頂き物小説
チームメイトのよみねこさんが小説を書いてくれました。
ご自身には発表する場が無いとのことなのでうちのに載っけちゃいます。
ふぁるぷだいありぃ その6を別視点から見たお話です。わたしのとこではまだ未登場のフェリオさんが出ていらっしゃいますよ?
こうして物語に乗ってきてくださるのってうれしいですね。
よみねこは眠らない
著者 よみねこ
開催当日 AM 04:04
快晴。遠方の星や月の輪郭もよく見える。そんな早朝。
暗視スコープの先では、数人の影が左右に動き車両から積荷を降ろしている様子が伺える。距離およそ80。
「多い」
両眼型暗視装置を覗きながら、フェリオが呟く。多いというのは人数のことだろうか、それとも積荷の事だろうか。
リコリスは腹ばいになり、木陰から目標を指している銃身を抱えなおした。
暗視スコープ、T字のレティクルの先には、人数5名、積荷は目測10キロ弱。取り囲むように立ち、談笑をしている様子が伺える。
「人数多いね」
その積荷の量に対して、木刀などで武装した4名と、なにかを指揮する1名。武装戦力4名は「この手の犯罪」には多く感じた。
普段剣道の連中であれば竹刀を持ち歩きそうだが、木刀であるあたり、危険な存在であることを伺わせる。
「80だと遠すぎない?」
スポッターを務めるフェリオからすると、その目標は遠い。
実際の狙撃銃であれば、有効範囲はおよそ500m。当然実銃なんか所持できないので、フェリオ謹製の空気銃だ。
普通のエアガンにはない、圧縮空気をためたシリンダーが装着されている。素人でこんなものが作れるのかは疑問だが、フェリオの場合は家の関係で、容易いことなのだろう。
元はエアガンか何かを改造したようだ。発射される弾丸はゴム製であり、単発ずつしか発射できない。最大有効射程はおよそ25mと聞いている。おそらく方便だ。
当然80は届く距離ではないし、届いたとしても着弾確認なんてできない。
届くか届かないかで言われると届かないが、当たるか当たらないかで言われると、当てる自信があった。
「んー。まぁなんとか、かな。イノシシ狩るわけではないし。どの道これ以上近づけないし」
山林の中腹から見下ろす形で陣取ってる彼女らにはこれ以上の場所はない。
同時に狙撃を行うのであれば、身動きが取れないことを意味していた。
狙撃手を務めるリコリスは、再び暗視スコープの調整を行う。
面倒とは思わない。まぁ、既定の範囲内で収まらないのはいつものこと。
要するに当てて、対象にマーキングさえできればそれでよい。
開催3日前 PM 09:17
事の始まりは、風紀の連中から来た要請だった。
「3日後の大会にて、博打で儲けようとする輩がいることが判明している」
窓の外を眺めながら、ソファに腰掛ける4名に伝える風紀委員長、ジョウ。
「ただの博打なら正直どうでもよいのだが、今回は物品が取引に使われるようだ。そのブツが良くない」
淡々と述べる。
真面目に聞くフェリオとリコリス。煎餅を齧りながらふんふん言っているよみねこ。通称みーこ。Tシャツ短パン。
「今回の目的は、その取引の阻止だ。連中の確保に手段は問わないが、確実に積荷は確保のち投棄すること」
振り返る。そしてみーこの様子に眉が上る。しかしいつもの事と言い聞かせ、特に口を挟まない。
「その条件で作戦を提示して頂きたい。『治安維持専門の』リコリス嬢、そしてフェリオ嬢」
「了解、とりあえず情報収集と、対応の検討かな」
リコリスは携帯端末を鞄から取り出し、なにやら操作を始める。フェリオはすでに机の影で操作を行っているようだ。
「あれ!?うちは?」
みーこが煎餅を咥えたままで質問を投げる。
おまえは風紀委員だろうが・・・。
「みーこはいつもどおり頼む。ああ、それから」
すっと3名と同じ目線に腰を落とし、凄味のある声で通知する。
「積荷の中身は見るな。必ず投棄しろ。必ずだ」
ここからみーこの準備が始まる。それは結構多難な道であったようだが、リコリスの知るところではない。
開催当日 AM 05:30
作戦はこうだ。彼らの近くに控えた「風紀委員」の肩書を持つみーこを囮に、対象の注意を惹きつける。そこへ狙撃にて超小型発信機を対象に貼り付ける。数は多いほうがいい。
のちに風紀委員で確保。確保にはさまざまなプロセスを踏むようだが、正直そこまでやる必要は理解できない。みーことジョウに、なにか考えがあってのことだろうか。
暴力的で愚直な作戦だが、強硬してでも内密に事を進めたかった、みーこの要請でもある。
意図はわからないが、どうも大会で八百長が噛んでいる可能性を危惧したため、調査と準備に時間を要したようだ。
『あーあー、んん。リコリコフェリオン聞こえますかー』
間の抜けた声がイヤホンを通して聞こえた。みーこからの秘匿通信だ。
「いい加減コードネームで呼んでくれよ。こちらミズーリ01。すでに配置についている」
リコリスが訂正する。フェリオは双眼鏡に切り替え、笑いながらみーこのいると思われる方角を覗いている。
なにか面白いことでもしているのだろうか。
案外こいつら仲良くて、みーこはフェリオのガレージへ頻繁に足運んでる様子。今はなにかサインでも出し合っているのだろうか。笑いを堪えるフェリオが気持ち悪い。
『あーせやったせやった。どうも横文字は覚えれん。で、対象の状況を教えて?』
「ミズーリ02です。対象は5名、うち4名は刀剣での武装を確認。積荷はダンボール1箱。なにか大きめのものですね。それなりに重さがありそうです」
フェリオが代行して伝える。リコリスが01、フェリオが02。なんやそれー、とみーこは馬鹿にして一度も呼んでくれない。
「すでに車から荷物を降ろし終えて、こちらからは見えない位置で開封したようです。梱包材が車両に投げ込まれてました。車両はすでに立ち去っています」
『りょーかいー。では作戦通り接触して注意を引くから、リコフェリアームスはそっちの判断でぺったんこしちゃって頂戴です』
「了解」
「ミズーリだっつの」
『だからなんやそれー。ええわ、作戦かいしー』
作戦開始 AM 05:42
スコープの先に、ばしっと黒服で揃えたみーこが対象と話しているのが見える。
まだ射線がよくないが、目標はみーこの周囲に集まりつつある。
すっとフェリオが腕を上げる。リコリスはそれに添いトリガーに指を掛ける。
なにかをみーこが話しているが、その声までは届かない。無線のスイッチを切っているようだ。
「なにやってるんだあいつ」
みーこがやたら対象と親しげなのが気になる。
「なにか話し込んでるね・・。あ、なんか受け取った。本?」
受け取った本と思われるものを、みーこは懐にしまう。そのまま自然に横へ移動し、射線を確保する。
対象はきれいに陣を描いており、一網打尽にするなら今しかないチャンスとなった。
「いくよ」
「おう」
どれか一人に当たれば確保は容易い。逃走を図ったとしても、さらに後詰している風紀の連中、みーこの仲間に任せればよい。
つ、と無線の音が聞こえた。みーこが電源を入れたようだ。
『ほな風紀はこの事黙っとるし、あとは良しなに~』
すっとみーこが手を挙げる。合図だ。
「左から2番目のハゲの貴族っぽいのに照準。構え」
レティクルを合わせる。ばっちりハゲの背中だ。ちょっと噴出しそうになるが、我慢。
かさ、と背後より音がしたが、フェリオがなにかしたか、風で草木が揺れた音だろうか。
ほのかに荒い息遣い。フェリオめ、緊張してるか?息が荒いぜ。
「フェリオ、息荒いよ」
「リコリスー息荒くない?」
お互いにそう突っ込む。意識していなかったが、自分の息遣いも荒かったようだ。
「てっ」
フェリオが腕を水平に下ろした瞬間、トリガーを引く。
しかし、引いた瞬間に寝転がった足からなにかの衝撃を受け、軽くレティクルが揺れた。
「あ」
バシュッキンッと小さな射撃音を残し、リコリスはぶれたスコープを覗く。
『へぐっ?!』
腹部を押さえ、ゆっくりを膝を突くみーこ。
「「みーこにあたったぁああぁぁ!」」
想定よりも明らかに威力が強かったようだ。倒れこそしないものの、痛そうにしている様子がよくわかる。
やっちまったぁーとリコリスは後ろを振り返り、また再び驚く。
なに?とフェリオもつられて振り返り、ひっと小さく声をあげた。
豚にしては強そうな、筋肉質であることが伺える黒い体毛の生物。
「「イノシシだぁー!」」
「フェリオ火、火!爆竹!」
「そんなものあるわけないよー…」
「山行くなら持っとけよ…とと、とりあえずこのライフルで・・ってケーブル!暗視のバッテリケーブル邪魔!」
「なんでバッテリ背負ってないの?そだ足、足のエアガンは?」
「おお、おおお、そうだそうだ、私は持ってるんだった。フェリオ落ち着いてるな、って」
だしゅん!と軽い音が3回。矢が降ってきた。
1本はフェリオの横にあった木の幹に、70度近い角度で突き刺さる。
1本はリコリスの尻があった場所に突き刺さっている。おおよそ90度。イノシシ襲来で体を起こしたのが幸いした。
1本は思い切り、いま走り出そうとしたイノシシの頭部から地面に突き刺さっている。昇天。
『なーんでうちを・・ぐふ、撃つねん~…さてはリコリコ、こいつらとグルだな~・・』
フェリオが双眼鏡で覗くと、だいぶへっぴり腰で弓を空へ射った体制のみーこ。
「あいつ、弓道13位だっけ・・・」
「そう、全国でね。学年じゃなく」
顔を見合わせるリコリスとフェリオ。肯く。考えが一致したらしい。
「80離れてて弓でこの命中率とか洒落にならん、しかも3本。あほの所業だ逃げろ」
「わわ分かれようリコ分かれよう私あっち」
「おう、おう!」
『またんかー!こらー!作戦変更、1班は詐欺集団の処理、2班から4班まではリコリス確保!散開!』
ここから数時間、リコリスは逃げ回ることになる。山の中から市街地へ、海へ川へ。
途中、フェリオは「自宅の工房で整備の仕事があるから先帰るね~」と無線で伝えると、みーこから『お疲れさま!』の通信。
リコリスは「納得いかねぇ!」と叫びつつ、逃げ隠れ跳ね回る羽目となった。
なお想定とは違ったが、一連の出来事に拍子抜けした犯人達を、現場にいた他の風紀委員により無理やり「現行犯」とすることで、無事に賭け事は阻止できたようだ。
大会終了後 PM 03:51
風紀委員室。夕日差し込むブラインダの隙間に指を入れ、押し下げて外を見つめるジョウ。
「対象の確保完了。指示通り学内での施設にて拘束しています」
1班の班長から、状況について報告を受けている最中。委員長、何かを絶対意識してるな、とは思っていても声に出せなかった。
なおみーこはジョウの直属なので、班はない。
「対象の所持していたブツは確保できたか」
「数冊紛失していますが、ほぼ確保できております」
「中身は見たか」
一拍置いて
「いえ、中身は」
見たな。
一拍置いて。
「わかった。大会の1位についてなにか進展は」
「ありません。素性が隠れすぎているので、逆に今回の八百長疑惑が更に強まっています」
「引き続き頼む。下がってよろしい」
「失礼します」
ちら、と机に置かれた梱包されなおした押収品を見つめる。
これが世に出回るのは避けたいからな。
「ああ、待て。これを返しておいてほしい」
班長に鍵を渡す。いまどき南京錠の鍵だ。
「これは?」
「飼育委員から借りた鍵だ。事に関しては伝えてある。"例の野生動物については処理完了済み、今は空の檻"だと添えて、返してくれ」
「了解。改めて失礼します」
1班班長が去った後、ジョウは再びブラインダの外に目を向ける。
「リコリス、お楽しみ頂けただろうか」
ふふっと笑みを零す。
「そうであるならば、実によし」
某宅 PM 06:34
縁側に腰掛けるみーことリコリス。中からは楽しそうな談笑が聞こえる。
仲良く庭に放り出されて数分。リコリスはみーこから事の顛末を聞かされていた。
「んでな、そのレアモノほしいやつがチケット購入するねん。で、大会で1位を当てたやつにレアモノがあたるちゅう仕組み」
「なんだそれ。宝くじや競馬みたいなものか」
「そそ。当然大会みたいなものは1位を当てやすい。なので1位を挿げ替えるとか八百長するんでないかと疑って調査してたわけ」
「なるほどな。結果、周囲の予想は裏切られたと」
「そっちは想定外やけどねー。あと撃たれたのも」
「いやそっちは悪かったって。なぜか悪人の汚名着せられてることでチャラにしてくれ」
「ほいほい、そりゃええねん。もちっと悪人演じといてくれると助かるわ」
「面倒だけど、まぁ仕方ない。あそこになぜかイノシシが出てきた悪運を呪うしかないな」
「なんでイノシシが、そんなとこに。ちょっと前にも里に降りてきたばかりやろ」
「しらん。まぁおかげで肉にありつけたんだ、よしとしようぜ」
うちまだ大して食っとらんわ、りこにほとんど食われたわ。とぼそり。
「ところで遠距離で、かつただの発信機とはいえさ、狙撃されてよく平気だったな~。さすがジョウの直属?」
「うちが就ける職位がないだけや…ただの小間使い」
「小間使いが寝ずに走り回るかよ・・・。てかあれ、フェリオ謹製の空気銃。普通悶絶モノだぜ。かなり違法な」
「そんなもん持ち出しとったんかいな・・・。ぞっとするわ」
苦笑しあう。実際のところ、仲は悪くなかったりする。
「ぴんぴんしてるのは、たぶんこれのおかげやねー」
懐から押収したモノを取り出す。
「本?『ジョセフィーヌ 水着写真集 未熟な果実』?なんだそれ」
「ふふ、会長の闇歴史。うちが会長と呼ぶ原点や」
後日談として、しっかりとジョウに回収されたようだが、みーこのことだ。スキャンやらバックアップやらでちゃっかり確保していることだろう。
きっとこれからも、影で沢山の出来事を解決することだろう。しかしそれは、また別のお話。
これは、そのほんの一片。
※SSということで、あえて風景描写は最小限以下に抑えました
また、風景描写とキャラの表情を絵に頼るキャラゲーという形に添って組み立てました。
キャラも本編で生きているので、個性もあまり出しませんでした。あくまで、何があったか、の物語を筋書きにした雰囲気です。
個人的にこのSSは中途半端ですが、本編を楽しく読めているのでそのお礼に、ちょっとした物語を添えました
これからもがんばってください!
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