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ふぁるぷだいありぃ その7

            ~公園~

            PM9:00

 

ミュラはブランコに座り、ぼーっと宙を眺めていた。

まだ家に帰っていないのだろう。中等部の制服を着たままだ。

この時間、その格好はかなり目立つ。

設置された街灯に照らされて、白い生地は特に明るく浮かび上がって見えるからだ。

それがどこか神秘的で、普段のミュラより大人びた印象を僕にもたせた。

「勝ちたかったな・・・」

小さく呟く声が聞こえた。

放っておくにも遅い時間だ。一言声を掛けようと近づいていくとミュラもこちらに気がついたようだ。

「やあ、不良娘」

「あ、先輩」

「もう機会がないわけじゃないだろう?野良試合を挑んでもいいんだし」

「聞かれてました?数こなして勝ってもありがたみが無いっていうか?なんか、ゲームのリセットプレイみたいじゃないですか?あの時。あの一番で勝てなかったのが悔しいんですよ」

気持ちが分かるなんて言えた台詞じゃないけど、伝えたいことは分かる。

連覇のかかった決勝戦。そこに現れた謎の強敵。舞台としては申し分なく熱い場面だった。

「来年の決勝戦は、あの子と瑠環ぴょんかな?チコちゃんもシュガちゃんもまだ来年があるんだんね。・・・あーあ、いいなぁ」

ああ、そうか。

中等部3年生のミュラは今年が最後の大会だ。それで悔いを残してしまったからこそ彼女はこうも沈んでいたのだろう。

ミュラだって負けたことはある。遊びで、練習で、一昨年の大会で。

しかしその時ミュラは落ち込んではいなかった。それはきっと次があったからだ。

負けて悔しいだけじゃない。

本当は勝負の結果よりも、最後の大会が終わってしまったのが寂しいのではないだろうか?

「あーあ、勝ちたかったな・・・」

ミュラがまた呟いた。

どうも思考がネガティブになっているようだ。

試合に敗れ悔し涙を流すことは競技者なら普通だろう。理屈で分かっていても、実際のところ部活も何もやっていない僕には、ミュラを諭す言葉なんてない。

しかし、言いたい事は言わせてもらおう。

それが贅沢な悩みだということを。

「準優勝しといて贅沢言うな。相撲部の連中に謝れ!」

僕はミュラの頭を思い切りわしゃわしゃしてやる。

「ひゃあっ!先輩、何するんですか!」

ミュラが僕の手から逃げ出して抗議の声を上げる。

たぶん本気で嫌がってはいないだろう。

これを朝女の子にやると怒られるが、夕方以降なら案外有りなことを瑠環から学んでいる。

「もう、これだから先輩は・・・」

ぶつぶつと文句を言いながら手櫛で髪を直している。

元々髪型や、おしゃれにそれほど頓着していないのだろう。

ミュラの髪は少し硬かった。でもそれが彼女らしいと思う。

「今日はごめんなさい。わたし暗かったですね。みんなにも悪いことしたな」

「まったくだ。特にメリアさんにはよーく謝っておかないとな」

「そうですね。ありがとうございます。先輩」

「お礼を言われることなんてしてないよ?」

「そんなことないです。先輩は優しいです」

どちらかといえば腹黒いとか、打算的だとかええかっこしいだとか言われることが多い。たぶんそれは合ってると思う。

僕のことをやさしいと言ってくれるのは、大抵純粋ないい子達だ。

「そうでもないよ」

「やさしいですよ。先輩はいつだって先輩は」

「いいや。僕は腹黒くて、打算的なええかっこしいだよ」

「ふぅん。なら先輩はわたしに何か下心があるってことですか?」

「む・・・」

うまく返されてしまった。

しかしそれ以上の追撃もなく、ミュラは気分を入れ替えるかのように、体を伸ばす。

細身に見えるが、華奢な印象を感じさせない洗練された体つきは、いつ見ても綺麗だと思う。

どうやら元気も出てきたようでよかった。

「よしっ。先輩。ちょっと相手してくれませんか?」

「はい?」

「相撲です。おもいっきり、全力で!」

いやいや、それは元気になりすぎだ。

「あの、その格好でですか?」

Tシャツに綿パンの僕はとにかく、ミュラはやりにくいのではないだろうか?

っていうか僕がやりにくい。

薄地のブラウスとか、スカートとか・・・。

どこ掴めというんだろう?

僕の言わんとした事が伝わったのだろうが、ミュラは気にするつもりはなさそうだ。

「うーん。瞬殺するから大丈夫」

昔、同じようなことを言われた気がする。

そうか、これはきっと八つ当たりだ。

今日負けた腹いせに、僕を相手にうさを晴らそうというのだろう。

・・・いいだろう小娘。昔のひ弱な僕と思うなよ。

かつてより広がった体格差。そして僕だって武の名門。アークス学園の学生だ。

中等部で3年間、高等部に入って3ヶ月あまり、培ってきた剣道初段のその力、見せてやる。

昔の借りもあることだし、「強くなりましたね、先輩」とか言わせられたら上等だ。

「うけてたとう」

公園にある芝生の広場で、僕たちは向かい合う。

湧き上がってくる闘士を押さえ込み、僕とミュラは互いに腰を落とし片手をつく。

いつしか周囲の音も聞こえなくなり、公共の場であることも忘れ、愛らしいミュラの姿を意識する事もなく・・・。ただ打ち目の前の相手を打ち倒すにのみ精神を集中させる。ミュラも同じだろう。これまで和やかだった空気が一気に張り詰めたものに変わるのを感じた。

両の拳が地面についたのは同時だった。

「「八卦よい!」」

押さえ込まれていた闘士を爆発させて今、僕は一発の砲弾となる!

2人の間の大気が弾けるように霧散する感覚。コンマ1秒とかからない接敵。

そして。

「ふぉんがるふっ!」

腹のあたりで爆発でもおこったのかというような衝撃が襲った。

抗うすべもなく倒される。

体の上に感じる少女の体重と体温。甘い匂いのする髪の毛が口元をくすぐり、視界には夏の夜空が広がった。

僕の完敗だ。

「先輩。ありがとうございます」

僕を押し倒し、のしかかったままでミュラから発せられた言葉を不思議に思う。

はてさて、何か礼を言われるようなことを僕はしただろうか?

「先輩が本気で相手をしてくれたから、わたしも本気を出させてもらいました」

「あ、そう・・・」

「やっぱり先輩は優しくて面白いです。・・・瑠環ぴょんはいいなぁ。とっちゃおうかな?」

甘えるように頬を摺り寄せる。

・・・これはまずい。

他に人の気配がないとはいえ、夜の公園で制服の女の子に組み敷かれているこの状況。

まずい、非常にまずい。

「あの、僕、汗臭くない?」

「わたし、そんなの気にしないよ」

・・・ごく自然に退いてもらおうという、遠まわしな魂胆は通じなかった。

「ね、先輩」

息遣いを感じるくらい至近距離。僕に覆いかぶさるようにミュラがまっすぐ僕を見下ろしていった。

「先輩は、今好きな人はいますか?」

この状況でそれはずるいと思った。

その質問の意味がわからないほど僕は鈍くはない・・・。

 

「何してるの?」

 

僕からは死角からの人の気配。慣れ親しんだ声に僕は思った。

これは運命だったと。

「瑠環?」

「アハハ・・・。瑠和ぴょん。コンバンハー」

さすがにバツが悪いのだろう。慌てて跳ねるように飛び退くミュラ。

・・・なにはともあれ助かった。

「・・・何してるの?」

ものすごく不機嫌そうな声だ。

・・・訂正。本当の危機はこれからかもしれない。

どこから見ていたのか知らないが、雰囲気から察するに、瑠環は相当ご機嫌斜だ。

「あー、ちょっと相撲を・・・」

「うん。本気の大一番だったんだよ」

嘘ではない。

瑠環も嘘だとは思わないだろう。ミュラが今日の腹いせにと、僕に勝負を振ったとしても少しもおかしくはないからだ。

「ふぅん、お兄ちゃんまた負けたんだ」

・・・うるさいな。相手は元チャンプだぞ?

「ミュラちゃんも相手がお兄ちゃんじゃ弱くてつまんなかったよね」

「そ、そんなことはないよ。先輩は本気で相手してくれたし」

「でも、負けるはずのないよね・・・。そっか、ミュラちゃんはお兄ちゃんを押し倒したかったんだ。ミュラちゃんなら簡単だよね」

これはいつもの瑠環じゃない。

口調に刺というか、毒がある。

これはご機嫌斜めどころじゃない。

僕も初めてみたが、瑠環は本気で怒っている。

それもおそらく僕にではなくミュラに向けてだ。

「瑠環。そんなんじゃないから、落ち着いて聞いて欲しい」

「お兄ちゃんは黙ってて」

ぴしゃりと拒絶され、瑠環がミュラに近づいていく。

そこで何かを囁いたようにみえた。

そして。

「いいんだよお兄ちゃん。敵はあたしがとる」

 

二人の取り組みが始まった。

ミュラは制服や私服ではやはり本気が出せないのだろう。どこかやりづらそうで遠慮が見える。

一方瑠環はそんなこと気にしてはいない。普段見られない気迫で積極的に攻めていく。

何か違う。

瑠環はとてもやさしい子だ。

小さな生き物が好きで、昔は良く昆虫やカエルを大切に育てていた。

それらが死んだときはわんわん泣いて、卵が孵化して幼生が誕生したときには本当に喜んでいた事を覚えている。

僕の前では自然で、時折やんちゃな面もみせるけれど、実は恥ずかしがり屋で、クラスではおとなしくて目立たないタイプらしい。

勉強は苦手だけど、美術や家庭科が得意で、毎日寝起きの悪い僕を起こして、ごはんを作ってくれたりしてくれる。

家庭的であたたかい、やさしい女の子。

それがどうして、今は別人のように熱く、荒々しく激しい・・・。

やがて瑠環はミュラを抱え上げるように持ち上げると地面に叩きつけた。

ひどく暴力的な決着に背筋が震えた。

 

張り詰めた空気のまま何秒かが過ぎて、生暖かい夏の空気が戻ってくる。

勝利した瑠環を称えるべきか。

ミュラに手を差しのべるべきか。

僕は金縛りが溶けたかのように二人のもとへ一歩踏み出した。

「来ないで!」

それは芝生の上に倒れたままのミュラからだった。

「来ないでください」

「でもな・・・」

こんな時間に女の子を一人で放ってはおけないだろう。

しかし、ミュラにかける言葉も思いつかない。

「行こう?お兄ちゃん」

どうしようもできずにその場につったっていた僕の手をひっぱって、瑠環が言う。

「先輩なんか瑠環ぴょんとどこへだって行っちゃえばいいんです!ふんっ!」

「なんで拗ねてるんだよ!?」

「うるさーい!早く行けーっ!」

寝転がったままそっぽを向く姿はまるで駄々をこねる幼い子供のようである。

「もうっ、行くのっ!」

瑠環が強い力で僕の腕を引いて寄り添うように体を密着させる。

ふわりと、小さな体が僕の懐に収まり、それがあまりにしっくりきたので僕はそれを拒めなかった。

欠けていた何かが元に戻ったかのような暖かな安心感。

それには僕も認めざるを得なかった。

そうだ。僕はずっと瑠環とこうしたかった。

公園を後にする時、小さく瑠環の声が聞こえた気がした。

 

「お兄ちゃんは、絶対誰にもわたさない」

 

 

 

              あとがき

ついにやってしまった、ヒロイン同士のガチバトル。 

本気を出したの瑠環ぴょんの前にミュラさんひとたまりもありませんでした。話は瑠環ぴょんルートへ・・・。ミュラさんはヒロイン脱落です。

実は物語はこの後夏休みに入っていくのですが、シナリオを2通り考えていましてギャルゲーで言えばここが分岐ポイントです。

さて、話は変わりますが、最近瑠環さんも自キャラの小説を書き始めたご様子です。

pixivで公開していらっしゃるようなので、瑠環さんのブログ「カエルの合羽」からみにいくことができます。

このブログとリンクしてもらてますので、そちらからどうぞ。

わたしはどうもPSO2での瑠環さんのイメージから、強くて勝気な性格になってしまっていますが、

本当はピュアで心優しいキャラクターです。

寝ているお兄ちゃんに飛び乗ったりするような子ではありませんでした・・・。

でも今更変えれない。やっちゃったなー。

それどころか、ついにキレさせちゃったし・・・。

ヤンデレ成分まで入れちゃったし・・・。

怒られるかなー?どうかなー?

怒られたら削除しますのであしからずです・・・。

 

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コメント

ふぉんがるふぅ
瑠環怖いwでもブログの方の瑠環を見ると結構毒舌だったりしてるから大丈夫だよ?
あとあの小説の瑠環はまだ8才だから・・・

投稿: かわず@瑠環 | 2014年11月13日 (木) 10時54分

まさかの波乱の展開。続き楽しみ。

投稿: みーこ | 2014年11月15日 (土) 13時04分

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