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2015年7月

ふぁるぷだいありぃ その9

             7月21日

          ~自宅 リビング~

 

穏やかな朝だった。

瑠環がいつものように僕を起こしに来て、リビングに降りれば朝食が用意されているこれまでと変わらない朝の始まり。

やや違ったことといえば、瑠環が起こしに来る前にすでに僕が目を覚ましていたことだろうか?

瑠環が少し不満そうな顔をしていたがただそれだけの、いつもよりほんの少し余裕があるだけの日常の朝。

すっかりうるさくなったセミの声と、瑠環が食器を片付ける音をBGMに、ゆったりと食後のコーヒーを愉しむ。

学園も今日は終業式とホームルームがあるだけで、午後からは晴れて夏休み突入と思えば気持ちに余裕も出てこようというものである。

瑠環がいれてくれた僕好みの砂糖抜き、ミルク少量のコーヒーを口に運びつつ、タブレットPCを操作する。

お気に入りから開いたのは学園の報道部によるウェブニュースのサイトだ。

ちなみにアークス学園には、こういった学園で起こった出来事を紹介するサイトが2つある。

1つは新聞部が運営するサイト。

もう一つP&T報道部が運営するサイトだ。

新聞部と報道部。なぜ似通った内容の部活動がそれぞれ存在するのか疑問に思うかもしれないが、アークス学園は書類一枚書くだけで一人からでも新しく部活動を始めることができる。

もちろん、最初は活動場所もなければ部費も出ないし指導する顧問もいない。

それらは各部の熱意や認知度、活動実績に応じてついてくるのである。

だからアークス学園では野球をする部活でも野球部、硬式野球部、ベースボール部の3つがあって日々活動場所で揉めているし、ニュースサイトも2つある。

新聞部が真面目で健全な内容であるのに対して、ゴシップ誌的なノリが強い報道部は学園生にとってわかりきった事柄を当たり障りなく報じる新聞部より人気がある。

対外用の新聞部と身内用の報道部で良い住み分けができていると言えるだろう。

「ぷっ!」

報道部が運営するニュースサイト、P&T通信を開いた僕は、飛び込んできた画像におもわず吹き出した。

先日の中等部相撲大会での決勝戦で勝負が決まった瞬間、豪快に投げられて年頃の娘にあるまじき格好でひっくり返ったミュラの姿がローアングルで大きく見出しを飾っていた。

カメラマンのパティ先輩はよほどいい位置にいたようだ。きっと夢中でシャッターを切っていたに違いない。

快挙!女子の部一年生初優勝!とありながら、その優勝した一年生の姿がつま先しか写ってい何のはどういうことだろう?

「どうしたの?お兄ちゃん?・・・わっ、何それ!」

横から覗いた瑠環もどうもツボはいったらしい。

さすがに大口を開けて笑ったりはしないが、背を向けたその方が肩が小さく震えている。

「あははは!・・・お前も酷い奴だな、そんなに笑ったらミュラに悪いだろう?」

「お兄ちゃんこそ!」

ひとしきり笑って画像もしっかり保存。それから次の記事に目を移す。

 

大規模賭博、元締を逮捕!

女子では無名の一年生女子が優勝を果たし、大変盛り上がった相撲大会であったが選手たちが健闘する影で大規模な賭博が行われていたことが明らかになった。

同日深夜、大捕物の末、風紀委員会と生徒会は賭博を主催していたと思われる生徒とその他数名を逮捕した。

その際、妖怪メダル末端価格にして1万円相当と、大量の生徒の写真、データ、ネガなどが押収された模様である……。

 

こんな記事は外部向けの新聞部のサイトには載せられないだろう。

目隠し線をされたちびっ子爆乳娘が風紀委員長に首根っこを囲まれて連行されていく写真が掲載されている。

一つの悪が滅びた・・・。

清々しい気持ちで次の記事へと進む。

 

スクープ!夜の大将軍!酒池肉林の宴!

 

報道部は高等部2年生のパティ&ティア姉妹によって切り盛りされているが、早いとこ顧問の先生がついて監督してもらったほうがいいのではないだろうか?

全員目隠し線がされていたが、どこかでみたようなお下げ髪やポニーテールやツインテールの女の子達が鍋を囲み、和気藹々とホームパーティーを楽しむ様子が幾つもの写真付きで掲載されている。

……会場になっている室内、今いるリビングにとても良く似ている気がする。

そしてよく見ると男子生徒が一人混じっているようだ。

……親近感を感じる背格好、着ているシャツもパンツも同じものを最近着た気がする。

「はい、あーん」って感じで互いに食べさせ合って、まるで酔ったかのように甘え擦り寄り、しっかり食べて膨れたお腹を労わるように寄り添い、譲れぬ物のために戦い、絡み合う。

仲のいい友達同士で集まり、なんとも微笑ましくも楽しそうな光景だが、さてさてそこに一人だけ男子が混じっているとなればそれは人の目にどのように映るか……。

これが先日我が家で催された鍋パーティーの様子だと確信した時、僕は叫んでいた。

「なんじゃこりゃーっ!」

突然上がった僕の大声に驚いた瑠環が、洗っていた茶碗を取り落として甲高い破砕音が鳴る。

「ひゃあっ!?」

瑠環の悲鳴が上がり、余裕のあった朝の時間は終わりを告げた。

 

 

 

                AM8:40

          ~アークス学園高等部1-1教室~

 

「ちぇぇぇすとぉぉぉ!」

栗色のツインテールめがけて上段から振り落とされた竹刀の一撃は目標を外し、教室の中に雷鳴の如き炸裂音が鳴り響いた。

僕は小さく舌打ちする。

いつものように窓から登校してきたところを狙ったが、あと少しのところでダイブロールで教室に飛び込まれてしまった。

「ほ、本気だな相棒」

あわや頭を割られるところだっただけに流石のリコたんも声が上ずっている。

しかし僕もビビらせたくらいで満足はしない。

「うるさい死ね」

うちで鍋を食べてた時、こいつがやたら携帯で写メを撮っていたが、まさかこんな事に使われるとは思わなかった。

おかげで今日登校中に向けられる視線は痛いし、色々ヒソヒソ声は聴こえてくるし、3度ほど嫉妬に狂った学園生に命を狙われたし、下駄箱に入っている不幸の手紙も過去最大の枚数を記録した。

「オレだってお前に売られて捕まったあと散々説教された挙句一昨日1日中寮の草むしりさせられたんだぜ?俺の休日どうしてくれる」

「知ったことか!」

そんなの自業自得であって同情の余地などありはしない。

僕は怒りを込めた剣打を再び放つ。

バシッっと竹刀の乾いた音が鳴り、僕は目を見張った。

一瞬翻ったスカート。肉付きのいい太ももに巻きつけられたホルスターから颯爽と引き抜かれたトンファーで頭頂部を狙った僕の打ち込みを受け止めていたからだ。

その短いスカートで隠せる長さじゃないだろう?

そんな突っ込みを入れる余裕はなかった。

リコたんはすでに両腕にトンファーを装備していた。片腕で竹刀を受け止めたリコたんは、もう一方の腕で僕の脇腹を狙ってくる。

トンファーを回転させた殴打、なんとかそれを竹刀を引いて柄で防ぐ。

攻守は一転。僕は慌てて後方に飛び退かざるを得なかった。下がった瞬間、僕の頭のあった位置をリコたんの足が凪いだ。

パンツが見えたとかそれどころじゃない。

あんないい足で蹴られたら死ねる。

……間違えた。あんないい蹴りくらったら死ねる。

すかさず追撃をかけようとするリコたんを、僕は竹刀のリーチを生かしてその動きを牽制する。

ニヤリと笑みを浮かべるリコたん。それに対してこっちも自分なりに不敵な笑みというのを演じてみせる。

これは相手に余裕を見せつけるための心理戦なのだ。相手の気に呑まれ心が萎縮してしまったら判断が鈍り、身体の動きも硬くなってしまう。

「結構やるじゃないか相棒」

「お前もな、いつもそんなもの持ち歩いてるのか?」

「これくらい乙女の嗜みってやつだぜ?」

「面白い冗談だ。乙女なんてどこにいるんだよ」

軽口を叩きながらジリジリと相手の好きを伺い合う。

飛び込まれたら不利なのはさっきの瞬間に理解した。

リーチはこっちが長いが、狭く障害物の多い教室の中では竹刀はあまり大きく振り回すことができない。

狙うは一撃必殺。それを当てれればこっちの勝ち。しかしその一撃をさばかれた場合、接近したリコたんの攻撃をしのぎきる自身は僕にはなかった。

遠巻きに見守っているクラスメイト達から、どっちが勝つかを賭ける声が聞こえてくる。

「この勝負どう見る?フェリオ?」

「リコリスにクレアちゃんのパンツ1枚」

「なら俺は2枚」

「誰か彩乃介に賭ける奴いないのか?千尋は?」

「ボクはその他の結末に10枚かな」

「「その他!?」」

「ぅーぅ、どうしてボクのパンツで賭けをしてるのかなぁ……」

 

まったく、このクラスはどいつもこいつも……。

しかし、そんな緊迫した時間は突然窓から雪崩込んできた一団の乱入によって妨げられた。

 

「パティ先輩!まちやがれです!」

「報道の自由は表現の自由!あたしたちは決して暴力に屈したりはしなーい!……ティア助けてぇ!」

「もう、他のクラスに迷惑をかけるんじゃない!……スミマセン。バカ姉がいつものごとく迷惑をおかけしております」

「わたしがお嫁にいけなかったら先輩のせいですからね!この落とし前はきっちりつけさせてもらいますからね!」

「大丈夫、キミなら大人しくしてれば引く手数多だから!そうだ!キミの彼氏募集でこんど特集組んじゃおう!そうしようティア!」

「そんなの大きなお世話です!」

「はいはいはい。あー、もう。なんであたしまで一緒になって走り回ってるんだろう……。」

 

窓から入ってきた乱入者は教室の中を走り回った挙句、廊下へと走り去っていった。

 

「……追わなくていいのか?」

確かに報道部には言いたいことは山ほどある。しかし今はそれより優先することがあった。

「お前を殺す方が先だ」

「上等だぜ」

再び二人の間の緊張感が高まり、お互いに一撃を放とうと踏み込もうとした瞬間だった。

「いい加減にしなさい!」

しかしまたも現れた乱入者に僕とリコたんは続けざまに眉間を丸めた教科書で叩かれる。

「……ショコミソ委員長?」

このクラスのクラス委員を務めるショコミソは、スラリとした体躯に年齢よりも大人びて見える理知的な印象もあって、社長秘書かエリートキャリアウーマンを思わせる女の子だ。あと、眼鏡と頭のてっぺんから伸びたうさ耳が可愛らしい。

「おいおい。男同士の決闘に水を差すなんて野暮だぜコミたん」

お前いつ男になった?というツッコミは誰からも起きなかった。

こいつはある意味このクラスの誰よりも男らしい。

しかししっかりもののショコミソ委員長が取り合うはずもない。

「うるさい馬鹿ども。あんたらがいつもいつもいつも余計な騒ぎ起こしてくれるおかげで、こっちはすっかり生徒会と風紀委員に目を付けられてるんだからね!この前だってあんた捕まえるの手伝わされたし、罰の草刈も監督させられたし!」

クラス中から委員長には同情の視線が、リコたんには非難の視線が注がれる。

「わ、悪かったよ……」

「別にもう慣れたわ。それよりも、あんた達まだ学祭のクラス企画まだ何するか決めてないでしょう?このクラスだけまだ企画が未提出だって実行委員会から催促されたわよ?」

「「あ」」

それを聞いて僕とリコたんは揃って顔を見合わせた。

すっかり忘れていたが僕はこいつと一緒に学祭のクラス企画を任されていたのだ。

何の部活も委員会にも所属せずに何かと暇そうだからという理由で押し付けられたのである。

「学祭って9月だろう?まだ一ヶ月以上あるじゃないか」

呑気に宣ったリコたんの頭をショコミソ委員長は今度は国語辞典で殴った。

うめき声を上げて崩れ落ちるリコたん。

「あんた学祭が始まるのいつからかわかってる?二学期の始業式の次の日よ?さあ、今日は何の日かしら?これから何があるのかしら?」

「……一学期の終業式です」

「よろしい。で、明日から夏休みだけどどうするの?準備は?会場は?人手は?そもそもいったいうちは何するの?」

「うぐぐぅ……」

ショコミソ委員長に問い詰められ、リコたんは苦虫を噛み潰したような顔をしているが今回は僕もいい気味だと笑ってはいられない。

委員長の視線が今度は僕の方に向けられる。

「あなたは何か意見があるのかしら?彩乃介君?」

僕は腹を据えて正直に答えた。

「どうせ大した事は出来ないだろうし、そんなに急がなくてもいいんじゃないかと思ってた」

「まぁ、わからなくもないけどね」

ショコミソ委員長は天使のような笑顔で、僕の頭にも国語辞典を振り下ろした。

衝撃が脳みそを揺さぶり首筋から体幹を震わせる。

ちなみに彼女の眼鏡の奥に見える瞳は思いのほか楽しそうだった。

 

この学園の学園祭はショコミソ委員長が言った通り、中等部、高等部合同で2学期の初めに3日間かけて行われる。

その期間中はクラス、部活動、個人、OBOGその他に地域住民の皆様や、招待された方々による様々な発表、出店などが催されるが、主軸になるのはクラスと各部活動による出店や企画だ。

特に売上の一部を部費に計上できるということもあって、各部活道は夜店の出店に並々ならぬ意欲を燃やす。

そのため僕たち1年生がどうしても部活優先になってしまうのは仕方がない。部活動という枠組みの中では先輩、後輩という厳しい上下関係があるからだ。

クラスの大半は部活ごとの活動に忙しいだろうからほとんど戦力にならないのはわかっていた。

文系の部活動ならばそれほど厳しくはないだろうが、残念ながらこのクラスは運動部に所属しているために、予めクラスの出し物には時間が取れないと言ってくる者が多かったのだ。

当日、自由に時間が取れるのは僕やリコたんを含め5、6人程度といったところだろう。

もちろん注目度の大きい企画をやるとなれば、部活に青春かけてる連中を引っ張ってくることもできるだろうが、最初からこの状況だったので僕もやる気なんてさっぱり無く、前日ちょこっと準備するだけでできる企画を考えればいいやとのんびり構えていたのだ。

「とにかく今日中にクラス企画を決めなさい!何かをするにして何もしないにしても、事前に届出が必要なの。活動場所だって取り合いで、この教室だって使ってなければ他が使いたいって言ってきたときにそれを断ることはできないんだからね?……みんな!終業式終わったら臨時でホームルーム開くわよ?いいわね?」

クラスの中から少なからず非難の声が上がる。

せっかく晴れて夏休みに入るというのに出鼻をくじかれてはそれも仕方がない。

それに前述のとおり、部活動に忙しい連中が多いのだ。

それらの活動は終業式やホームルームが終わって午後からだろうが、彼らの貴重な余暇時間を使わせてしまうことになる。

僕はリコたんと並んで手を合わせて申し訳無い、というポーズを取る。

概ねしょうがないなぁ……という雰囲気ではあるが、さすがにそのホームルームにはあまり時間をかけたくない。

それに比較的理解のあるクラスの連中はとにかく、今僕は迂闊に他の生徒が集まる場所に出ると命が危うい。

「仕方ない。式サボって少し考えとくか」

「だな」

そんなわけで僕とリコたんは終業式の時間、こっそり教室に残り学祭の計画を練ることになったのである。

 

 

 

           あとがき

 

4月の初めに8話を出してから3ヶ月……。

皆様、まだ覚えていてくださってますかね?

チームメンバーでギャルゲーっぽい話をやってみようってことで超マイペース更新を続けていますふぁるぷだいありぃ、その9話をお届けです。

前の話でミュラを倒して瑠環ちゃんが主人公をお持ち帰りしたわけですが……。ギャルゲーならそこで何やらあるかもしれませんが全く何もありませんでした。

そして話は学校再編に入ります。

時間がまたひどく空いてしまったこともあり、物語がまたも仕様変更されてます。

……はい。主人公に彩乃介という名前が入ってます。

いずれ登場人物紹介きちんとやりたいですね。

 

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