だった。力尽くで自分の意思を貫こうと、本気で挑んで来ている。

本気でぶつかってくる瑠環に、甘い考えを持って勝負に挑んだことが恥ずかしくて、思い知らされた気がした。

僕は、小春にも、瑠環にもふさわしくない……。

彼女たちに釣り合う強さが欲しい。

「まだやるの?」

「降参するまでだって言っただろう?」

意地でも追いついてやる!

僕は渾身の気力を振り絞って立ち上がった。

 

2回戦。

再び組み合う。

確かに瑠環は強いけど、身体は小さくて軽い。なりふり構わなければ、勝機はきっとある。

瑠環はTシャツにレギンスという動きやすい格好だが、こっちとしては掴むところが無いのが厳しい。それでも、瑠環の腹の下に腕を回して強引に持ち上げる。

「お、お兄ちゃんダメっ!危ないっ!」

瑠環が静止をかける。しかし僕は構うことなく僕は瑠環投げようとするが、投げきれずもつれ合うようにして倒れた。

瑠環は途中からわざと倒れたように思えた。僕が無理に力を使ったことで怪我をすることを心配したのだろう。

「ぐっ!」

腕がなんか嫌な音を立てて痛みが走ったけど、とにかく1勝取り返した。

「お兄ちゃん初心者なのに無茶しすぎ!下手すると大怪我しちゃうんだよ!」

確かに瑠環の言う通り、どうやら右腕を痛めたようだが、そんなの気にならないくらい気分がよかった。

勝てたことが純粋に嬉しかったのだ。

「フハハーン、負け惜しみかな?だったら僕の勝ちってことで、ちょっと小春のとこいってくる」

踵を返してリビングに戻ろうとすると、強い力で、後ろからぐいっとシャツを引っ張られた。

振り返って見た瑠環の満面の笑みは、さっきまで泣いていたのが嘘のように晴れやかなものだった。

「もっとやろうお兄ちゃん。立てなくなるまで可愛がってあげるの」

眩しい笑顔、それなのに僕は、ちょっとだけ背筋が寒くなった。

その後2回、3回、と瑠環は容赦なく僕を地面に投げ倒した。どうやら本気で立てなくなるまでやるつもりのようだ。

右腕の痛みも増す一方で、瑠環のスタミナが切れるのを待つことも難しいだろう。間違いなくこっちが先に潰れることになる。

しかたなく、こっちもとっておきを使うことにする。

視線は相手に向けたまま、こちらの狙いを悟らせないようにする駆け引きは剣道と変わらない。

正面から行くと見せかけて当たる瞬間にさっと躱す。

「ひゃうっ!」

勢い余ってうつ伏せに倒れる瑠環。……今の顔からいったな。なんか今日、似たようなのを見た気がする。

しかし、これで1本取り返した。

今度は、濡れた地面に足を取られて足首を捻ったようだったが、それも気にならなかった。

「お兄ちゃんずるい!」

「そうだよ、悪いか?」

ずるいもんか。頭を使って何が悪い。けれど理屈なんてどうでもいい。説明するのも面倒だった。

「ぐすん、お鼻打った……」

「大丈夫、怪我はしてないよ。……たぶん」

「お嫁に行けない顔になってたらどうしよう」

「その時は僕が……」

「本当!?」

……いい食いつきだな、しかし。

「……誰かいいやつ紹介してやるよ」

「ばかっ!!」

瑠環が飛びかかってくる。僕はそれを受け止めようとして、しかし足に力が入らずそのまま押し倒されてしまう。

……そのまま何秒かが経過した。

雨が冷たかった、濡れた地面が冷たかった、右腕と右足が痛かった。

でも瑠環の重みと体温が心地よかった。

「……だめだ。起き上がれん」

「エヘヘ、あたしの勝ちだね」

「ああ、瑠環は強いな」

頭を撫でてやろうと腕を上げようとしたが、そこに鋭い痛みが走る。

「痛っ……」

「大丈夫?お兄ちゃん?」

瑠環が飛び起きて、心配そうに僕の顔を覗き込む。とはいえ、瑠環も顔も泥だらけで服もずぶ濡れだ。痛々しい姿に、こっちの方が心配になってしまう。

こんな所で寝てたら風邪ひいて死んじゃうよ?早くお家に入ろう?」

「そうしたいんだけどな、さっきから手も足もめちゃくちゃ痛くって動かないんだ」

「わわっ!お兄いちゃん足が変な方向に曲がってるよ!?」

「なんだって!?」

さっき瑠環を避けた時か!?首だけ動かして足元を見ると、確かに右足首が本来あってはいけない方向に向いていた。

神様ごめんなさい。これはあなたに頼ろうとした報いなのでしょうか?

 

その後、瑠環のご両親が慌てて現れたが、命にかかわる程ではないにせよ下手に動かせそうにもないということで、結局僕は救急車で病院に運ばれることになった。

「お兄ちゃんごめんね。……ごめんなさい。……クスンクスン」

「お兄ちゃんは大丈夫だから。後は任せてね」

「ほら、瑠環。邪魔になるからこっちに来なさい」

救急隊員の人とお母さんに促されて瑠環はようやく僕の傍を離れる。

僕には瑠環のお父さんが付き添ってくれたが、救急車が見えなくなるまで瑠環はずっと泣きながら

それを見送っていたという。

その後、右足首の脱臼と右腕の骨にひびが入っていたことが判明し、家に看病してくれる家族もいないため、僕はしばらく入院することが決まった。

そして瑠環はといえば、相撲大会には参加しなかった。

瑠環もあれから体調を崩して熱を出して寝込んでしまったからだ。

僕が病院に運ばれた後、瑠環はご両親にこってり油を絞られたらしいのだが、その最中に目を回して倒れてしまったそうだ。

しかし僕の怪我の原因は、僕が無理な力の使い方をしたことにある。

その経緯は外科のお医者さんの診断とも一致していたから、これ以上瑠環が怒られることはないだろう。

 

そして一夜が明けて、2人の少女が僕の病室を訪れていた。

「あんた、小学生の女の子にやられて入院だって?プーッ、クスクス」

なぜか情報は筒抜けのようで、病室で僕を見るなり吹き出す小春。

「ベッドの上とか似合いすぎ、病床のご令嬢って感じで、なんか散ってく葉っぱとか数えてそう!」

病床の令嬢にギプスなんか似合わんだろ。

「冷やかしなら帰りやがれ!」

1人部屋で良かった。普通の病室だったら他の患者さんに大変迷惑をかけていたことだろう。

「お姉ちゃん、そんなこと言ったら悪いよ……」

そんな小春を嗜めている小春とよく似た女の子が、双子の妹の小和さんだ。

祭りの最中で忙しいはずなのに、まさか2人がこうして病院まで見舞いに来てくれるとは思わなかった。

憎まれ口を叩き合いながらも、来てくれただけで本当に嬉しい。

「えっと、小和さんですよね」

体が動かないので首だけ向ける。2人共私服姿で趣味も似ているようだが、こうして並んでいると確かによく似ているが、見分けが付かない程ではない。

あの時わからなかったのはきっと巫女服の魔力だろう。

「何言ってんの?小和は私よ?」

……隣で何やら小春がボケているが無視することにする。

「この間はその、……妹さんだと気がつかずに迷惑をかけるようなことを言ってしまって、すみませんでした」

小和さんは笑って許してくれた。

その横で小春は、見舞いのバナナを食べていた。

「実は私、あなたのことずっと女の子だと思っていたの。それなのに急にあんなこと言われたからびっくりしてしまって……。後でお姉ちゃんに男の子だって聞いてまたびっくりしちゃったよ」

小和さんは天鷲館学園ではなく、公立の中学校に通っているそうで、こっちは存在すら知らなかったのだが、小和さんの方は僕のことを知っていたらしい。

「そういえば、あんた達は小学校は一緒だったのよね」

「え?そうだったの小和さん?」

「う、うん。違うクラスだったけど、可愛い子が転校してきたって噂だったから、見に行ったことがあったんだ」

小春は隣町にある天鷲館学園系列の小学校に通っていたらしいが、小春に比べて控えめで、気立てがよくて、そして少し体が弱かった小和さんは、実家から近い公立の小学校に通っていたのだという。

なるほど、小学生の頃に見かけていたのは小和さんだったのか。

しかも神社の前で話をしていたときまで僕を女子と思っていたとは、同性に告白されたらそれは確かに"困ります" だろう。

「だって水宮君、確か5年生のときの相撲大会で女子のところにいたでしょう?覚えてないかもだけど、そのときの相手、私だったの」

「あはは……。そ、そうだったんだ」

それは全く気が付いていなかった。その後があまりに衝撃的すぎて、そのとき対戦した相手のことはすっかり忘れてしまっていたのだ。

「小和、その話詳しく」

バナナを2本平らげた小春が、目を光らせて食いついた。これは当分冷やかされそうだ。

「……頼むから黙っていてくれ小春。それは全部流々穂の仕業で、僕も試合の後に気がついて……恥ずかしくてそれ以来、神社も祭りも行けなくなったくらいなんだ」

「わかってるわよ。周りでおかしなことがあったら大体あの子のせいだから。気にしちゃダメよ彩乃ちゃん」

こいつ実は知ってたんじゃないか!覚えてろよ!

冷やかされたことに気づき、僕は心の中で小春と流々穂にいずれ復讐すると誓った。

 

その後、小和さんは花摘みに行くかのようにさりげなく席を外した。気を使ってくれたのかもしれない。

「その足、いつ頃治るの?」

病室で小春と二人きりになって、最初に言葉を切り出したのは小春だった。

「うーん。わかんないけれど、ちょっと時間はかかるみたいだね」

骨が外れた時に腱も傷つけてしまったそうだ。だからギプスが取れても、しばらく激しい運動は控えるようにと言われていた。

当然だが、その間は剣道もできない。

小春はその間も腕を上げていくだろうし、置いていかれることになるだろう。

そうなったら今までのように頻繁に試合もできないかもしれない。

それでも友人ではいてくれるだろうか?

いや、前に進みたい。

「小春……、君のことが好きです」

こんどこそ……。願いを込めて告白をした。

それを聞いた小春の顔は、とても優しかった。

「もっと男を磨いてから出直してきな」

でもその返事は、望んだものではなかった。

届かなかった。でも拒絶ではないその言葉を、自然と心はそれを受け入れた。

「わかった、もっと良い男になってまた出直すよ」

まっすぐにぶつかってくる小春を、今はまだ受け止めることはできないから、僕はもっと強くなろう。

「いつまでも待てないわよ。そうね、私に本数で上回ったらちょっと考えてあげてもいいかな?」

「……あとたったの2本じゃないか」

今のところ僕が15本、小春が16本だから、ストレートに2本勝ちすれば達成できてしまう。

「どうかしらね?その足が治る頃には、もうあんたに負けないくらい腕の差がひらいてるわよ?」

それもそうだ。次に試合をするのが何時になるのかはわからないが、そのとき2本の差は更に広がっていくに違いない。

「大丈夫。ちゃんと追いつくから。そのときは容赦なく揉んで欲しい」

「よしっ!」

小春は満面の笑みを浮かべて頷く。

「そのときは相手してあげるよ。何度だってかかってきな」

その言葉に胸が熱くなった。すごく嬉しい。

「ま、今はさっさと治しなね」

しばらく世間話をして、やがて小春が病室を後にしたとき、不思議と名残惜しいと思わなかった。

告白はうまくいかなかったけれど、僕の心はふわふわと飛んで行きそうなくらい幸せな気持ちだった。

先を進む彼女に追いつくためにも、少しでも早く怪我を治そう。僕は小春との会話の余韻を愉しむように目を閉じた。

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ふぁるぷだいありぃ その11

                  おことわり

この作品は、セガから発売されているオンラインゲーム。ファンタシースターオンライン2を元に、勝手な解釈と設定を持ち込んで書かれた二次創作物です。

そういったものが苦手という方や、不愉快に思うファンの方もいるかと思います。

まして、作者は素人であり文章もあまり読みやすいものではありません。全ては作者自身の自己満足のために書かれたものですので、本来読むことをお勧めはいたしません。

しかしそれでも、読んでやろうじゃないか!!という方、その後発生する感情を自己責任で処理するという事で、読んでいただくようお願いします。

 

 

 

問6、下線部⑥I'm not the one who did it.を訳しなさい。

えっと、『私はやってない』かな?ノリとしては『俺は無実だ!』と書きたいところだけれどそれだと、I'm innocent. になるからな……。

どうせ答え合わせも新学期が始まってから自分ですることになるのだ。誰も見ることのない問題集でウケを狙っても仕方がない。僕はその問題集の最後の空欄を模範解答で埋めるとそのページをとじた。

「……まぁこんなもんでしょう。後は夏休みを楽しみますかね」

机の脇には今日までに終わらせた課題の問題集が山になっている。その一番うえに今終わらせた英語の課題を積み上げた。

これで夏休みの課題は全て終わりだ。学期末に渡されたかつてない問題集の量を見れば、高等部は中等部よりも確かに課題そのものの量は増えているのだが、日記や植物採集といった日々手間のかかるものは無くなったため、結果的に前より早く終わらせてしまうことができた。

僕は昔から夏休みの宿題を、できるだけ早いうちに終わらせてしまうようにしていた。

それを聞いた友達からは真面目だとか言われるけれど、これには我が家特有の事情がある。それは父親が海外にいて夏休みにそっちに遊びに行くことが多かったためだ。

重くてかさばる宿題の問題集の束を抱えて行くくらいなら持っていきたいものは他に沢山ある。

それに工作や自由研究といったものは帰ってきてから慌ただしく済まさなければならなかったことを思い出せば、問題集のみという高等部の宿題はむしろありがたいくらいだ。

もっともそれも小学生までの話で、アークス学園に進学してからは来たければおいで?という感じになり、僕もこの2年は向こうに行っていない。

そして今年も行くつもりは無かった。夏休みの間にやることがあるからだ。

まずは夏休み明けに始まる学園祭の準備。実行委員になってしまった僕はクラスの出し物だけでなく全体の運営においても役割が与えられている。盆明けからはほぼ毎日学園に行くことになるだろう。

それにもっと大事なこともあるし……。

ふと、時計を見て9時を少し回ったところであることを確認したところで、玄関の重いドアが開く音とそこに付けられたカウベルが鳴り響いた。

やがてとてとてと階段を駆け上がる足音がして、それは部屋の扉の前で止まった。チャイムを鳴らさずにこうして家に入ってくる人間は友人を含めて割と多いが、足音の調子からいってそれが瑠環であることは間違いないだろう。

「お兄ちゃん、起きてる?入ってもいーい?」

思った通り瑠環の声だ。

ほんの数日会わなかっただけだというのに、その声は乾いた砂に水が染み込むように僕の中に入ってきて、たった一声だけだというのに僕の胸が暖かくなった。

「いいよ、おいで」

ドアの向こうから聞こえた声にそう返す。

入ってきた瑠環の顔は前に見たときよりも少し日に焼けていた。

「おかえり、瑠環」

「ただいま、お兄ちゃん!」

何より大事なのは、この夏はこの子といっぱい遊ばないといけないということだった。

 

瑠環の家の改装は来月までかかるらしく、瑠環はまだしばらく家で預かることになっている。

絶対というわけでもないが、学園から近く気心も知れたうちは何かと都合が良いらしい。

夏休みが始まってここ何日かの間は、瑠環は両親と共に祖父母の所に行っていたのだが、瑠環も夏休み中まったく学園に行かなくていいわけではない。

数学とか英語とか、期末テストで芳しくなかった学科の補習が彼女を待っているからだ。

 

「えへへ、、お兄ちゃん久しぶり」

「久しぶり、まあたったの5日なんだけど」

「5日もだよ!お兄ちゃん。ちゃんと朝起きれた?ご飯も食べてた?」

まったく今時母親でも気にしないようなことを聞いてくる。それが恥ずかしくも嬉しかったりするのだが、照れ臭いからそういった感情は表面に出さないようにして、僕は問題ないとだけ答えた。

「お兄ちゃんお勉強してたんだ。やっぱり高等部の宿題って中等部より多いのかな?」

「まあね。でもこの通り、課題はさっき終わったよ」

そう言って机の脇で30cmくらいの高さに積まれた課題で出された問題集を叩いてみせる。

「えーっ、そんなに!?でもお兄ちゃんもう終わっちゃったんだ。すごいなー!」

「そんなことないよ。課題は一学期の授業の終わり頃から少しづつ配られていたからフライングで始めてたしね」

さすがにこれだけの量を1日で出されたら持って帰るのが大変だ。これらは終業式前日までに少しずつ配布されていたから、実質は2週間くらいかけて終わらせたことになる。

「僕のことより瑠環は……って、聞くまでもないか……」

案の定進んでいないのだろう。気まずそうに瑠環は視線を逸らしている。瑠環も真面目に取り組んではいるのだろうが、その攻略が芳しい状況でないのは毎年のことだから容易に想像できる。

もっとも、瑠環はゆっくり時間をかけながらでも投げ出すことなくきっちりやる子なので僕も心配はしていない。

それでも少しは様子を見てあげることになるのだろうけど……。

「けれど、随分早いんじゃないか?10時頃に出ようかって話をしていたのに」

今日は一緒に買い物に行こうと約束をしていたのだ。ちなみにこれは学園祭の準備に関わることであってデートとかではない。

「だってあたしのお洋服、お兄ちゃんの家にほとんど置いたままなんだもん」

なるほど。確かにそうだけれど……。

「それじゃあ、あたし着替えてくるね」

今の瑠環はシンプルな白いTシャツに膝丈のハーフパンツとラフな私服姿だ。

「うん?そのままでいいんじゃないの?」

ちょっと買い物に行くのにおしゃれはいらない。狭い店の中だと突っかかりの少ない動きやすい格好が望ましいと思う。例えば今のような。

「えへへ、ダメなの!」

嬉しそうに自室へと消えていく。瑠環の私服をはじめとするほとんどの私物は今うちに置いてあるから、身支度はもともとうちでするつもりだったのだろう。

それに完全に瑠環はデート気分のようだ。

「それじゃあ、しょうがないな」

しかたなく僕もそれなりに身なりを整えようと、僕は洗面所へ向かうために部屋を出た。

 

「わ、お兄ちゃん!洗濯物溜まってるじゃない!しょうがないなぁ」

向かった先で一足先にそこにいた瑠環が声を上げた。

「一昨日洗ったよ。一人分だし毎日洗濯機回すのがもったいない気がして」

「う、うん。そうだけど……」

やはり納得いかなかったのだろう。瑠環はかごに溜まっていた洗濯物を洗濯機に放り込むとそのスイッチを入れる。

動き出す洗濯機。これから出かける予定だったのだけれど、まぁいいか。

帰ってから干しても今の季節充分乾くだろう。

その後瑠環は部屋には行かずにキッチンへと向かった。どうやら自分がいなかった間、僕がどんな生活をしていたのか心配になったらしい。

「わわ、お兄ちゃん!冷蔵庫の中空っぽだよ!ちゃんと食べてたの!?」

「それは毎日食べきる分しか用意しないしね」

「う、うん。そうだけど……。あ、あたしのアイス食べちゃった!?」

「あ、ごめん。それは食べちゃった」

「ぶー、しょうがないなぁ」

きっちり帰りにアイスを買って帰る約束をさせられた。どうせ夕飯の買い物も済ませるつもりだったから構わないけど、瑠環が好きなのは2Lの徳用アイスだ。瑠環は夏休みの間両親の元へ戻る日も多いだろうから消費も進まないだろうし、その間我が家の冷凍庫を圧迫することになる。

「牛乳も卵も無い……帰りに買わなくちゃ」

瑠環は冷蔵庫だけでなく家中を見て回って買い物メモを作っているようだ。どうやら帰りの荷物は相当多くなりそうだった。

 

人によりけりなのだろうが女の子に比べれば男の準備は時間がかからない。

僕は比較的新しい黒のポロシャツと薄茶の綿パンといった普通の出で立ちで、髪型をいじるわけでなく、つまりはいつもと大して変わらない。

女の子とデートとかするならもう少し何か考えるべきだろうか?

それに対して、しばらくしてから現れた瑠環はといえば、瑠環はフリルのついた黒のワンピースに、黒のレギンスを組み合わせたデート気分全開の装いだった。僕が見たことないのだから最近買ったものだろう。スカートの下にレギンスを穿くのは出かける時の瑠環のいつものスタイルだが、鎖骨から肩まで出しているのは瑠環には珍しい大人っぽいものだ。背中も肩甲骨が見えるくらいまで開いている。

「えへへ、どうかな?」

大きな麦わら帽子を手にくるりとその場で回ってみせると、長い二つのお下げが少しだけ跳ねた。

「う、うん、いいんじゃないかな。瑠環……少し焼けた?」

とても似合っていると思う。けれど、素直にうまく言葉にできない僕はつい気になったことを口にしていた。

「うん。おじいちゃんの畑仕事手伝ってたから……ひゃあっ!?」

どうやら瑠環は今になって自分の身体が二の腕半ばから綺麗に色が分かれていたことに今になって気がついたようだ。

「き、着替えてくるっ!」

「あ、うん」

本当はそのままでも十分可愛いと言いたかったのだが、止めるまもなく瑠環は部屋へと飛び込んでしまった。

 

「ぐすん、恥ずかしい……」

またしばらくして部屋から出てきた瑠環は、さっきよりもシンプルなデザインの白いワンピースだった。日焼けの跡が見えないかしきりに袖や裾を気にしている。

「近いうちにプールか海に遊びに行こう。そこで綺麗に焼き直せばいいよ」

「本当?やったぁ」

「補習が終わったらね」

一応機嫌は直ったようだ。無邪気に喜ぶ瑠環の頭に置いたままになっていた麦わら帽子を被せると、僕は玄関へと踵を返した。

「そろそろ行こうか。軍資金は?」

「うん、ばっちり!」

畑仕事を手伝ったご褒美にしっかりとお小遣いを貰ってきたらしい。そのために思いがけず日に焼けてしまったようだが、この夏を楽しむためにはそれなりに資金は不可欠だ。遊びに行くのにも必要だし、何より二学期初めの学園祭に向けての準備がある。

今日もそのために買い物に行くのだ。

 

さあ行こう!ガンプラを買いに!

 

いざ家を出ようとしたところで、洗濯機が止まるブザーが鳴った。

 

 

 

                あとがき

 

なんですかね。この甘甘な生活は。爆発すればいいって思っちゃいますよね。

本当に書きたいのは血湧き肉躍る、かっこいい戦闘シーンなのにそこまで行くまでになんかこんなのばっかりです。

瑠環ちゃんばっかり登場なのもチームの小説としてはよろしくない……。

こっちが書き上がる前にチム面も入れ代わっていくし……。

学祭編には今年中に入れるのでしょうか?自分でも心配です。

 

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特命風紀委員みーこ

                      おことわり

この作品は、セガから発売されているオンラインゲーム。ファンタシースターオンライン2を元に、勝手な解釈と設定を持ち込んで書かれた二次創作物です。

そういったものが苦手という方や、不愉快に思うファンの方もいるかと思います。

まして、作者は素人であり文章もあまり読みやすいものではありません。全ては作者自身の自己満足のために書かれたものですので、本来読むことをお勧めはいたしません。

しかしそれでも、読んでやろうじゃないか!!という方、その後発生する感情を自己責任で処理するという事で、読んでいただけると嬉しいです。

 

 

 

『こちらブレイバス。これよりミッションを開始する。各セクション、状況を報告しろ』

『こちらカスタムレイ03です。Gを確認しました。目標到達までおよそ500秒』

『バリスタリーダーよりブレイバスへ。動員が遅れた。現在移動中』

『カスタムレイ12からブレイバスへ。接触して時間を稼ぐ!』

『ブレイバス了解。無茶はするな?』

『ああ、まかせろ!行くぜBaby!!Halo!! haw are you?』

『ブレイバスよりバリスタへ。時間が無い。配置はまだか?』

『こちらバリスタリーダー。あと30秒くれ!』

『急げ!』

『こちらカスタムレイ12。すまん、限界だ、撤収…、くそっ!だめだ!Mに補足された!』

『大丈夫か!?すぐに援護を送る!』

『いや、もう遅い。俺に構わず任務を遂行してくれ』

『すまない。カスタムレイ12。君はいい仕事をした』

G再び移動を開始。到達まであと300秒』

『こちらバリスタ、配置完了!』

『よし!突入しろ』

『了解!GOGOGO!!』

『バリスタ02、目標発見……、クリア!』

『バリスタ05、対象確保!』

『お、おい!みんなこっちへ来てくれ!』

『バリスタ06か?どうした?』

『こ、これを見てくれ……』

『ん?これは!?なんてことだ!?』

『こちらブレイバス。バリスタリーダー、どうした?トラブルか!?』

『バリスタリーダーからブレイバス。すごい数だ……。こちらの装備では手に負えん。指示を乞う』

『……了解。検討する。少し待て』

『カスタムレイ03より、GおよびM、あと120秒で接触します』

『こちらミズーリ02、配置完了……。ふぁ~眠い……』

『同じくミズーリ03、配置完了やで!』

『きたか!!バリスタ、部室の窓は開けられないか!』

『くっ、駄目だ!暗幕の裏に板が入っている。そう簡単には……くそっ、これが限界か』

『ミズーリ03、目標の窓は確認できるか?確認できたらそこからグレネードを叩き込め!外すなよ!』

『は、はい!?あれ、腕一本分の隙間しかないやん!そんな無茶な~』

『いいから、やれ!・・・全員、耐ショック、耐閃光防御!!』

『もう、どうなっても知らんで!?』

…。

……。

…………。

『やった!成功だ!目標は完全に消去!目標は完全に消去だ!!ひゃっほー!!」

『よくやった!ミズーリ03!後でビールをおごってやる!』

『や、うちまだ中学生やから。っていうかあんたもまだ高校生やろ!』

『カスタムレイ03より作戦中の各員へ。G、接触します』

 

写真部。

アークス学園に勤める教師であり、生徒指導を担当するゲッテムハルトがそう書かれたプレートのドアを開けると少し焦げたような臭いがした。

「あ?なんだ?焦げくせーな?」

「あ、ゲッテム先生、ちーっす」

写真部は文化部の中でも高い実績を上げている部活動で、そこそこ広い部室を割り当てられている。

教室と同じ広さのそこには10名程の男子生徒。その中の半数は先ほど突入した風紀委員会の実行部隊だ。その中のひとりがゲッテムハルトを見て挨拶をする。

「あん?お前、写真部じゃねーよな?お前ら風紀委員か?」

「ういっす。先生も巡回っすか?」

「まぁな」

鋭い視線で周囲を見回し、軽く部室の中を物色して苛立たしげに舌打ちをする。

この学園の写真部は影で生徒の写真を売買することで、少なくない利益を上げているという噂があった。

生徒指導部でも度々問題に上がってはいたものの確固たる証拠も掴めていなかったため、これまでは手を出せずにいたが、今日あたり写真部が撮りためた写真をまとめて現像するという情報があったために抜き打ちで査察に入ったのだ。

しかし目に付く限り、郷土の風景や、学園の日常を写したもの、又は特撮を用いてでっち上げたとみられるUFOUMAなどの写真ばかりで、生徒が売買するようなものには見えない。

「なんだい?この匂いは?」

ゲッテムハルトに少し遅れて入ってきたのは同じく生徒指導の体育教師のマリアだ。

「実はさっき証明機材で暗幕の一部を焦がしてしまったんですよ」

「おいおい、ぼやとか洒落になんねーぞ」

「それでこの匂いかい。大事には至らなかったみたいだが、気をつけるんだよ?今度から何かあったらすぐ報告するんだ。いいね?」

「はい、すいません」

写真部の部室の中はフィルムの現像を行うために一部が暗幕で覆われている部分があった。

「ああ、そっちは暗室になってるんで……」

写真部部長の男子生徒が怯えたように小さな声で言う。なぜかこの部長、ゲッテムハルトが入ってきた時には既に涙目になっていた。いや、この部長だけでなく、写真部の部員全員がそんな感じである。

「大丈夫、そのへんは心得てるよ」

いくら傍若無人なゲッテムハルトやマリアであっても、一応教師である。生徒の作ったものや作品を理由もなく壊したりするような真似はしない。

手作りと思われる暗室の入口、二重になった幕を慎重にくぐってその中に入る。

「すごい数だね。いつもこれだけの数現像してるのかい?」

「いえ、最近はこの部でもデジタルがメインです。けれど、フィルムがいいって部員も多いですからそれで。でも現像するのには手間かかるからまとめてやるんです。それで量ふえてしまって」

「なんだいこりゃ。ここにあるネガ、全部まっしろじゃないか」

「今さっきのトラブルでちょっと……。どうも光が当たっちゃったみたいで」

「「ちっ!!」」

マリアとゲッテムハルトが揃って舌打ちをしたので、写真部部長が怯えたように身をすくませる。

「……ふぅん。まぁしょうがないねぇ」

マリアもゲッテムハルトからもそれ以上の言及はなかった。そこにあるのが光で使い物にならなくなったフィルムばかりだとわかると暗幕の外に出る。

「特に問題は無い……か?まぁいいだろう。面倒がないならな」

「この学園の生徒はみんな真面目ですからね。我々風紀委員も仕事がありません」

「ふん。まぁ、そういうことにしておいてやらぁ」

そう言って部室を出ていくゲッテムハルト。続いてマリアも退出しようとして、ふとその場にいた風紀員に向かって言った。

「そういえば、さっきあたしらの前で突然ウィッキーさんの真似をしてきた馬鹿がいたんだが、あれもあんたらの仲間かい?ひどい発音だったから英語のうらら先生のとこに補習にやったんだが」

「いえ、知らないですね。……ところでウィッキーさんって誰なんですか?」

「ふむ。あんたたちの世代じゃ知らないだろうねぇ」

マリアが退出すると、その場にいた風紀委員は揃って校舎に向かって手を合わせた。

すまないカスタムレイ12……。君の勇敢な行動を僕たちは決して忘れない。

諜報部隊カスタムレイは風紀委員以外の生徒で構成され、普段から風紀委員との関わりを知られないように行動している。

その役割は情報収集の他、風紀委員の実働部隊の準備が整うまでそれと分からないよう教職員を妨害したりなど影ながら風紀委員をサポートするのが彼らの任務だ。

『こちらカスタムレイ03、GおよびM警戒範囲外に出ます。戻ってくる様子はありません』

『よし、ブレイバスより全メンバーへ、作戦終了。みんなよくやってくれた!速やかに撤収しろ』

『『『『『了解!!』』』』』

 

「ご苦労だったなミズーリ3。いや、みーこ」

風紀委員会室では、冷えた350mlのペプシの缶を手に、高等部の1年生して風紀委員長であるジョウがよみねこが来るのを待っていた。

他のメンバーの姿はない。どうやらジョウは用があって彼女だけを呼び出したらしい。

よみねこ(通称みーこ)は風紀委員会に所属する中等部3年生。

ジョウは高等部の1年生ではあるが、中等部から風紀委員として多くの作戦に参加してきた実績が認められてこの春から風紀委員長の任についている。

さっきまでブレイバスのコードネームで作戦の指示を出していたのも彼女だ。

「会長ごちになります!」

よみねこはペプシ受け取るとプルタブを開け喉を鳴らしてそれを煽った。

「ぷはーっ、最高ですわ!」

「うむ。仕事の後の一杯は格別だな」

そう言ってジョウも自分の分を手に取ってそれを掲げる。二人はカツンと小さく乾杯すると残りを飲み干す。

アークス学園では高等部、中等部と生徒会や部活動はそれぞれ別々に分かれているが、委員会は合同で運営されている。

それは図書室や保健室、購買など共有施設の運営の為だが、学内の秩序を守るために中高の枠組みを超えて活動する風紀委員会もそんな数ある委員会の中の一つなのだ。

「しかしよくやってくれたな。おかげで今週も処分者ゼロを達成できそうだ」

「まったくや!30メートル先のちっさい隙間に矢を通すなんて真似、そうそうできんで!?」

ミズーリ3、よみねことミズーリ2、フェリオがあの場にいたのは本来写真部が逃走を測った場合。もしくはどうしても間に合わず、教師を強引にでも妨害しなければならない場合に備えてのことだった。

よみねこは弓の、フェリオは射撃の名手だ。

よみねこが使ったのは、矢の先端部分に科学部が制作した閃光弾を取り付けたもので、あのとき、大量のネガを隠す時間が無いと判断したジョウは、わずかに開けることができた窓の隙間から閃光弾を投入して現像中のネガを真っ白に判別出来なくしてしまおうという作戦を指示した。

距離はあったが近づくことは許されなかった。

学園内に火気、爆発物を持ち込むことは校則違反だ。そのためよみねこは学園の敷地外からの狙撃を求められたのである。

もしよみねこが外していたならば、次の矢はフェリオの銃弾と共にゲッテムハルトに向けて放たれていただろう。

「しかし、今日は危なかったわー。ゲッテム先生達はなんで写真部が今日現像始めることがわかったんやろ?ピンポイントで狙ってきましたよね?やっぱ部員の密告かなんかやろうか?」

「ふむ……。それも無いとは言えないが、今回は違うだろうな。実は写真部が今日の為に使う資材を仕入れたとき領収書を業者に忘れてきたらしくてな。それで業者が学園側に問合わせてきたのだそうだ。そこから生徒指導部は近々写真部が現像を始めるだろうと網を張っていたのだろう。まぁ、写真部の損失は大きいだろうが、我々が気に病むことじゃない」

「なるほどなー。もっともうちは全く同情はしてないんやけれど……」

写真部が影で売買しているのは主に学園内でも人気のある生徒の写真だ。その中には当人の承諾を得て撮ったモノもあれば、隠し撮りをしたようなモノもある。

よみねこも以前写真を撮らせてくれと頼まれたことがある。

最初のうちはおとなしめのポーズで気分良く撮られていたのだが、次第に要求されるポーズはグラビアアイドルのような際どいものにエスカレートしていき、カメラが下から覗き込むような角度になってきたところでその写真部委員をおもいっきり蹴り飛ばしたということがあった。

そのときは画像のデータの消去と、パフェとラーメンを奢らせることで許してやったのだが、彼らがそれで懲りていないことは知っていたし、彼らが写真の売買で稼いでいる額は月販で諭吉二桁になるとか言われているのだ。大量のフィルムを失わせた事も気にしていない。

 

「さて、話は変わるがお前に来てもらったのは他でもない。次の仕事の話だ」

「はい?」

「お前は今度の相撲大会には参加するのか?」

「……はい?」

相撲大会はアークス学園中等部で1学期の終わりに各クラスからの代表と、自ら出たがるもの好きが集まって毎年開催されている行事だ。

正直よみねこは興味なかった。

この時期の体育の授業が相撲になったりして、いい迷惑だと思っていたくらいである。

「そんなの出ませんよ、うちのクラスからはみゅらりんが出るの決まってるし」

幸いにも今年のよみねこのクラスには、去年の優勝者がいたため代表の出場者を決めるための予選もくじ引きもじゃんけんも行われなかった。

「そうか、お前はあのポニテと同じクラスだったな」

風紀委員ではミュラを何かと騒動を起こしやすい生徒として要注意人物に指定していた。よみねこにとって良い友人ではあるが、騒動を起こすという点で異論はない。

「実は今度の相撲大会絡みで大規模な賭博が開催されるという噂がある」

「ほんとこの学校は面白いこと考えるやつ多いなー」

写真部による隠撮り写真の案件が片付いた矢先にこれである。

よみねこは武道の名門校として全国からなの知られるアークス学園に入学したとき、そこに通う生徒は部活動や勉学に青春を燃やす真面目で汗臭い連中が多い学校を想像していた。それはそれで当たっていたのだが、ここにはそれと同じくらい真面目に馬鹿やる生徒も多かった。

「うむ。我々風紀委員がこうして影でもみ消して回らなければ処分者は後を立たないだろうな。そうなれば、学園からの部活同や生徒への引き締めが強くなり、貴重な技能や個性が後世に伝えられることなく、結果この学園は凡庸な田舎の学校となり廃れていくことになるだろう」

ジョウの言うことはあながちも冗談でもない。

例えば先の写真部にしても、撮影だけでなく現像も自分たちで行うばかりか、機材の開発などもやっているらしい。そんな技術を持つ彼らだであっても、もし写真の売買が明るみになり処分を受けていたならば、規模と予算を縮小され、それらの技術は継承されることはなく廃れていくことになったかもしれないのだ。

ジョウの言葉によみねこは深く頷く。

風紀委員会が危険を犯してまで学園側を出し抜き、事態の収拾に当たるのはそれを防ぐためだが、実のところみんな楽しいからやっているのだろうとよみねこは思っている。それはジョウだって例外ではないはずだ。

特に今日のような生徒指導部を出し抜くミッションは、日常では味わえない高揚感をもたらしてくれる。ミッションが失敗すれば風紀委員も学校側から相応の処分を受けることは間違いない。

先のミッションで彼女が放った閃光弾は写真部と仲間を救った。記録には残らないし、武勇伝を語ることもできないが、困難な状況を乗り越えたこの達成感と満足感は他では味わえないだろう。

これだから風紀委員はやめられない。

次はどんなミッションが舞い込んでくるのだろうか?期待に胸をふくらませるなという方が無理なのだ。

「そこでお前に潜入捜査を頼みたい」

「潜入捜査!?」

潜入捜査という期待以上に魅力的な言葉に目を輝かせるよみねこ。

「身分を偽って賭博開いてる組織に侵入するんやな?そりゃ面白そうやわ!」

自然とインポッシブルで大作戦な音楽を脳内で再生しながら、ドイツ製の小ぶりな自動拳銃を片手に、変装して組織に潜入する自分の姿を想像してしまう。

面白そうだ。ぜひやりたい!

しかしジョウの次の言葉が、よみねこの想像をを木っ端微塵にぶち壊した。

「いや、まわしをつけて相撲大会に参加しろ」

「えーっ!そっちー?」

「そうだ。お前がまわし姿で悪戦苦闘してる姿をぜひ見たい……。と、いうのは建前で、実際に重要なのは裏で行われる賭博自体ではなくて、それによって八百長が行われるかどうか、その有無を探りたいというのが本音だ」

「いま、本音と建前を逆に言いましたよね?間違えましたよね!?」

ジョウはコホンと小さく咳払いをひとつして椅子に座り直すと、その鋭利な相貌をよみねこに向けて言った。

「まあ、聞け。ぶっちゃけて言うと賭博の方はどうでもいいんだ。ほうっておけばいい」

「はい?いいんですかそれほっといて」

悪を見逃すというジョウの発言に、ジョウのを闇落ちを疑った。まぁ、それはそれで面白そうだと思いながら、ジョウの話を聞く。

「あのなみーこ。俺たちはプロじゃないんだ。もちろん道徳的には悪いことかもしれないが、学校行事の相撲大会で学生同士、誰が勝つか負けるかで、焼きそばパンや妖怪メダルを賭けるくらいどうでもいいじゃないか」

「はぁ…、まぁそうですねー」

確かにそうかもしれないが、どこか釈然としない。そんな様子のよみねこを置いてジョウは話を進める。

「しかし、八百長はまずい。お前は中等部の相撲大会が実は生徒会主催で催されているのは知っているか?」

「え?それって生徒による自主開催ってことですか?なんでわざわざそんな面倒な事を?」

よみねこもこのアークス学園入学して3年目になるが、全くの初耳だ。

正直、今すぐ生徒会室に大会なんてやめるように殴り込みに行きたい。

「疑問に思うのも仕方がないが、これにはやむを得ない事情があってだな。この学園は武道系の部活動に関しては全国でも屈指の強豪校だ。まぁそれらは専用の練習場と充分な予算が確保されている。しかし、この学園にはそれ以外の部活動は存在するが、その数の多さから予算はもちろん、活動場所に関しても充分とは言えない。まぁ、そういうわけで部活動同士で色々揉めるわけだよ」

「まさか、それを収めるためにやってるんですか?」

「そうだ。揉め事は相撲で決着をつけろ。それがこの学園の暗黙のルールだ」

「うち、入る学校間違えたかもしれへん……」

「まぁ地元の風習みたいなものでな。この学園もそれにあやかっているわけだが、他所から来た生徒の中にはお前みたいに知らない者も多いだろう。それで中等部では、わざわざ公の場を用意しているというわけだ。だから八百長があるとかの噂はまずい。正々堂々真剣勝負で決着をつけるという定義が崩れれば、大会の存在意義を失う。それで下手に学園側からの横槍で大会が開けなくなると中等部生徒会としてはいろいろ面倒になるんだよ。これまでそれで納得してきた生徒たちも騒ぎ始めるだろうしな」

「学園に大会やめさせる動きがあるってことですか?」

「確証はないがな。お前も去年の結果は知っているだろう?」

こくこくと頷いた。

去年優勝した生徒はよみねこのクラスメイトで友人だ。

応援にも行っていたからもちろん知っている。

相撲に興味のなかったとはいえ、体格で勝る相手を次々破っていく友人をそのときは熱くなって応援したものだ。

結局その友人は女子の部で優勝したばかりか、その後悪ノリで行われた男子の優勝者との対決にまで勝利している。

「まさか、去年の大会で不正があったと言うんですか?」

「いや、それはないな。そんなことをして誰が得をする?」

「ですよねー」

「しかし、あまりにも衝撃的な結果に、当時も八百長の噂がたったのも事実だ。まぁ、それはすぐに収まったんだが、ここへ来て大規模賭博の噂だ。再び大会に不正があるのでは?という疑惑が浮上してきたとしても仕方がない。それに、去年の大会の後、相撲部ではモチベーションは下がり、しばらく成績不振が続いた。しかもあのポニテに破れた男子の主将も部を辞めている。有力選手を失い学園にとっては手痛い損失だったろうな。まぁ、この学園の相撲部は他の武道系と違って全国的にはそれほどレベルが高くはないんだけどな。全国大会に出場しているのも近隣に相撲部がある学校がほとんど無いからだしな」

「はぁ…」

どこか釈然としないが、学園にとって相撲大会を止めさせたい理由があるのは理解した。

「そこでお前の出番だ」

「はぁ…?」

「お前ちょっと出場して優勝して来い」

ジョウの無茶振りはいつものことであまり言いたくはなかったが、今はこの言葉を言わずにいられなかった。

「はい!?何無茶いってるんですか!?」

「後で何言われてもうちから優勝者を出しておけば黙らせることができるからな。行っただろう?揉め事は相撲で決めろって。勝者こそが正義だ」

「だったらみゅらりんうちに勧誘したらどうですか?あの子今も帰宅部で委員会もやってないし。だいたいなんでうちが」

「あのポニテについては学園内のあらゆる勢力が不干渉だ。奴はその立場を実力を持って手にしている」

「何やってるんあの子……」

学園中に喧嘩売ってるんじゃないかと心配してしまう。

「風紀委員の中等部で実働部隊にいるのはお前だけだ。それにお前も結構名前が知られてるからな。代表として申し分ない。だから、な?頼んだぞ!みーこ!」

「もう……。どうなっても、知らんよ?」

こうなっては何を言っても無駄だろう。よみねこは諦めて肩を落とすと、少しはまじめに稽古してみようかと真剣に考えていた。

 

 

 

大会当日、よみねこは必死で頑張った。全力全開、死力を尽くして試合に臨み、そして燃え尽きて散った。

「うぅ……。うち、もうお嫁にいけへん……」

会場である屋外相撲場は中等部の生徒だけでなく、高等部の生徒も大勢押しかけ例年に倍する観覧客が集まっていた。

昨年友人が成した活躍のせいか、もしくは件の大規模相撲賭博のためか。どちらにしても注目度が高まるのはよみねこにとっては不幸でしかなかった。

「あっはっは!いい試合だったぞみーこ!」

ジョウは見たいものが見れて満足したのだろう。晴れやかな笑顔で、よみねこの丸まった背中についたままの土を払った。

「すみません会長……。期待に答えられませんでした」

「これでいいんだよ。不正に縁のない風紀委員のエースが本気になって勝負に挑んだ。結果はどうあれ、本気ってのが重要だったのさ。そのおかげでオレや生徒会長は大会に不正は無いと胸張って言えるんだよ。それは他でもないお前のおかげだ」

その時試合の続いていた会場の方から、小柄な選手が大柄な相手を破り喝采が上がった。

「ふむ。早々に相撲部勢が全員敗退か・・・。今年も荒れたな。みーこ、大会後一騒動あるかもしれないからいつでも出動できるように備えておけ。ま、その格好のままでも俺は構わないがな」

今年も番狂わせが起こりまくっているようだ。ひと試合ごとに声援、歓声、悲鳴が巻き起こる。それらは時間が経つにつれてどんどん大きくなり、会場の盛り上がりは凄まじいものだ。

大会後は余韻で浮かれ、ハメを外す生徒もいるだろう。……これで何もなかったらこの学園に風紀委員会などありはしない。

「……嫌です。着替えてきます」

小走りで走り去っていくよみねが見えなくなったところでジョウの携帯が鳴った。賭博を捜査させている風紀委員からだ。

「俺だ。……例のモノを見つけたか!?いや、今は手を出すな。引き続き調査を頼む。取引の時間がわかり次第連絡を、……任せたぞ」

ジョウは電話を切ると大会に目を戻した。依然盛り上がる会場の様子に小さく息を吐いて目を細める。

今日は長い夜になりそうだ。

 

 

 

             あとがき

この話は以前よみねこさんに書いていただいた、小説にリンクするように書いた番外編です。

そちらの話はカテゴリー、頂き物小説から読めますのでそちらからぜひ!!

 

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イラスト頂きましたので・・・

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瑠環さんからの3ヶ月遅れのバースデイプレゼント!
ミュラのイラスト頂いちゃいました。ありがとうございます。

そこで簡単にショートストーリーを考えてみました。

縁側に座って一人何やら呑んでいるミュラ。そこにミュラの家に住み着いている神様、つくねが声を掛けて……。

情景などは各自の妄想で補ってください。

 

「なんじゃ?誰かと思えばミュラ坊か」

 

「あ、つくね様」

 

「良い香りがするのぅ。酒か?あのミュラ坊が酒を嗜むようになったとは年月が経つのは早いものじゃ」

 

「そんなわけないです。わたしはまだ14ですよ?これは裏のおじいちゃんにもらった甘酒です」

 

「……怪しいの?どれどれ儂も一杯……ふむ美味い。しかし明らかに酒精が入っておるな」

 

「なかなか美味しいですよ?ね?つくね様」

 

「……まぁ良いか。その格好は神楽の衣装かえ?馬子にも衣装じゃな。誰かと思ったぞ」

 

「つくね様、ひどいです。誰のために稽古してると思ってるんですか」

 

「もうすぐ祭りか。ふん。あんな退屈なもの見せられてもの。まだ奉納相撲を見ている方が面白い」

 

「えーっ!つくね様のためにやってるのに!なんで好きでもないのにやらせてるんですか?」

 

「人の世が変わっていくように、神の趣向も移ろうものじゃ。しかし近年になってそろそろ止めようかと思っておったら、県の無形文化財に指定されたとかで今更止められんと言いおる。まったく、誰に捧げるための神楽かわからんのう」

 

「なんですかそれ!毎年みんな一生懸命練習してるのにひどいです」

 

「何百年も同じものを見せられればそりゃ飽きるわい。しかし、今年はお主が舞うのであれば少しは楽しめるかの?期待しておるぞ?」

 

「やめてください。面白いことなんてしませんよ?」

 

「つまらん奴になったものじゃ。以前のお主なら喜々として皆が驚くようなことをしでかしてくれたものを……。儂の知ってるミュラ坊は、どこに行ってしまったのじゃ?」

 

「……わたしも成長したのです」

 

「そうかの?あまり変わってるようには見えんがの?」

 

「もうつくね様の背丈だって追い越しましたし、身体も中身も昔のわたしでは無いですよーだ」

 

「ほほう?どれどれ?」

 

「ひゃっ!?つくね様ってば、触り方、触り方っ!?」

 

「ふむふむ、確かにいい締まり具合じゃ。鍛錬は怠っていないようじゃの」

 

「つ、つくね様、いったいどこ触ってるんですかっ!?わたしの成長具合見るんじゃないのですか!?」

 

「……ふん。人などあっという間に歳をとって行くものじゃ。お前が成長したところで儂はちっとも面白くなんかないわ」

 

「……つくね様、寂しいんですか?」

 

「……手間の掛かる坊がいくらでもおる。そんなわけなかろう」

 

「あはは、つくね様可愛いです」

 

「ミュラ坊のくせにからかうな。酒じゃ、もう一杯よこせ」

 

「はい。つくね様。……わたしは、つくね様のお傍にずーっといますから、大人になっても、お婆ちゃんになっても、死んじゃってからもずっとずっと傍にいます。何とかしていてあげます」

 

「……馬鹿者。とっとと嫁に行け」

 

 

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ふぁるぷだいありぃ その8.1

                         おことわり

この作品は、セガから発売されているオンラインゲーム。ファンタシースターオンライン2を元に、勝手な解釈と設定を持ち込んで書かれた二次創作物です。

そういったものが苦手という方や、不愉快に思うファンの方もいるかと思います。

まして、作者は素人であり文章もあまり読みやすいものではありません。全ては作者自身の自己満足のために書かれたものですので、本来読むことをお勧めはいたしません。

しかしそれでも、読んでやろうじゃないか!!という方、その後発生する感情を自己責任で処理するという事で、読んでいただくようお願いします。

 

 

 

女の子が弱いなんて嘘だ。

誰だこんなひどい嘘を言いだしたのは。

昨今の草食系男子、肉食系女子の増加が話題となっているが、これは恋愛に奥手な男性が増えていることを言っているのかと思っていたがそれは大きな勘違いだった。

文字通り、女の子は獰猛な肉食動物だったのだ。

彼女達は獲物を見つければ力尽くでねじ伏せてくる。抗おうにも圧倒的な戦力差は腕力だけではなく、容姿、匂い、声の一つ一つがこちらの戦意を根っこから挫いてしまうのだから抵抗は無意味だ。

そうして捕らえた獲物の身も心も屈服させてた上で捕食にかかるのだ。

しかもそれが二人に増えたら、獲物を取り合って争ったりもするのだから野生の肉食動物と何が違うというのだろう?

そんなの相手にどうやって身を守れというのか?

…などと、状況に流されるままだった言い訳を頭の中で巡らせながら、肌が痺れるくらい熱めのお湯をはった湯船に顎まで浸る。

今日は楽しい一日になるはずだったのになぜだろう?

いや、ほんの1時間前まではそうだったのだ。

今日はとても楽しかった。相撲大会で後輩達に声援を送り、その後一緒に鍋を囲んだ。今日という日は充実した時間を味わった満足感の中で終わるはずだったのだ。

しかし公園での一件が何かを狂わせた。

 

ガチャ、ガチャ…。

 

今耳元で聞こえる浴室のドアを開けようとする音が、その変化を現実として僕に突きつけていた。

 

 

 

ダイニングの椅子に腰を下ろして大きく息を吐いた。

帰るまでの道のりで瑠環は一言も発することは無く、さながら連行される被疑者になったような気分だった。

まあ、それは当たらずしも遠からずなのかもしれないが。

それでも家に帰って少し落ち着いたのか瑠環は、公園で見せた激しさは鳴りを潜め、いつもと変わらないように思われた。

心身ともにすり減らすかのような息苦しさから解放されて、僕はダイニングの椅子に腰をかけた。

「お兄ちゃん、なにか飲む?」

「うん貰うよ。麦茶ある?」

「ん」

瑠環は冷蔵庫から麦茶の入った瓶を取り出すとグラスを二つ用意してそれぞれ注ぐ。

瓶を冷蔵庫に戻すと瑠環はグラスを手に僕の隣に座る。

「えへへ。はい、どうぞ」

「あ、ああ。ありがとうな」

違和感があった。

この家での瑠環の定位置は僕の向かい側の席だったはずだ。こうして自分から隣に座ることはこれまでなかった気がする。しかも座るとき椅子を少しこちら側にずらしたのだろうか?なんか妙に距離が近い。

やっぱり今の瑠環は何かが変だ。

「えへへ」

肩と肩が当たって、はにかむように笑う瑠環が可愛くて、気がつかないふりをして麦茶に口をつけた。

何でもないように装いながら無言の中で飲んだ麦茶はこっちの体温が上がっているせいかいつもより冷たく感じられた。

緊張と混乱で何も言い出せなくなってる僕に対して、先に言葉を発したのは瑠環だった。

「お兄ちゃんお風呂入る?」

それは、一旦距離を取る絶好の機会だ。

僕は即座にそれに乗ることにした。

「そうか。なら先に入らせてもらうよ」

この家で一緒に暮らすようになってから風呂は決まって僕が先に入ることになっている。

別に瑠環が居候だからというわけでは無く、瑠環がそうさせたがるのだ。

瑠環が入った後、そのお湯を飲んだりする趣味はないのだが…。そう思ったこともあったが、実際は熱めのお湯が好きな僕に対して、瑠環は温めのお湯にゆっくり浸かるのが好きなのだと今は理解している。

しかし…。

「ねぇ、お兄ちゃん一緒に入ってもいい?背中流してあげよっか?」

やっぱり瑠環が変だった。

…本気じゃないよな?

「か、からかうなよ。駄目に決まってるだろう?なんてこと言うんだお前は!」

「からかってないよ!お兄ちゃん今日は疲れてるだろうから癒してあげたいって思ったの!」

「今日忙しかったのはお前だろう。そうだなお前先に入るか?」

日中の相撲大会にその後の鍋パーティ。どっちも頑張ったのは瑠環だ。早く休みたいだろうと思っての提案だったが瑠環は首を縦に振らなかった。

「ぶー、いいよお兄ちゃん先に入って」

不満そうだった。

本気で一緒に入りたかったのだろうか?

ふと思いついたが、今までの瑠環の行動を考みるにありえないとは言えない。

「ん。じゃお先に」

深入りは厳禁だ。

僕は早々に会話を切り上げて着替えを持って風呂場へと向かうと、手早く衣服を脱いで浴室へと入る。その時一抹の可能性に備えてその鍵をしっかりかけたのだった。

 

しばらくすると思った通り、脱衣所に誰か入って来くる音が聞こえた。

浴室のドアはぼかしの入った透明なアクリル板が入っているから、その向こう側で誰が何をしているかくらいは把握できる。他に誰もいないし、体格からも瑠環なのは間違いない。

脱衣所には洗濯機もあるからそれ関連である可能性もあるが、みるみる増えていく肌色から瑠環が服を脱いでいることは明白だった。僕が今入っていることはわかっているはずなのに。

そこから目を背けて僕は湯船に顎まで浸かって目を閉じた。

静かに息を殺して、ガチャガチャとノブを引く音を意識でシャットダウンする。

「ぶー」

瑠環が諦めて脱衣所を後にするのを音で感じて、どうやら本気で受容できない事態に陥ってる事に僕はようやく気がついた。

瑠環の歯止めが飛んだのだと。

 

風呂場から出ると部屋着に着替えた瑠環が待っていた。

「お兄ちゃん、お風呂長かったね」

「ああ、疲れてたからかな。少し寝ちゃったよ」

瑠環が入ろうとしたことに気がつかなかった言い訳作りのために僕はわざわざ長湯をしたのだ。

おかげで喉がカラカラだった。

ダイニングのテーブルにはさっき麦茶を飲んだグラスがそのまま置かれていた。僕は自分が使った方を手に取って冷蔵庫にあった麦茶を注ぐとそれを一気に飲み干した。

まさに染み渡る爽快感である。

「えへへ、やったぁ、間接キス」

…。

その嬉しそうな声に瑠環に図られたことを知る。

どうしようもない敗北感だった。

僕は何気なく自分が座っていた席に置いてあったグラスを使ったが、長湯した僕が麦茶を飲むことを予測した瑠環がグラスを自分が使っていたものとすり替えていたのだろう。

…気がつかなかった事にした。

しかし、その後も瑠環のターンは続く。

「お兄ちゃん、疲れてるならマッサージする?」

申し出は嬉しいし、瑠環はマッサージが上手いから魅力的な申し出だが、今瑠環と密着するのはとても危険だ。

今の僕の状況は獰猛な肉食動物と同じ檻の中にいるそれに等しい。刺激せず、距離を取って安全な場所へ退避することが求められる。

瑠環は小さくて可愛いけれど、本気になればミュラ以上の力を発揮する。実力行使で来られたらとても敵わない。

まずは刺激しないことだ。僕はできるだけいつもと同じ調子であるように振舞わなければならない。

「ありがたいけど、汗もかいてるだろうし早く風呂入りたいだろう?いいよ、また今度で」

あえて汗をかいている事を意識させて自ら風呂へ向かうように仕向ける。我ながら見事な誘導だ。

瑠環が風呂に入ったらあとは自室に篭ってしまえばいい。

案の定瑠環は自分の身体や髪をクンクンと匂いを嗅いで、何か思うところがあったのか、僕の言葉に従うことにしたようだ。

「う、うんそうだね。あたしもお風呂入ってくる」

「おう、ゆっくり入っておいで」

そう言ってから僕がくるりと背を向けて歩き出そうとすると、瑠環にシャツの裾を掴まれた。ドキリと心臓が高鳴る。

「ど、どうした?」

振り返ると、瑠環は掴んでいた裾を放してくれたので僕は内心ほっとしていた。

「あ、あのね、お兄ちゃん。…後であたしの部屋に来ない?今日DVD借りてきたの。一緒に見よう?」

DVDなら居間で見ればいいじゃないか。今までもそうしてきたはずなのに…。

瑠環の部屋にあるのは瑠環が普段ネットやゲームをするのに使っているているノートPCだ。画面は決して大きくない。

DVDは瑠環の趣味だからホラー系だろうか?

瑠環は怖がりなくせにホラー好きで、スプラッタ満載の海外製パニックホラーから、しっとりとした摩訶不思議な和製ホラーまでとにかく心臓に悪そうなのを好む。

ただし、一人では見ないから、大抵は僕が付き合わされるし、僕がいなければチコちゃんやミュラを巻き込んでいるようだ。

二人並んで身を寄せ合いながら画面に向かう姿を想像する。怖がる瑠環を至近距離で鑑賞するのは…悪くない。

しかし駄目だ。これは罠だ。

「ごめん。今日はもう疲れたから部屋でやすむよ。お前も今日は忙しかったんだから早く休めよ?それじゃあおやすみ」

そう言って逃げるように足早に階段を上がっていく。

「お兄ちゃんのいくじなし」

上がりきったところで、小さく下からと声が聞こえた気がしたけれど、たぶんきっと気のせいだ。

…そう思いたい。

今の瑠環なら夜中に部屋に潜り込むくらいやりそうな気がして自室に戻るとすぐに鍵をかけた。

まるで軒下や巣穴に飛び込む小動物だ。情けないが、今はこうして距離を取るしかないだろう。

一晩たって瑠環が元に戻ってくれればいいんだが…。そう願うしかない。

そうして僕は部屋の明かりを点ける。しかし安全なはずの自分の部屋は、どういうわけか無人ではなかった。

公園に放置してきたはずのミュラが人のベッドの上で膝を抱えていたからだ。

「うわっ!?」

つい驚いて声を上げた僕に向かって、ミュラは口の前に指をやって声を上げないようにジェスチャーで訴えている。

どうやら瑠環に気がつかれたくないようだ。

自宅には帰っていないのだろう。着ているのは公園で別れた時と変わらず制服のままだった。

「お前どこから入ったんだ?」

僕がお風呂に入っている間、この家の一階にはずっと瑠環がいたがずだ。

普通に正面から入れば絶対に一悶着あっただろうがそんな気配はなかったし、こっそり侵入するにしても気がつかれずに2階のこの部屋までたどり着くことはいくらこいつでも無理だろう。

「窓の鍵が掛かってなかったから、そこから失礼しました」

ベランダに通じている窓を指差す。確かにそこは網戸ははめてあるが鍵はかかっていない。ここが二階でなければ確かに入るのは簡単だろう。ここが二階でなければだ。

もっとも、僕も今更そのくらいの非常識は気にならなくなっていたのだが…。

「ごめん。あやすけにはいっぱい迷惑かけちゃったね。どうしても謝りたかったんだ。それに瑠環ちゃんのこともそのままにしておきたくなかったし」

今の時代ならそういうことは電話やメールでと思うが、ミュラは携帯も持ってないし、僕の番号も知らないだろうから話がしたければ直に会いに来るしか無かったのだろう。

家に電話したらまず瑠環が出るだろうし…。

「いや、僕のことはいいんだけど。お前は大丈夫なのか?」

瑠環に倒された時相当激しく打ち付けられていたように見えた。制服は土や草で汚れていたけれど見たところ怪我はなさそうだった。

「あはは…。身体は大丈夫なんですけどね。こっちの方は割とぼろぼろです」

ミュラが胸に手を当てて言う。

試合で負けて、今度は瑠環と喧嘩してまた負けて、プライドが傷つくのはわからなくもないのだが、あまり同情する気にはならなかった。

「わたし、瑠環ちゃんとこれまで喧嘩した事なかったから、どうしたらいいかわからなくって瑠環ちゃんすごく怒ってた。あやすけ、どうしよう…」

どうやら得意の相撲で負けたのがショックだったわけではないらしい。

ミュラは瑠環を怒らせてしまったことを相当気にしているようだ。しかし瑠環に面と向かう度胸が無くて先に僕のところへ来たらしい。

「どうしようって、そんなのこっちが聞きたいくらいだよ」

ミュラには悪いが、瑠環のことで頭を悩ませられてるのはこっちも同じなのだ。

もっともミュラとは逆で好意を向けられすぎて困っているわけだが、これまでになく積極的になり始めた瑠環とどう接すればいいのかさっぱりわからない。

この家で一緒に暮らすようになって一週間。それまでは気持ちを抑えるのは僕の方だと思っていたけれど、まさか瑠環の方の歯止めが先にぶっ壊れることになろうとは思いもしなかった。

「あやすけも喧嘩したんですか?やーい、ざまーみろです」

「いや、そういうわけではなくてだな」

今までよりスキンシップを求めることが多くなったり、お風呂に一緒に入ろうとしたり、夜に部屋に誘ったりと、これまで自然と避けてきた一線を瑠環は越えようとしてきている。

しかし、案の定というか、僕が瑠環の変化をミュラに話すと容赦の無い勢いで顔面に枕が飛んできた。

「ぐふぉ!」

「地獄に落ちろこの幸せ者!」

不条理だとは思わなかった。確かにミュラの気持ちはわからなくもない。

「でも、確かにまずいです。瑠環ちゃんなんでそんな事を。もう一緒にいられなくなっちゃうかもしれないのに」

僕は頷いた。

僕と瑠環の今の生活は、僕を信じて日本に残してくれた両親と、瑠環を任せてくれた瑠環の両親からの信頼があってこそある。

その信頼を裏切った先にあるのは茨の道だ。

「ごめん、ごめんねあやすけ。わたしの悪戯でとんでもないことになっちゃったね」

ミュラは彼女なりに事態を招いた事を反省しているようだが、僕は元々ミュラのせいだなんて少しも思ってはいなかったから、逆にこっちが申し訳なく思ってしまう。

この事態はちょっとしたきっかけで何時でも起りえたんだ。

「ミュラのせいじゃないよ。瑠環を不安にさせてしまったのは僕がしっかりあいつの事見てやってなかったからだ。これは僕自身がまいた種だよ。明日になったら瑠環の頭も少しは冷静になっていると思うから、そしたら瑠環とちゃんと話す。そこでお前の事も許すように頼んでみる。それから二人で謝ろう。大丈夫。僕に任せてくれ」

任せてくれなんて、自分でもらしくない事言ってるとは思っている。でもミュラに責任を感じて欲しくはないし、何より二人の仲を修繕出来るなら一切その手間を惜しむつもりはない。

「あやすけ、ありがとうね」

ミュラが顔を上げたから、僕はその頭を優しく撫でた。くすぐったそうにしながらも拒むことなくそれを受け入れるミュラ。

しかし、その顔に若干笑顔が戻ったかと思ったその時、ミュラが急に顔をこわばらせ、小さく悲鳴を上げた。

「…ひっ!?」

そして僕も気がついた、背後から感じる尋常ならざる気配、突き刺すような視線。そう、僕は自分が油断していたことに気がついた。突然のミュラの来訪に意識がそれて、自分が猛獣と同じ檻にいたことを忘れていた。

ミュラが入ってこれたのだ。他の誰が来たとしてもおかしくはない。

恐る恐る振り返った僕は心臓が止まる思いだった。いや、心臓を一瞬で握りつぶされたといった感じだろうか?

窓の向こうに白く小さな人影があった。それはベランダから血の気を感じないくらい冷たい気配を漂わせて、表情のない顔でこちらをじっと見つめていた。

「「きゃーーーっ!!」」

僕とミュラが悲鳴をハモらせる中、その人影はこちらをずっと見据えたまま、ゆっくり、静かに部屋へと入ってくる。

言うまでもないだろうが、それは瑠環だ。

風呂から上がって間もないのだろう。その髪はしっとりと湿ったままでいつものようにおさげに結んでいない。

パジャマではなく、代わりに大きめのワイシャツを着ているのはなぜだろう?白いワイシャツと濡れた髪で、窓の外に立つ姿は人を脅かすには十分なインパクトだが、それが目的だったとはどうにも思えない。

下着は、上はどうも付けてなさそうだ。

ワイシャツはサイズが大きくて確認できないが、下は穿いてるだろうか?穿いていてほしいな…。

「お前、なんて格好で…、なんでそんなとこから」

瑠環の視線は僕ではなく、ミュラの方に向けられていた。僕はその視線を遮るようにふたりの間に立った。そうしなければ瑠環は今にも飛びかかりそうな雰囲気だったからだ。

「お兄ちゃんどいて、そいつ殺せない!」

ああ…、だめだこの瑠環、早く何とかしないと!

「お前こそなんでそんなとこから入ってくるんだよ。しかもそんな格好で!お前こそいったい何考えてるんだよ!」

「お兄ちゃんが悪いんだよ…。お兄ちゃんが逃げるから。あたしがお兄ちゃんの事好きなの気がついてるくせにはっきりしないから!」

ぐっさりとと瑠環の言葉が胸に刺ささった。

予期せぬ告白だった。そして最悪な状況での告白だった。

狂いそうなくらい瑠環が愛おしく思えて、拒むことなんてできそうになかった。

瑠環を抱きしめたい衝動に駆られた。今すぐ抱きしめて、キスをしてミュラつまみ出して瑠環をベッドに押し倒したい。

瑠環の背中に自然と手が伸びる。

「駄目だよあやすけ!」

後ろでミュラが叫ぶ。

「今は駄目だよ!今そんなことしたら、もう二人は一緒にいられなくなっちゃうよ!」

でもその言葉は今の僕たちには届かない。

そんなの大きなお世話だ。

いいじゃないか。お互い好き合ってるんだ。

例え誰に叱られたって、世間に後ろ指刺されたって瑠環さえいればそれでいい。

身分違いの恋ってわけじゃない。

年が離れすぎてるわけでもない。

僕と瑠環との間にある問題は一つだけ、早すぎるってことだけだ。

もう何年かすれば誰に憚ることもなく瑠環と付き合うことができるだろう。それが少し早まるくらい

それは些細なことじゃないか。

瑠環との顔が近づいていく。これはもう確定だ。僕たちは戻れない道を歩んでいくことになる。

でも、瑠環と一緒なら構わないと思った。

 

「何が僕に任せておけですか!まったく使えないあやすけです」

襟首を掴まれたかと思うと、脚を払われて僕はベッドに放り投げられていた。

「瑠環ちゃんのことが好きなのはあやすけだけじゃないんです!瑠環ちゃんの将来考えられない馬鹿に任せようとしたわたしが大馬鹿でした!」

ミュラの言葉にぐうの音も出ない。

僕は自らの欲求に負けて、瑠環の事も瑠環を愛しているたくさんの人の気持ちを忘れていた。

茨の道を進んで傷つくのは自分ひとりじゃないのだ。

「すまん」

「瑠環ちゃんはわたしが止めてあげます。あやすけはそこで黙って反省してやがれです」

しかし僕を乱暴に扱い、暴言を吐いたミュラを瑠環が黙ってる見逃すはずがない。

瑠環がミュラに飛びかかると二人はもつれ合うように倒れた。

その時瑠環が着ていたワイシャツの裾から白とパステルグリーンのストライプが見えて、僕は内心で小さく安堵していた。…よかった穿いてた。

…状況は少しも良くはなかったけれど。

「ミュラちゃん、どういうつもり?」

一見瑠環がミュラを押し倒したかに見えた。

しかし、重なり合うように床に倒れた二人はミュラが瑠環をぎゅっと抱きしめる状態で膠着していた。

確かにどういうつもりだろう。ミュラは本気で相手をする気は無く最初からこれを狙っていたようだ。

技を掛けるわけでもなく、締め付けるわけでもなく、ただ大事なものを放したくないといった感じで瑠環を抱きしめているだけだ。

「瑠環ちゃんごめん。全部わたしが悪かったんだ。今は落ち着いてわたしの話を聞いて欲しい」

「いやっ!放してっ!話すことなんてないよ!ミュラちゃんもお兄ちゃんのが好きなんでしょう?お兄ちゃんに近づきたくてあたしのいないところで会ってたんでしょう?」

「大丈夫。わたしはあやすけをとったりしないよ。わたしは瑠環ちゃんとずっと仲良しでいたいんだ。わたしにとってはそっちの方が大事なんだよ」

「…本当に?」

「うん。公園では大会で負けた腹いせにあやすけで遊んでただけなんだ。だからわたし、こんなことで瑠環ちゃんと喧嘩なんてしたくなんてないんだよ」

「なら、なんでお兄ちゃんの部屋にいるの?ここで何をしていたの?」

「あやすけに謝りたかったのと、それから瑠環ちゃんと話をしたかったんだ。でも怖くて優しいあやすけに頼ってしまった。わたしが勇気を出して瑠環ちゃんに話に行けてれば瑠環ちゃんは不安な思いしなくてよかったんだよね。…ごめんね」

「だったらどうして邪魔するの。喧嘩はしない。揉め事はお相撲で決めるのがルールだよね。あたしが勝ったんだから邪魔しないでよ!」

「そうだね。だからわたしは決めたんだ。二人の仲を応援するって。誰にも邪魔されず、誰からも祝福されて、誰もが羨ましがるくらい幸せになってもらうために応援するって、わたしは決めたんだ」

ミュラの言葉に僕は涙が出そうだった。

僕が目指そうとしていて見失いそうになっていた理想形を、この友人は応援してくれると言っているのだ。

これから瑠環ちゃんはもっとずっと素敵な女の子になる。あやすけが他の女の子に目移りなんてできないくらい素敵な女の子になるんだから焦らなくたっていいんだよ」

「ほんとう?」

「本当だよ」

「ほんとうのほんとうに?」

「本当の本当だよ。瑠環ちゃん。だからごめんね。わたしを許して欲しい」

僕は目頭が熱くなって喉の奥に痛みを感じていた。歳下の女の子二人の前で泣くなんて格好悪いと思ってはいたがどうしようもなく、溢れる涙でどんどん視界が揺らいでいく。

もう安心だ。瑠環もミュラも僕もこれで元通りだ。幸せな未来に向かって、また明日から平穏で楽しく過ごしていけるのだろう。僕はそう思った。

これが友情の力か。

「あたしも、ほんとはミュラちゃんとずっと、仲良しで…いた…い…きゅぅ」

無言の時間が数秒過ぎた。

結局僕は涙を止められなかった。頬を伝い涙がポロポロとこぼれ落ちて床を濡らしていた。

ミュラは相変わらず瑠環をぎゅっと抱きしめている。

瑠環は何も言わず身を任せているようだった。

だから次のミュラの行動と言葉の意味が僕にはわからなかった。

「…やったか?」

見るとミュラはぐったりとした瑠環をその場に横たえるとそのの頬をつんつんとつつく。

それを見ていた僕は目がくらむほどの目眩を覚えた。信じたくないが、まさか絞め落としたのか?にこやかに仲良しでいたいとか綺麗な事言いながら油断させて絞め落としたのか!?

返せ!友情に感動していた美しい時間を返せ!

「お前なんてことを!」

「うるさいな、起きちゃうじゃないか。もう腕力で適わないんだから、こうでもしなきゃこの子止められないから仕方なかったんです」

「だからって、お前さっきの言葉全部でたらめだったのかよ!」

そうだと言ったら僕は絶対こいつを許さない。

後輩だろうが女の子だろうがぶん殴る。たとえ適わなくても絶対ぶん殴る。

「そんなわけないです!全部本心です!でも言葉だけで理屈だけで、愛とか憎しみだとかを止められるなんて思ってるほどわたしも甘くはないんです」

僕は黙るしかなかった。僕はさっき愛だなんだと考えながら、欲望のままに瑠環を求めようとしたのだ。

ミュラはよいしょと気を失った瑠環を肩に担ぎ上げる。

「おいこら!お前瑠環をどうするつもりだ?」

てっきり介抱するためベッドに寝かせるのかと思いきや、ミュラはそのまま窓の外へと向かう。

「だ、だって、このまま瑠環ちゃんここに置いといたらどうなるか…。と、とにかく瑠環ちゃんは先輩にはまだあげません!そういうわけでしばらくこの子は預かります。大丈夫。心配しなくてもそのうちちゃんと返すよ」

「こら待て!いくらなんでも横暴、っていうか危ないだろ!こっち戻れ、瑠環返せ!」

「ふーんだ!悔しかったらわたしを倒して奪ってみやがれです!」

あっかんべぇーっと舌を出してミュラは瑠環を抱えたまま窓を飛び越えて夜の闇に消えていった。

僕は人さらいだ!と叫びそうになったその言葉を必死に飲み込んでその姿を見送るしかなかったのだった。

 

 

ミュラの言うとおり次の日の昼前に瑠環は帰ってきた。

「おおきなくじら~ほえ~るわ~、あまくてふわふわるわっふるぅ~」

ご機嫌で歌いながら昼食の用意をする瑠環の表情は、昨日の事など無かったかのようだ。

「ふわふわるわっふるぅ~。わっふるわっふる~」

瑠環は二人分のナポリタンを皿に盛り付けるとサラダと一緒にテーブルに並べる。それは隣あった席ではなくて、今まで通りの向かい合った席だった。

ナポリタンは辛めが好きな僕の好みに合わせたバジルとタバスコが効いていてとても美味いしかった。

瑠環も自分用にチーズをたっぷりかけたナポリタンを美味しそうに食べている。出来にも満足しているみたいで相変わらずご機嫌なようだ。

そこで僕は昨夜の事を聞いてみることにした。

「昨日の夜はミュラ話をしたのか?」

それは恐る恐るで、表情が曇るようならそこで話は切り上げるつもりだったがその心配は無駄だったようだ。

「話したよ」

あっけらかんと言うその表情は晴れやかだ。

「へ、へぇ…。どんなこと話したのかな?お兄ちゃん気になるなー?」

瑠環は少し迷ったような様子を見せたが、とびきりいい笑顔だけ見せて教えてはくれなかった。

「だーめ、教えてあげない。だってお兄ちゃんだもん」

うーん、女の子はまだまだ謎が多い…。

 

 

 

                                       あとがき

 

ごめんなさい今年は、ちゃんと内容あります。

はっきり言ってわたしは素人で、人生経験にも乏しく、人の感情や人生についての描写が苦手です。っていうか元のノウハウがありません。

だからこのシーンは書き始めからどん詰り状態でした。お倉入りでも別にいいだろうと思っていましたが、ネタ的には美味しくて出さないのももったいないわけで、書き上げるのが一年遅れることになりました。

そのために時間が戻ることになってしまいました。

この1年で主人公に名前が付いたのでミュラが主人公の彩乃介を「あやすけ」と呼んだりと設定も変わってきています。

どこかでこれまでのとこリニューアルしたいなと思いながら実行できない根性と気合の足りない作者なのでした。

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ふぁるぷだいありぃ その10

                         おことわり

この作品は、セガから発売されているオンラインゲーム。ファンタシースターオンライン2を元に、勝手な解釈と設定を持ち込んで書かれた二次創作物です。

そういったものが苦手という方や、不愉快に思うファンの方もいるかと思います。

まして、作者は素人であり文章もあまり読みやすいものではありません。全ては作者自身の自己満足のために書かれたものですので、本来読むことをお勧めはいたしません。

しかしそれでも、読んでやろうじゃないか!!という方、その後発生する感情を自己責任で処理するという事で、読んでいただくようお願いします。

 

 

 

学園祭に置ける当クラスの出し物について。

プランその1、休憩所1年1組。

学祭期間中は招待客のお年寄りを始め一般の家族連れなども数多く来場されるが、そういった方々が腰を下ろして休める場所は充分とは言えない。

そこで教室をフリースペースとして開放する。

一般客意外にも、出し物で教室が使えない生徒なども利用することが見込まれ、その需要は計り知れない。

準備も当日椅子や机をそれっぽく並べるだけで手間も人でもかからない。

僕的には超推奨。

プランその2、梅干し販売。

うちの庭には梅の木があって毎年その実を梅干やジャム、梅酒にしたりしているのだが。うちはこの春からはほとんど僕ひとりなのでとても食べきれない。

うちの物置には去年瑠環が漬けた梅干しが山のように残っている。

一粒でご飯が3杯はいけるくらい強烈に酸っぱいから全然減らない。なのに今年も瑠環がしっかり新しく漬けていったものだから現在我が家は梅干し飽和状態なのだ。

それを売ってみたらどうだろうか?

大して売れるとも思わないから利益は少ないだろうけど、こっちは梅干しを少しでも消費できればそれでいい。

「つまらん。両方とも却下。瑠環たんが漬けた梅干はよこせ。オレが食う」

しかしお祭り好きのリコたんは納得しない様子である。

「大体オレのいるクラスがそんな地味企画で済ませられるわけないだろう。周囲の期待は裏切れねぇよ」

地味でいいじゃないか。僕としてはあえて暇でつまらない企画にして、学祭中はのんびり他を見てまわろう。準備や後片付けは最小限で終わらせようという魂胆なのだから。

あと、こいつには一昨年母親が漬けた分でもくれてやることにしよう。

「まかせな、このクラスの特徴を生かした企画を考えているからよ」

そう言うリコたんの自信満々な顔に嫌な予感を抱えつつ、その考えを聞かされた僕はこう思わざるを得なかった。

こいつある意味天才だなと・・・。

 

 

 

1学期を締めくくるホームルームが終わって先生が退室すると、変わって教壇に立ったリコたんはそれを宣言した。

「俺たちのクラスは、学祭限定でアイドルグループをデビューさせたいと思う!」

当人はまさにドヤッっていう感じだったが、その時の周囲の反応は僕が聞かされた時と同じようなものだった。

みんなそれぞれ要領を得られないような表情をしている。「何ソレ?」みんなそう思ってることだろう。

「それってバンド演奏とはまた違うものなのかしら?」

そう言ったのは頭からうさ耳を生やしたショコミソ委員長だった。

「もちろん歌って踊ってもらうが、それだけじゃ個人かグループの発表になっちまうだろう?そこで活動の範囲を広げて、プロデュース、マネジメント、衣装、広報とかをクラスみんなでやってやろうってのがこの計画だ。どうだ乗るか?」

やることは歌って踊るライブステージがメインだが、脚本や演出を考えたり、舞台の設営、大道具小道具の準備たりといった演劇の要素と、関連グッズの制作販売やらと、模擬店の要素も盛り込まれている。

難しいけどやりごたえはありそうだ。

前例のない突飛な企画ながら、ショコミソ委員長も即却下せずにリコたんから詳しい内容の説明を聞いているのも彼女も僕と同じように思ったからだろう。

クラスメイトからも困惑の表情は既に薄れ、好意的に受け入れられている反応が見て取れる。

「確かに面白そうだけれど、。今からではステージや舞台に使えそうな場所の確保は難しいわよ?防音設備のない教室や部室塔では、ライブや楽器演奏といったものが禁止されているのは知っているわよね?」

「任せな、バッチリの場所を押さえてあるぜ」

僕もまさか今更そんないい場所があると思わなかったのだが、どうやらあったらしい。

広くて収容人数も十分で、騒いでも問題無く、他に誰も使ってなくて、色々美味しいネタを詰め込めそうな場所が。

それは学園の屋内水泳場。

ライブとかをするには音が響きすぎたり、機材が水に濡れないように気を付けなければならないなどの欠点もあるが、そこは工夫次第である。

この場所を思いつくとはさすがリコたんと唸らさせられてしまった。

「なるほどプールとは盲点だったわね。で、これが肝心だけどいったい誰をアイドルに仕立て上げるつもりなの?結構大変な役割になると思うけれど当てはあるのかしら?」

「もちろんだ。吉乃吉乃、ちょっちこっちおいで」

リコたんが窓際の自分の席でぼーっと外を眺めていたクレアさんの手をとって教卓の前に連れて行くと、その手を頭上へと掲げてみせた。

強引に連れてこられたクレアさん、ボクなんでここにいるの?って顔してるけど、大丈夫だろうか?

「ぅ?ボクなんでここにいるのぉ?」

ほら、やっぱり理解していなかった。

「吉乃!お前がこのクラスの、いや学園のアイドルとしてステージに立つ日が来たんだぜ」

「ぅう?ボクぅ?」

 

ク、レ、アーッ!

 

男子生徒が一斉に喝采を上げた。思ったとおり反応は上々だ。

しかしどこか浮かない顔のクレアさん。大変な役割だし緊張しているのかと思ったが、実際はまた別の不安を抱えていたようだ。

「ぅーぅ?それってジロジロ見られたりするぅ?」

クレアさんが上目遣いで伺うような顔で言う。可愛い・・・。

「おう、みんなの視線を独り占めだぜ!」

「ぇー、ヤダヤダヤダヤダ!ジロジロ見られるのやだぉ!」

予想外の拒否反応だった。

クレアさんちょっと涙目じゃないか。あーあ、リコたん泣かした~。

「そんなこと言われても、アイドルは見られるのが仕事だしなぁ」

クレアさんは目立つ方ではない。性格は純朴でやや天然、人懐っこいが自分から行動を起こすより誰かの後を自分のペースでついて行くタイプだ。

しかし決して存在感がないわけではない。

可愛らしい顔立ちと身長は低めだが制服越しでも見て取れるむっちむちのわがままボディは、例え本人が望まなくても自然と視線を集めてしまう。

そしてそれが大概は男子からのものであることはいかんともしがたい。斯く言う僕もつい視線が吸い寄せられてしまう事があることを否定できない。これは彼女の魅力がなせる技であって、どうにもならない。どうにもならないのだ!

天然でぼーっとしてるように見えても、本能的にそれを感じて不愉快にな思いをしていたとしても不思議なことではない。

少し恥じらう程度で断ってくるくらいならば、強引に押し通す気でいただろうリコたんも、こうなっては無理を言うこともできなくなったようだ。

「ふーむ。仕方がない予定変更だ。小春、おかず!」

「おかずって言うな!小和(こより)だよ!」

「うん?なぁにリコちゃん?」

双子の小春と小和。二人が揃ってこのクラスに在籍しているのは何かの奇跡か、それとも陰謀か。

ちなみに名前を間違えて言ったリコたんに怒ったのが姉の小春。

特に気にせず朗らかに返事をしてるのが妹の小和だ。

双子だからよく似ていて慣れないと見分けがつきにくいが、目印なのか趣味なのか、小春の方は頭の後ろに髪を束ねた房を付けている。

元々はセンターにクレアさん、両サイドにふたりを配置するつもりだったのだが、予定は既にクレアさんの説得失敗で狂ってしまった。

「アイドル?いいよ」

あっさり承諾したのは小和の方だ。

「何OKしてるのよ小和!あと、名前間違えられたのあんた自分で怒りなよ!」

一方そんな小和をたしなめる小春の方には反発があるらしい。それとおかずって以前からみんな呼んでるんだけどな?

「でもリコちゃん友達だし。それに困ってる人は助けなさいって、おばあちゃんいつも言ってるよ?」

「あんた、そのお婆ちゃんから、馬鹿な連中に騙されるんじゃないよ、貞操は大事にしなってよく言われてるの意味わかってるのかしら?」

元気なしっかり者の小春と温和でおっとりした小和。いつもの微笑ましい光景である。

「でも、リコちゃん困ってるみたいだし」

「小和、騙されちゃダメよ?ほいほい話に乗ったが最後、いかがわしい格好させられて、えっちなビデオ撮られたりするんだから」

「おい小春!お前オレをなんだと思ってやがる!?」

「えっち、すけべ」

「むきーーっ!」

普段は仲が悪いことはないのだが、どうもにも信用が無く話が進みそうになさそうだ。

もっとも、リコたんによるプロデュースの時点でそれも仕方がないのかもしれない。

「まぁまぁ、こいつが暴走しないように僕がしっかり見張ってるから、ここは一つ協力してくれないかな?」

仕方なく僕が横から助け舟を出すことにする。

小春とは中等部からの付き合いで、一緒に剣道で切磋琢磨した仲だ。

僕から頼めば小春も無下に断ったりはしないだろう。

「嫌。まったく信用できない」

予想に反してばっさり斬って捨てられた僕。

僕たちは宿敵と書いて友と呼び合う仲だったはずだ。それがどうも今日は小春は機嫌が悪いのか、話を聞く気はないようだ。

「ふーん、それならこれはなにとな?」

「となっ」と出された小春のスマホの画面には、僕も今朝見た報道部のウェブニュース。

それのおかげで誠実で売ってきた僕の株は大暴落である。

もっとも記事の方は、中等部の悪魔のしっぽによる腕力を伴う異議申し立てによって朝のうちに削除されているのだが、その頃にはほぼ学園中に拡散していたことは間違いない。

現に小春はしっかりと保存をしているようだ。

「そ、それはこいつが勝手に撮った写真を、報道部の連中が面白おかしくでっち上げたんだ!」

ぐいっとリコリスの首根っこを掴む。

「てへぺろ」

「だーめ、そんなミルキーな顔したって許さない」

僕はその記事のおかげで朝から不特定多数の人から命狙われることになったのだ。

しかしなぜそれで小春が機嫌が悪いんだろう?

普段なら僕の不幸を笑いながら見ていそうなものなんだが。

「いたいけな少女をはべらす夜の貴族?うわっ、何膝枕なんてしちゃってるの?こんな小さい子まで、最低」

ぷんすかしながら画像を眺めている小春。これはしっかり弁解させてもらわなければなさそうだ。

「味見したチコちゃんがみりんで酔っ払っちゃったんだよ!僕はそれを介抱していただけだ」

そのときはどうも僕のことを本当のお兄さんと勘違いして甘えてきたのだ。

酔っ払いに絡まれたら逆らうなと、以前飲み会から帰ってきた父さんが疲れた様子で言っていたことを実践したに過ぎない。

他の子だったら流石に手を焼いただろうが、幸い小さくて軽くて力も強くないチコちゃんはそんなに手がかからなかった。

ほわほわと寝ぼけているかのように甘えてくるチコちゃんを、兄に甘える妹というのはどこも似たようなものだと思いながら、家族の方が迎えに来るまでやりたいようにやらせておいただけである。

「よくあることだろう?」

「・・・そんなわけ無いでしょ!ならこれは?あんたいつも女の子に食べさせてもらったりしてるわけ?」

次に小春が見せたのは僕がおさげ髪の女の子に食べさせてもらっている画像だ。

目隠し線は入っているのだが誰が誰かは一目瞭然である。

ちなみに朝この画像を見た瑠環は怒るでもなく、恥ずかしそうに、でも何故か妙に嬉しそうにしていた気がする。

その時の瑠環の心理はわからないが、この画像で僕に何一つやましい事が無いことだけは断言できる。

「兄妹で食べさせ合ったりって普通だろ?小春と小和だってよくやってるじゃないか」

そのとき一瞬教室の中が凍りついたかのように静まり返った。

ん?何か変なこと言っただろうか?

「・・・あ、あんたと瑠環ちゃんは血が繋がってるわけじゃないじゃない」

まったく、世間というのは血縁とかいうのにこだわりすぎだと思っている。これについて僕はしっかりとした持論がある。

「血の繋がりって大事なのか?瑠環との付き合いも長いからな。一緒に遊んで、同じ釜の飯を食って一緒の風呂に入って、同じ布団で寝たりして実の妹以上に長い時間を過ごしてきたんだ。あいつが僕を兄と呼ぶなら僕も妹としてあいつを受け入れるのは当然じゃないか」

再び静まり返る教室。

不思議に思ったが、僕は今結構いいこと言ったと思うし、みんなそれに感動したのだろう。

小春はなぜかダメージを受けたかのようにぐったりしている。その横で小和が顔を背けて肩を震わせていた。爆笑している。なぜだ?

「だったらこれは?一応聞いとくわ。一応・・・」

夜の公園での逢瀬。その日少年と少女は大人の階段を駆け上る・・・。

学校新聞の記事としては色々アウト過ぎないだろうか?

人気の無い公園でもつれ合うように倒れる男女の姿は確かにそういう風に見えなくもない。

「お前これ見てたのかよ」

「風紀委員から逃げ回ってるときに偶然見かけて撮ったやつだな。面白そうだったけどこっちもそれどころじゃなかったんでその後の顛末は知らないんだがな」

「それは漢同士の避けられない戦いだったんだ。卑猥な目で見るもんじゃない」

「まぁ、これは何があったか大体想像できるんだけどね・・・」

ミュラの人となりを多少でも知っている者ならば大抵そうだろう。

その画像に写っているのは勝者と敗者であってそこに色気もロマンスも有りはしないと・・・。

本当のところはそれだけでもなかったのだが、わざわざ自分で墓穴を掘るような発言をする僕ではない。

うかつな発言は死を招く。キジも泣かずんば撃たれまい。

「な、誤解は解けただろう?だから安心してアイドルをやってくれないか?]

「絶対嫌よ!」

なぜだろう?さっきより否定の色がより強くなってる気がする。

「小春はね、自分のいないところで楽しそうにやってる彩乃介くんを見てやきもち焼いてるんだよ」

「小和っ!いい加減なこと言わないでよ!」

小春が僕にやきもち?いや、それはないだろう。

 

実は中等部2年生の秋のことだが、僕は小春に告白してふられているのだ。

 

確かにあの夜、友人として小春達も誘うという選択肢はあったんだ。

でも僕の中に小春を避ける気持ちがあってそれを選べなかった。

小春への恋心はもう吹っ切れてるつもりだが、それが再び復活するのではないかという恐れと、小春には他に好きな奴がいるのだろうという思いもあって、僕はクラスがまた同じになってからも小春と話すことも避けていた。

だから小春が僕にやきもちとか言わないで欲しい。期待してしまうじゃないか。

現に今僕の胸のあたりから暖かくてどこか酸っぱいような感覚が湧き出してきている。

懐かしい感覚だった。

「あのさ・・・。今度は呼ぶから、その時は来てくれるか?」

「さぁね?でも声くらいはかけなさいよ」

「わかった。今度からそうする」

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

「あーもう、やってらんねーぜ」

こら、ムード壊すなりこたん。空気読むのって大事だぞ?

「ほら、あんたも仕事にもどりなさい」

小春に押されて僕は後ろ髪を引かれるような思いでりこたんのあとに続く。

あちこちからため息や、行儀の悪い舌打ちが聞こえてきたが、そんなのが気にならないくらい僕の心は温かいもので満たされていたのだった。

 

「ジョウ、もうお前でいいや。アイドルやれ」

そしてりこたんはといえばなりふり構わず、クラスの女子に片っ端から声をかけまくっていた。

しかし宿敵のはずの風紀委員長のジョウにまで声をかけるとはいい度胸である。

もっとも容姿的には文句はない。

スタイルはいいし間違いなく美人の部類に入る。

しかしアイドルというより、ヘビーでメタルでデスな感じのロックの方が似合うと思う。

「報酬は?」

「そうだな。先行投資が・・・ゴニョゴニョ・・・。売上の予想が・・・モグモグ。あと色々根回しに・・・モニュモニュ。オレのマネジメント料で・・・フモフモフ。大体残り3割ってとこかな?」

「俺の報酬が7割で受けよう」

「なんだとっ!?おい馬鹿言うな!残りの3割じゃ根回しや準備費用だけでも足が出ちまうじゃねーか!」

「知るか。俺も何かと忙しい。それ以下では受けん」

「こいつ、足元見やがって。もう頼まん!」

交渉決裂。しかしめげずに今度は教室の窓際の最後列という特等席で、机に突っ伏して寝息をたてている女子生徒へ声をかけた。

「フェリオ~」

返事はない。完全に寝入っているようだ。

しかしリコたんは気にしないようだった。

「フェリオー、コロッケパン奢ってやるからアイドルやってくれ」

最初から報酬を提示して交渉に臨むりこたん。しかし1個130円のコロッケパンとはいくらなんでも安くないだろうか?

熟睡していると思われたフェリオが動いた。綺麗な手をパーにして広げてみせる。5個?いや、5日分だろうか?

僕にはよくわからないが、二人の間ではそれで報酬面の話はまとまったようである。

気だるげに顔をあげるフェリオ。起きてる時の顔を見る事はめずらしい。綺麗な子だけにもったいないと思う。

「・・・それって時間かかる?」

「リサイタルは期間中2回はやりたいな。あと写真の撮影会に握手会。特別招待客のお年寄りの接待に1時間生徒会長とかもあるから、ほぼ出ずっぱりになるなー」

「う~ん・・・。無理。そんなにおきていらんない」

さすが稼働率2割を自称する眠り姫だ。

彼女は興味を失ったようにパタンとまた机に突っ伏してすぐに寝息をたて始めてしまった。

某有名メガネ少年の如き寝つきの良さだった。

・・・だめじゃん。

「一応聞くがコミたん委員長・・・」

「却下よ、すっごく忙しいの」

「うぐぐ・・・」

最後の希望であった委員長にもすげなく断られ、これでクラスの女子は全滅だ。

残念だがしかたがない。他の企画考えるかという雰囲気になったところで、僕とリコたんがあえて見ないようにしていたところから手が上がった。

「ねえ、それって男じゃだめなの?男でもいいならボクやってもいいけど?」

僕とリコたんの首がギギギ・・・と軋むような音を立てるかのように声の方へと向けられる。そこには学園屈指のイケメンで知られる千尋がいた。。

たしかにそれは考えた。最初から女の子限定で考えた企画ではない。だが、それは不可能なのだ。

何故か?

それは千尋。他でもなくお前がいるからだ。

「一人でもいいけどできればユニットでやりたいな。な、彩乃介?」

ぞっくりと、背中に悪寒が走った。

それどんな罰ゲームだよ。

この学園の多くの女子にとって、このクラスの男子は千尋とその他大勢でしかないのだ。

やるなら一人でやってくれ。他男子は後ろで肩組んでラインダンスでもやっている方がマシである。

それに千尋を表舞台に上げづらいそれとは別の大きな壁があった。

「却下だ。お前のねー様方に貸しを作るのは怖すぎる」

天下の千尋様で稼がせて頂く為のもう一つ大きな大きな壁、それは彼の姉君様達の存在だ。

千尋は5人姉弟の中の男一人。姉妹それぞれいるらしいが、とにかく彼女らの承諾なしに千尋は使えないということ。

「姉さん達ならノリノリで手を貸してくれると思うけど?」

僕とリコたんの顔から一斉に血の気が引いた。

「ハードル上げられても困る・・・。ここは思いとどまってくれ」

ふたり揃って90度で頭を下げる。それは懇願だった。それくらい彼の姉妹は怖いのだ。

しかしだ、ユニットにせよソロにせよ、このクラスの男子でやるなら千尋は絶対外せない。抜きでやろうものなら他に誰が何人出ようと、ステージに上がった途端ブーイングが起きるか相手にされないかだ。

それは企画を考えた時点で容易に予想できたことで、結論を言えばこのクラスの男子でのアイドルデビューはありえない。

「こうなったらオレによるオレの為のオレ得オンステージをやるしかないか・・・」

リコたん尽くしの学校祭。

リコたんライヴ、リコたん握手会に撮影会開催!

リコたん写真集、リコたんDVD発売決定!早期予約特典にはリコたん抱き枕カバーが付いてくる!

「やめろ、偉い人がカメラの前で謝らなきゃならなくなる。先生方何人か首飛ぶことになるだろ絶対!」

「学園の風紀を乱すことは俺が許さんぞ?」

「学園の卒業生や進学を控えた先輩方から睨まれそうだからやめてよね。これ以上の面倒は絶対ごめんよ」

僕とジョウと委員長が一斉に却下してこれにて試合終了。

1年1組アイドル創造計画は1次審査の結果採用者はゼロとなりました。

 

「面白い企画だとは思うが、やはり一部の生徒に負担がかかりすぎるのではないか?」

ショコミソ委員長の言うとおりかもしれない。

結局企画は練り直しになったがすぐに良案が出るはずもない。

「仕方ねーな。こうなったらもうみんなで脱いで、水着喫茶でもするか。このクラスのレベルなら確実に稼げるだろう?」

出た。みんなで脱げば怖くない理論。

まあ、せっかくプールを抑えているんだ。そう悪い考えでもないかもしれない。

このクラスの女子は可愛い子が多いし、男子だって千尋以外にもそれなりに男前がいないわけではない。

リコたんの意見に若干不満そうな顔をしているのもいたが(小春とか小春とか若干クレアさんとか)、

概ねは賛成な様子である。

「だめね、脱げば勝てるなどと甘い考えを持っているならば大間違いよ」

却下を出したのはクラスのご意見版ショコミソ委員長。

委員長はその場にいる面々を見渡して言った。

「飲食系の申請を出しているクラスは8クラス。その内訳は、クラシックメイド喫茶、チャイニーズ喫茶といった鉄板はもちろんだけど、チア喫茶、メカコス喫茶、博多祇園山笠のちゃんぽん屋、軍事機密入手!潜水艦のカレー屋さん、リアルラビットハウス、アスナさんの料理を再現してみた!・・・これはクラス企画だけで各部活動の出店も加えるとその3倍はあるわ。みんなそれぞれ知恵とアイデアを絞ってきてるのよ?そんな中に水着喫茶?そんな3秒で思いつくようなネタ、最後にのこのこ出てきて口にできると思っているの?」

実行委員がアイドルデビューなどと荒唐無稽なことを考えてる間に、しっかりと他所のクラスの情報を集めてくれていたようだ。

さすがは我らが委員長。頭のうさ耳は伊達じゃない。

これにはりこたんを始め、僕やクラスの皆も黙らざるを得なかった。

「むぅ・・・。確かにインパクトが足りなかったか」

「うん。もう少しみんなでアイデア出し合っていこう」

「こうなったら、みんなにはもう一枚脱いでもらうしか無ぇな・・・」

こいつ、学祭でみんなを素っ裸にする気か?

話し合いが再び混迷を極めるであろうと思われたその時だった。

 

「はははは!困っているようだな!」

 

教室の外から声がした。

そしてガラリと大きく教室のドアが開け放たれる。

現れたのは男女の二人組。

「あなた方は!?」

「困ったフォトンを感じ取り、六芒均衡参上!俺達が来たからにはもう解決だ!」

イケメンだが暑苦しい雰囲気のヒューイ先輩と・・・。

「おう、わたしもいるぞっ!」

ちっちゃくて可愛いけど態度はLサイズのクラリスクレイス先輩だ。

ちなみに六芒均衡とは、なんかよくわからないけれど、アークス学園を影で盛り上げることを使命としている謎の集団だ。

その発言力、権限、実行力は極めて強大で、生徒会はもとより教職員、理事会までもその意向を無視できないと言われている。

今現れた、ヒューイは大学部の学生で、クラリスクレイスは高等部2年生の先輩だ。

他にも学生やら、理事の人や、鬼体育教師もメンバーらしいが、彼らの年齢や立場その陣容はてんでバラバラで、彼らがどういう経緯で結成され、何を基準に選ばれているのかはよくわかっていない。

ただ、彼らが動けば何かが起こる。それは間違いない。

「結構です。お引き取りください」

ガラガラピシャン。

問答無用で扉を閉めてしまう。

まったく、あの人達が関わることといえば、絶対面倒なことだろうからな。

二人を締め出した僕の行動に異議を唱える者はいなかった。

「ま、まて・・・。俺の話は君たちにとっても決して悪い話ではないはずだ」

しかし、めげずに窓から顔を出す六芒均衡。

「・・・では伺いましょうか?」

仕方がない。うるさいし要件くらいは聞いてみてもいいだろう。

「それはな、これだ!」

得意げに突き出されたヒューイの手には全高約10cmくらいの人型の玩具。力強く心躍るデザイン。白と青の鮮やかなカラーリング。それは・・・。

「あれは、HGUCHi-νガンダム!」

そこにいた大半が理解できず、反応に困る顔をする一方で巨漢の模型部員の野太い声が教室に響いた。

有名な機体だから僕もそれは知っている。ただ、それがなぜ今ここで出てくるのかということだ。

「あの、それが何か?」

「うむ。実はまだここだけの話なのだが、ガンプラバトルアークス学園大会を開催したいと思う!」

クラス内が少なからずざわめいた。

ガンプラバトル。それは謎の魔法の粒子でガンプラを本物の兵器のように操り勝敗を決めるという、近年人気上昇中のエンターテインメントである。

「話を聞かせていただけますか?」

手のひらを返してふたりを招き入れる。

馬鹿でかい声で、廊下から話されてもほかのクラスに迷惑だろうし、何より話を聞く価値は十分にあると思ったからだ。

僕が促すと、窓を乗り越えて入ってくる二人。

いや、普通にドアから入ってくればいいと思うのだが、言っても無駄だろうから何も言わないことにした。

教室に入って教壇に立ったヒューイ先輩は、アークス学園ガンプラバトル大会と黒板に大きく書きなぐった。

「学祭の期間中、競技用バトルシステムを一式借り受けてひとつ盛大に行いたい。だが、何分俺たち六芒均衡もガンプラについては初心者ばかりで、バトルのことはよくわからん。そしてなにより、学祭中は忙しくて人手も足りん。そこで、未だに企画も上がっていない君たちのクラスに話を持って来たというわけだ」

なるほど、話が読めてきた。

「つまり、このクラスの出し物として、そのガンプラバトルの大会を企画運営しないかということですか?」

「うむ。話が早くて助かる。もっとも強制じゃないぞ?せっかくの学園祭だ。自分たちで考えた企画をやりたい気持ちもあるだろう。別に断ってもらってもそれは仕方がないことだ。開催できなかったからといって、バトルシステムのレンタルをキャンセルするだけだし、他にも企画はいくらでもある。学祭の運営には特に影響も無いからな」

「そうそう。元々はヒューイが先走ってシステムのレンタルの話を進めてしまったのが悪いのだ。キャンセル料はヒューイの自腹だから貴様らは何も気にしなくてもいいぞ?」

「ああ、その通りだ。俺が後でめちゃくちゃ怒られるだけだからな!はっはっは!」

「わっはっは!」

六芒均衡の先輩二人が高らかに笑い声を上げる中、僕はクラスの皆に賛否を問いて満場一致で可決された。

 

 

 

緊急告知!

 

学園祭特別企画、ガンプラバトルアークス学園大会開催決定!詳細は随時更新予定!

夏の終わりにバトルで熱く盛り上がろう!We're ARKS

 

日時。9月2日、予選。

    9月3日、本戦トーナメント。

 

場所。アークス学園屋内水泳場。

試合形式 2vs2によるチーム戦。

出場資格、アークス学園生徒、教職員。

大会参加の申し込みは最低二人以上で8月22日全校登校日までに運営委員会に届け出ること。

備考、出場選手は水着着用。使用するガンプラは防水加工必須!

主催、六房均衡 

運営委員長、高等部1年1組 彩乃介

大会の告知は報道部、新聞部の協力のもとすぐに行われた。

何分前例のない企画のため、どれくらい参加者が集まるかさっぱりわからないのだ。またガンプラの準備も必要なため募集は早いほうがいい。

とはいえその場で参加を表明した模型部となぜか風紀員。あと何名かの生徒、それだけでも10名以上が参加の意思を示していたし、なんて言っても人気のある競技で注目度も高いだろうということでそれなりの人数が集まると見込んで1日目を予選に当てることにした。

会場はリコたんが抑えていた屋内水泳場を使うことになった。ガンプラバトルのシステムは完全防水になっているらしくプールでの使用も問題ないらしい。

ただし参加選手は濡れてもいい格好と、ガンプラも水に落ちても大丈夫な作りであることが求めらる。

つまりシールを貼ったら、上からトップコートくらいはしっかりかけておきなさいということだ。

今日のところは概要をおおまかに決めたところまでで、詳細はこれから煮詰めていくことになった。

 

 

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん!」

家に帰ると先に帰っていた瑠環が携帯を片手に走ってきた。

そこにはついさっき報道部に依頼したばかりの、ガンプラバトル大会開催の通知の画面が開かれていた。

帰る前のことだからまだ30分ほども経っていない。随分早く気がついたな。こいつニュータイプか?

「これ本当にやるの?」

「ああ、出たいのか?」

こくこくと頷くおさげ髪。

瑠環は年頃の女子としては珍しいことにロボットやプラモデルなどの模型作りなどが好きだったから、これを知れば絶対出たがるだろうと思っていた。

「よし、なら夏休み中に大会用のガンプラ用意しないとな」

「うん!」

僕たちのガンプラの夏が始まった。

 

 

 

あとがき

 

妄想って吐き出さないと溜まって辛いですよね?

そんなわけでふぁるぷだいありぃはまだ続きます。更新は遅いですがそこはご容赦ください。

キャラ貸してくださってるチームのみんなありがとう!今後も勝手に使って続けます。

さて、今回はフラグが立ったり折れたり忙しいことになりました。

まず、学園祭の企画決める前までに吉乃さんの好感度が足りず、吉乃さんシナリオ学園アイドル編に入ることができませんでした・・・。

すみません吉乃さん。わたしアイマスもラヴライブもやってなくて・・・。

そんなわけで、話は約束通りロボットものになります。文句は聞かないです。

あと、今回クラスメイトとして小春ちゃん、ふぇりおん、ななおさんとこの千尋君にも登場してもらいました。

前のでもちょこっと出てきてますけど、千尋君には貴重な男友達キャラとして、小春ちゃんには友達以上恋人未満な腐れ縁系ヒロインとして、ふぇりおんには居眠りキャラとして今後も使わせてもらおうと思います。

 

次にチームメイトをイメージしたガンプラを今後ちょこちょこ作っていこうと思ってます。

上手くはないけど好きなので・・・。

まず第一弾はダブルオーベースで・・・これだぁれだ?

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ふぁるぷぺでぃあに追加

ふぁるぷぺでぃあにChicoryとリコリスの設定を追加しました。

ちっこりっこりー♪

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登場人物紹介

ブログ左側に『ふぁるぷぺでぃあ』なるモノを追加しました。

小説の登場人物を某辞書か大百科風に紹介しようと思ってます。

チームメンバーの紹介にも使えるかな?

ちょこちょこと手直ししていくつもりですので今後ともよろしくお願いいたします。

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添い寝シナリオ ミュラ編

どうも、お久しぶりです。

秋頃からめちゃくちゃ忙しくもなく、のほほんとした日々を送っていたのですが、PSO2のデイリーに追われ緊急に追われ、新キャラも増えてその育成に追われ・・・、ガンプラも増えるばかりで・・・と、余暇時間がうまく使えず、日記も小説もすっかり停滞してしまいました。

まぁ、やることあるのはいいことですよね。

さて、サボりの言い訳はこのくらいにして、本題。

ミュラさんの添い寝ボイスシナリオを妄想してみました!

わたしは日中睡眠をとらないといけない仕事に就いているため、何かと寝付きが悪く、よくYouTubeあたりから睡眠導入効果のある動画を聞き流しながら布団に入るのですが、そこでお世話になるのが、添い寝ボイスです!

某有名同人ソフトネタのをよく利用しているのですが、そこで自分でも考えてみようということで・・・。

どう見ても、ただの頭の悪い人の書いた妄想なので、本来これ以上読むことはおすすめしません。

誰得?って自分のため。

全ては脳内変換、脳内再生。

イメージしている声は・・・。全国のファンの方々から攻撃されそうなので、特に無しとします。

上記を理解し、共感した方のみどうぞ・・・。

 

 

 

 

はっけよい、のこったぁ!

 

んっ・・・。ひゃあっ!?

 

もう!わたしがそれに弱いことに気がつきましたね・・・?

 

でも、まだまだ!

 

そのくらいでわたしには勝てません!

 

・・・えいっ!

 

やったぁ!上手投げが決まりましたっ!

 

えへへ。これでわたしの5連勝です。

 

わたしが相撲得意なの知ってるくせに、勝負しようって言ってきたのはそっちですからね?手加減はしてあげませんよ?

 

・・・あれ?どうしたんですか?あ、お布団に潜り込んでしまいました。

 

もう寝ちゃうんですか?

 

ねぇねぇ、もっとやりましょうよ。今度は手加減しますから、ね?

 

あ、拗ねちゃった。もぅ・・・、しょうがないなぁ。

 

せっかくうちに遊びに来たんだから、もっと遊んだりお喋りしたりしたかったのに・・・。

 

え?あんまり騒ぐとうちの人に迷惑が掛かるからですか?

 

大丈夫です。このお座敷のある母屋には今わたしたちしかいませんから。

 

あ、知らん顔して狸寝入りですか?

 

ふーんだ!それならこっちだって!

 

せーの、それっ!

 

突入して、お布団横取りです!

 

何するんだって?

 

ここはわたしの家なんですから、どこで寝たってわたしの勝手ですよーだ。

 

ほら、敗者はおとなしく寝床を譲ってください!

 

え?そんな横暴はゆるさないですって?

 

むむっ!?反撃してきましたね?

 

んっ・・・。こんな時ばっかりすごい力・・・。さっき手加減してたんですか?

 

でも負けないです。

 

あ・・・。引っ張り合ってるうちに背中合わせの状態に・・・。

 

これではお互い動けませんね。これは引き分けかな?

 

でも、背中あったい・・・。

 

なんか緊張しますね。

 

おかしいな。さっきまで正面から組み合って相撲してたのに、こっちのほうがどきどきします。

 

えっ?あなたも・・・ですか?

 

あ、あんまり動かないでください・・・。背中が余計に密着して・・・。あ、こら!足蹴るなっ!

隙あり!

 

それ、ごろごろ~。お布団巻き取り作戦大成功!

 

身体を芯に布団を巻き取る必殺技です!

 

えへへ~。またわたしの勝ちですね。

 

あ・・・、目が怖いです・・・。浴衣の帯なんか持ってどうしたんですか?あの、前がはだけて目のやり場に困るんです・・・け・・・ど・・・?

 

あーっ!縛っちゃダメです!抜け出せなくなっちゃうじゃないですか!

 

う~。やられた。お布団巻きミュラにされちゃいました。

 

あ、こら!転がさないでぇ~!

 

蹴るな!遊ぶなぁ~!

 

・・・。

 

うぇぇん。まいりましたぁ!謝りますからほどいてください~!

 

うわ~、あなたのそんな嬉しそうな顔はじめてみました。

 

あんまり素敵とは思いませんけれど!

 

あ!?どこ行くんですか?このままにしておいていかないでくださいよ!?

 

・・・。

 

あ、戻って来ました。代わりのお布団持ってきたんですか?

 

ああっ!それ、わたしのお布団じゃないですか?

 

勝手に人の部屋からもってこないでくださいー!

 

こら!くんくんしないっ!変態ですかあなたは!

 

え?この枕は使わない?

 

そんな、臭かったですか?傷つきます・・・。

 

はい?もっといいものがあるのですか?

 

ひゃあ!?また人をころころと転がして・・・って、わたしをを枕にしないでください!?

 

重たいですよ~!もう!いい加減に、ほどいてください~!

 

え?うるさいなですって?そんなの当たり前です!

じたばたするなって、しますからね!

 

むむ、その手に持った枕で何を・・・?

 

ふぉーっ!ふぁふぇふぇふふぁふぁふぃー!(もーっ!やめてくださいー!)

 

ぷはっ!顔に枕押し付けるなんてひどいですっ!死ぬかと思ったじゃないですか!

 

わわっ!?こんどは抱き枕にっ!?苦しいです・・・。もう・・・。ほんとやりたい放題ですね、覚えてろです!

 

・・・。

 

あ、ごめんなさい。枕は頭下に置くものです。顔の上に乗せるものじゃないよ?

 

・・・。

 

もぅ・・・。結局人を枕にして寝やがりましたよ。この人は・・・。

 

あはは。気持ちよさそうにしちゃって、しょうがないなぁ。

 

わたしも疲れました。

 

ま、こういうのもいいかな。

 

また明日いっぱい遊びましょうね。おやすみなさい・・・。

 

・・・。

 

・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・。

 

・・・どうしよう。お手洗い行きたい。

 

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ふぁるぷだいありぃ その7

            ~公園~

            PM9:00

 

ミュラはブランコに座り、ぼーっと宙を眺めていた。

まだ家に帰っていないのだろう。中等部の制服を着たままだ。

この時間、その格好はかなり目立つ。

設置された街灯に照らされて、白い生地は特に明るく浮かび上がって見えるからだ。

それがどこか神秘的で、普段のミュラより大人びた印象を僕にもたせた。

「勝ちたかったな・・・」

小さく呟く声が聞こえた。

放っておくにも遅い時間だ。一言声を掛けようと近づいていくとミュラもこちらに気がついたようだ。

「やあ、不良娘」

「あ、先輩」

「もう機会がないわけじゃないだろう?野良試合を挑んでもいいんだし」

「聞かれてました?数こなして勝ってもありがたみが無いっていうか?なんか、ゲームのリセットプレイみたいじゃないですか?あの時。あの一番で勝てなかったのが悔しいんですよ」

気持ちが分かるなんて言えた台詞じゃないけど、伝えたいことは分かる。

連覇のかかった決勝戦。そこに現れた謎の強敵。舞台としては申し分なく熱い場面だった。

「来年の決勝戦は、あの子と瑠環ぴょんかな?チコちゃんもシュガちゃんもまだ来年があるんだんね。・・・あーあ、いいなぁ」

ああ、そうか。

中等部3年生のミュラは今年が最後の大会だ。それで悔いを残してしまったからこそ彼女はこうも沈んでいたのだろう。

ミュラだって負けたことはある。遊びで、練習で、一昨年の大会で。

しかしその時ミュラは落ち込んではいなかった。それはきっと次があったからだ。

負けて悔しいだけじゃない。

本当は勝負の結果よりも、最後の大会が終わってしまったのが寂しいのではないだろうか?

「あーあ、勝ちたかったな・・・」

ミュラがまた呟いた。

どうも思考がネガティブになっているようだ。

試合に敗れ悔し涙を流すことは競技者なら普通だろう。理屈で分かっていても、実際のところ部活も何もやっていない僕には、ミュラを諭す言葉なんてない。

しかし、言いたい事は言わせてもらおう。

それが贅沢な悩みだということを。

「準優勝しといて贅沢言うな。相撲部の連中に謝れ!」

僕はミュラの頭を思い切りわしゃわしゃしてやる。

「ひゃあっ!先輩、何するんですか!」

ミュラが僕の手から逃げ出して抗議の声を上げる。

たぶん本気で嫌がってはいないだろう。

これを朝女の子にやると怒られるが、夕方以降なら案外有りなことを瑠環から学んでいる。

「もう、これだから先輩は・・・」

ぶつぶつと文句を言いながら手櫛で髪を直している。

元々髪型や、おしゃれにそれほど頓着していないのだろう。

ミュラの髪は少し硬かった。でもそれが彼女らしいと思う。

「今日はごめんなさい。わたし暗かったですね。みんなにも悪いことしたな」

「まったくだ。特にメリアさんにはよーく謝っておかないとな」

「そうですね。ありがとうございます。先輩」

「お礼を言われることなんてしてないよ?」

「そんなことないです。先輩は優しいです」

どちらかといえば腹黒いとか、打算的だとかええかっこしいだとか言われることが多い。たぶんそれは合ってると思う。

僕のことをやさしいと言ってくれるのは、大抵純粋ないい子達だ。

「そうでもないよ」

「やさしいですよ。先輩はいつだって先輩は」

「いいや。僕は腹黒くて、打算的なええかっこしいだよ」

「ふぅん。なら先輩はわたしに何か下心があるってことですか?」

「む・・・」

うまく返されてしまった。

しかしそれ以上の追撃もなく、ミュラは気分を入れ替えるかのように、体を伸ばす。

細身に見えるが、華奢な印象を感じさせない洗練された体つきは、いつ見ても綺麗だと思う。

どうやら元気も出てきたようでよかった。

「よしっ。先輩。ちょっと相手してくれませんか?」

「はい?」

「相撲です。おもいっきり、全力で!」

いやいや、それは元気になりすぎだ。

「あの、その格好でですか?」

Tシャツに綿パンの僕はとにかく、ミュラはやりにくいのではないだろうか?

っていうか僕がやりにくい。

薄地のブラウスとか、スカートとか・・・。

どこ掴めというんだろう?

僕の言わんとした事が伝わったのだろうが、ミュラは気にするつもりはなさそうだ。

「うーん。瞬殺するから大丈夫」

昔、同じようなことを言われた気がする。

そうか、これはきっと八つ当たりだ。

今日負けた腹いせに、僕を相手にうさを晴らそうというのだろう。

・・・いいだろう小娘。昔のひ弱な僕と思うなよ。

かつてより広がった体格差。そして僕だって武の名門。アークス学園の学生だ。

中等部で3年間、高等部に入って3ヶ月あまり、培ってきた剣道初段のその力、見せてやる。

昔の借りもあることだし、「強くなりましたね、先輩」とか言わせられたら上等だ。

「うけてたとう」

公園にある芝生の広場で、僕たちは向かい合う。

湧き上がってくる闘士を押さえ込み、僕とミュラは互いに腰を落とし片手をつく。

いつしか周囲の音も聞こえなくなり、公共の場であることも忘れ、愛らしいミュラの姿を意識する事もなく・・・。ただ打ち目の前の相手を打ち倒すにのみ精神を集中させる。ミュラも同じだろう。これまで和やかだった空気が一気に張り詰めたものに変わるのを感じた。

両の拳が地面についたのは同時だった。

「「八卦よい!」」

押さえ込まれていた闘士を爆発させて今、僕は一発の砲弾となる!

2人の間の大気が弾けるように霧散する感覚。コンマ1秒とかからない接敵。

そして。

「ふぉんがるふっ!」

腹のあたりで爆発でもおこったのかというような衝撃が襲った。

抗うすべもなく倒される。

体の上に感じる少女の体重と体温。甘い匂いのする髪の毛が口元をくすぐり、視界には夏の夜空が広がった。

僕の完敗だ。

「先輩。ありがとうございます」

僕を押し倒し、のしかかったままでミュラから発せられた言葉を不思議に思う。

はてさて、何か礼を言われるようなことを僕はしただろうか?

「先輩が本気で相手をしてくれたから、わたしも本気を出させてもらいました」

「あ、そう・・・」

「やっぱり先輩は優しくて面白いです。・・・瑠環ぴょんはいいなぁ。とっちゃおうかな?」

甘えるように頬を摺り寄せる。

・・・これはまずい。

他に人の気配がないとはいえ、夜の公園で制服の女の子に組み敷かれているこの状況。

まずい、非常にまずい。

「あの、僕、汗臭くない?」

「わたし、そんなの気にしないよ」

・・・ごく自然に退いてもらおうという、遠まわしな魂胆は通じなかった。

「ね、先輩」

息遣いを感じるくらい至近距離。僕に覆いかぶさるようにミュラがまっすぐ僕を見下ろしていった。

「先輩は、今好きな人はいますか?」

この状況でそれはずるいと思った。

その質問の意味がわからないほど僕は鈍くはない・・・。

 

「何してるの?」

 

僕からは死角からの人の気配。慣れ親しんだ声に僕は思った。

これは運命だったと。

「瑠環?」

「アハハ・・・。瑠和ぴょん。コンバンハー」

さすがにバツが悪いのだろう。慌てて跳ねるように飛び退くミュラ。

・・・なにはともあれ助かった。

「・・・何してるの?」

ものすごく不機嫌そうな声だ。

・・・訂正。本当の危機はこれからかもしれない。

どこから見ていたのか知らないが、雰囲気から察するに、瑠環は相当ご機嫌斜だ。

「あー、ちょっと相撲を・・・」

「うん。本気の大一番だったんだよ」

嘘ではない。

瑠環も嘘だとは思わないだろう。ミュラが今日の腹いせにと、僕に勝負を振ったとしても少しもおかしくはないからだ。

「ふぅん、お兄ちゃんまた負けたんだ」

・・・うるさいな。相手は元チャンプだぞ?

「ミュラちゃんも相手がお兄ちゃんじゃ弱くてつまんなかったよね」

「そ、そんなことはないよ。先輩は本気で相手してくれたし」

「でも、負けるはずのないよね・・・。そっか、ミュラちゃんはお兄ちゃんを押し倒したかったんだ。ミュラちゃんなら簡単だよね」

これはいつもの瑠環じゃない。

口調に刺というか、毒がある。

これはご機嫌斜めどころじゃない。

僕も初めてみたが、瑠環は本気で怒っている。

それもおそらく僕にではなくミュラに向けてだ。

「瑠環。そんなんじゃないから、落ち着いて聞いて欲しい」

「お兄ちゃんは黙ってて」

ぴしゃりと拒絶され、瑠環がミュラに近づいていく。

そこで何かを囁いたようにみえた。

そして。

「いいんだよお兄ちゃん。敵はあたしがとる」

 

二人の取り組みが始まった。

ミュラは制服や私服ではやはり本気が出せないのだろう。どこかやりづらそうで遠慮が見える。

一方瑠環はそんなこと気にしてはいない。普段見られない気迫で積極的に攻めていく。

何か違う。

瑠環はとてもやさしい子だ。

小さな生き物が好きで、昔は良く昆虫やカエルを大切に育てていた。

それらが死んだときはわんわん泣いて、卵が孵化して幼生が誕生したときには本当に喜んでいた事を覚えている。

僕の前では自然で、時折やんちゃな面もみせるけれど、実は恥ずかしがり屋で、クラスではおとなしくて目立たないタイプらしい。

勉強は苦手だけど、美術や家庭科が得意で、毎日寝起きの悪い僕を起こして、ごはんを作ってくれたりしてくれる。

家庭的であたたかい、やさしい女の子。

それがどうして、今は別人のように熱く、荒々しく激しい・・・。

やがて瑠環はミュラを抱え上げるように持ち上げると地面に叩きつけた。

ひどく暴力的な決着に背筋が震えた。

 

張り詰めた空気のまま何秒かが過ぎて、生暖かい夏の空気が戻ってくる。

勝利した瑠環を称えるべきか。

ミュラに手を差しのべるべきか。

僕は金縛りが溶けたかのように二人のもとへ一歩踏み出した。

「来ないで!」

それは芝生の上に倒れたままのミュラからだった。

「来ないでください」

「でもな・・・」

こんな時間に女の子を一人で放ってはおけないだろう。

しかし、ミュラにかける言葉も思いつかない。

「行こう?お兄ちゃん」

どうしようもできずにその場につったっていた僕の手をひっぱって、瑠環が言う。

「先輩なんか瑠環ぴょんとどこへだって行っちゃえばいいんです!ふんっ!」

「なんで拗ねてるんだよ!?」

「うるさーい!早く行けーっ!」

寝転がったままそっぽを向く姿はまるで駄々をこねる幼い子供のようである。

「もうっ、行くのっ!」

瑠環が強い力で僕の腕を引いて寄り添うように体を密着させる。

ふわりと、小さな体が僕の懐に収まり、それがあまりにしっくりきたので僕はそれを拒めなかった。

欠けていた何かが元に戻ったかのような暖かな安心感。

それには僕も認めざるを得なかった。

そうだ。僕はずっと瑠環とこうしたかった。

公園を後にする時、小さく瑠環の声が聞こえた気がした。

 

「お兄ちゃんは、絶対誰にもわたさない」

 

 

 

              あとがき

ついにやってしまった、ヒロイン同士のガチバトル。 

本気を出したの瑠環ぴょんの前にミュラさんひとたまりもありませんでした。話は瑠環ぴょんルートへ・・・。ミュラさんはヒロイン脱落です。

実は物語はこの後夏休みに入っていくのですが、シナリオを2通り考えていましてギャルゲーで言えばここが分岐ポイントです。

さて、話は変わりますが、最近瑠環さんも自キャラの小説を書き始めたご様子です。

pixivで公開していらっしゃるようなので、瑠環さんのブログ「カエルの合羽」からみにいくことができます。

このブログとリンクしてもらてますので、そちらからどうぞ。

わたしはどうもPSO2での瑠環さんのイメージから、強くて勝気な性格になってしまっていますが、

本当はピュアで心優しいキャラクターです。

寝ているお兄ちゃんに飛び乗ったりするような子ではありませんでした・・・。

でも今更変えれない。やっちゃったなー。

それどころか、ついにキレさせちゃったし・・・。

ヤンデレ成分まで入れちゃったし・・・。

怒られるかなー?どうかなー?

怒られたら削除しますのであしからずです・・・。

 

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