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ふぁるぷだいありぃ その4

アークス学園は全国でも希なほど武道を重んじている。

中等部の3年間と高等部3年の一学期の間まで年間を通して体育の授業週4コマのうち2コマは選択武道に当てられているほどだ。

選択できるのは中等部では剣道、柔道、弓道の三種目。高等部ではそれに空手と相撲を追加した5種目から。

しかも十分な実力を持った複数の教師が生徒のレベルに合わせて指導に当たるのだ。

中等部で3年間同じ種目を選択していればかなりの腕になれる。さすがに部活で毎日やっている連中には適わないが、それでも真面目に取り組んでいれば中等部を卒業するまでに段位を取ることができるくらいにはなれる。

かくいう僕も剣道の初段を持っている。中等部では3年間帰宅部だったが、授業で同じ種目を選択し続けた結果だ。

武道を通じ、互いに力と技を競い合いうことで社会に出てからの競争にも負けない精神力と闘争心を養えるということで、非常に好評なのである。

 

しかし、それは今関係ない。

 

その日僕はとても気持ちよく目を覚ますことができた。

起こされる前に起きたのは久しぶりだった。

それもこれも土日でも起こしに来る幼馴染のせいだ。

大きく体を伸ばした時に右の頬にある違和感を感じた。

なんだこれ?

ちぎったメモ帳がテープで貼ってあった。

はがしてみるとそれには瑠環の文字で一言書いてある。

『寝坊したから先にいく』

はっとして時計を見た。

8時15分。普段ならとっくに家を出てる時間だ。

「起こしていけよっ!!」

速攻で身支度を済ませて家を飛び出す。

8時20分。

朝の門限まであと10分を切っている。

甘んじて遅刻を受け入れるか?

否!!

僕が今自宅で一人暮らしなのは、担任はもちろん生活指導の先生にも知られていることである。

もちろん学校側からしてみれば心配すべきことであり、何かあればすぐにでも海外に居る両親の元に連絡が行くことになっている。

それは当然なのかもしれないが、もし著しい成績の低下や、遅刻などの生活の乱れが僕の親の耳に入ったならば、間違いなく僕の一人暮らしは心配だと判断して、瑠環の家への下宿を命じることだろう。

気ままな一人暮らしを味わうためには、品行方正たることが条件なのである。

正攻法ではすでに間にあわないと判断して、僕は普段と全く違う方向へと走り出した。

そう、やるしかないのだ。尾根越えを!

 

普段の通学路では自宅から学園まで道のりはおよそ1.5キロ。徒歩で約30分の行程である。

しかし、実は地図の上で見ると僕の家と学校までの距離は直線距離で500メートルほどしか離れていななかったりする。

それでなぜ普段の通学に30分もかかっているのかといえば、街の中心を切り立った尾根が隆起して、街を縦断しているためである。

その昔、戦国時代ではこの尾根の上にお城があって、その周辺に街が栄えたのが始まりらしい。そのために普段は尾根を迂回して遠回りをしているわけだが、逆に言えばこの尾根を越えていくことで大幅にショートカットが可能なのだ。

それを僕たち学園生が尾根越えと呼んでいる裏ルートだ。

尾根沿いは、かつての城下町の面影が残る建物が多い。

闇月庵と書かれた風格ある看板が掲げられた和菓子屋もそんな中の一つだ。

その隣に見える石造りの鳥居がスタート地点だ。

8時25分。鳥居をくぐって、その先のゴジラ並みと言われる階段を駆け上がった。

登り終えた先。広場を抜けてお堂の裏手から山道を数十メートル進む。

そこはかつて城の天守閣があったらしいが、今では跡地を示す古い看板と、わずかな石垣を残すのみだ。

「ゼィ・・・ハァ・・・」

僕は息を切らして時計を見た。

8時30分。正門が閉まる時間だ。これ以後バカ正直に正門を通る生徒は遅刻とみなされる。

僕は天守閣跡地から、未整備の山林が広がるその斜面を見下ろした。

ここを下れば学園のすぐ裏に出られる。

そこから学園内に侵入し、窓から教室に入れればミッションコンプリートだ。幸い僕のクラスは1階にあるし、上履きは次の休み時間にでも取りに行けばいい。

うちの学園は朝のホームルームなんて無いから、40分からの授業が始まる前に席についてさえいれば問題はない。

「おはようございます、先輩」

背後から声がした。

見るとそこにはかつてのガキ大将。真っ黒になって野山を駆け回っていた彼女も今ではすっかり可愛らしくなって、僕のことも先輩と呼んで丁寧な言葉を使うようになった。

「ああ、おはよう。ミュラも遅刻か?」

「ん?わたしはいつもこの道ですけど?」

言っておくが、ここに道なんて無い。

見た目や仕草が可愛らしくなっても、中身の方はまるで変わっていないのだ。

彼女の家である闇月庵からここまでの間に、彼女らしい姿は見えなかったから彼女は僕より遅く家を出たのは間違いないだろう。

僕と同じかそれ以上のペースで石段を上がってここまできたはずだが、まるで疲れた様子がない。

無尽蔵な体力も健在のようである。

「ほら、行きましょう先輩」

清楚で可憐なわんぱくキングは特に急な斜面、ほとんど崖と言えるようなところに飛び込んでいく。ポニーテールをなびかせて10メートル近くを軽く飛び降り、次の瞬間には太い木の枝を蹴って大ジャンプ。そして瞬く間に林の奥へと消えていった。

「行きましょうじゃねーよ・・・」

あんなのついていけるわけないだろう。

生憎普通の人間でしかない僕は、常識はずれな運動神経をみせる後輩を唖然と見送るしかない。

「ふん。お前には戦士たる気概が足りないようだ」

またも知った声が後ろから聞こえた。

振り返ると長身の少女。夏でも巻いてる赤いマフラーがトレードマークのクラスメイト、ジョウだ。

「ジョウか。おはよう。別に僕は戦士じゃないぞ?」

スタイルもよく鋭利でクールな風貌で間違いなく美人といえる。しかし、頭の方はなかなかどうしてファンタジーでアウトローだ。

無頼の傭兵。そんな雰囲気のある少女である。

彼女の席は僕の後ろなのだが、頼むから人の背後でナイフを研いだりするのはやめて欲しい。

「心がけの問題だ」

ジョウは持っていた長いベルトを取り出して片側を宙に投げた。

何をしているんぞや?と思っていると、不思議なことに投げられたベルトが落ちてこない。

見ると、木と木の間にワイヤーのようなものが張ってあるのが見えた。

投げられたベルトはそれに引っかかっていたのだ。

「先に行くぞ」

呆気にとられる僕を置いて、ジョウはベルトに掴まってレンジャーロープの要領で斜面を降りていく。

どうやら林の中いたるところに同じようなワイヤーが張り巡らせてあるようだ。

彼女はそれらを伝いながらレンジャーロープで移動しているようである。

ぜひ真似したいところだが、僕は同じような長さと強度のあるベルトを持っていない。

いよいよ時間がない。

イチかバチかの突撃をかけようとしたとき、背後からエンジンの音が聞こえた。

自動車のエンジンではない。もっと甲高くてうるさい、まるで耕運機のような・・・。

「何だありゃ」

光沢のあるパールホワイトのボディに、磨き上げられた金属色のホイルにマフラー。そしてそのピッカピカのマシンをデコレーションするのはツインテールで愛嬌を振りまく美少女キャラクター。

そしてそれはまぎれもなくトラクターだった。

痛車ならぬ痛トラクターだ。

「りっこりっこりー♪」

思わずずっこけそうになった。

むき出しの運転席に座る少女。

認めたくないが、一応知り合いである。

「おう相棒。ここで会うのは珍しいな」

痛トラクターに乗っていたのはリコリス。クラスメイトで友人、いや悪友と呼ぶのがふさわしいだろう。

見た目はちっちゃくておっぱいがでかい、いわゆるムチロリなのだが、性格の方は下手な男よりも漢らしいかもしれない。

バカ騒ぎが大好きで、クラスメイトの女子の乳を揉み着替えを覗くのが大好き(一応女子だから覗かなくても見れるのだが、他の男子を巻き込んで一緒にゲヘゲヘするのがいいらしい)という困った奴である。

高等部に入ってからの付き合いだが、何を気に入ったのか何故かやたら僕に構ってくる。

ちなみにさっきの「りっこりっこりー」はリコリスにとっての挨拶のようなものだ。

おかげで、僕の周りで真似する奴が増えて困っている。

「お前は一体なんてものに乗ってるんだ・・・」

「カッケーだろ?オレの愛車だぜ」

心底こいつは馬鹿だと思った。

「お前免許もってないどろう?いいのか?」

学園では免許の取得は禁止されてはいないが、リコリスはまだ取れる年齢になっていないはずだ。

「ああ問題ない、このあたり私有地だから免許はいらないんだぜ?」

たしかそんなこと聞いたことらるな。免許を取るなんてまだ先のことだと思っていたから気にしていなかったけど。

「この辺ってお前の家の土地なのか?」

まさかとは思うがこの辺一帯こいつの家の土地とかいうことはないだろうな?

「んなわけねーだろ。でも通る許可はとってあるぜ?この辺の地主はみんなオレのファンだからな」

かわいいだろ?とあざとさ120パーセントのポーズをとるリコリス。

世の中騙される奴が多すぎるだろう?

たしかにお前はかわいい。胸だって反則的にでかい。しかしお前がリコリスでありリコリスである以上僕は冷ややかな視線を送るだけである。

ただ可愛い。色っぽいだけで、僕が落ちると思ったら大間違いだ。

大事なのは誰がやるかだろう?

もしチコちゃんや吉乃姉妹あたりだったら僕の反応も違っていたはずだ。

しかしこっちの冷めた反応にも慣れてるようでリコも気にしていない。

「相棒、乗っていくか?」

確かに僕が単独でここ走破するにはすでに絶望的な時間だった。

「すまん、頼む」

僕はありがたくその申し出を受けることにした。

「よし、後ろに掴まれ」

トラクターの後部。ワックスでピカピカのロータリーの部分によじ登って運転席うしろの支柱をしっかり掴む。

しかし、5秒後には後悔した。

「いくぜ、相棒!すれ違いざまは大迫力だぜぇぇっ!」

ギリギリのところで巨木をかわすトラクター。

痛トラクターは蛇行しながら斜面を下って、というより滑り落ちて行く。

「あぶねぇ、リコもうちょっとゆっくり・・・」

「しゃべるな相棒、下噛むぜ?」

とにかく道のない悪路だ。石や木の根に乗り上げてトラクターはとにかく揺れる。

「うおぉぉぅ。乳もげるぅぅ!!」

リコの胸がすごいことになっていた。

ふよん。なんて可愛いものじゃない。ぐわんぐわんである。

・・・見てるだけで酔いそうで、鼻の下を伸ばす余裕なんてありゃしない。

というか、こっちもしがみついているので必死なのだ。

「リコっ!、前、前っ!」

林の切れ目、前方が見えない。段差があるのだろう。高さは・・・、わからないけど。

「アターック!」

「やめてーっ!」

次の瞬間、トラクターは空を飛んだ。

 

僕は遅刻を免れた。

席に着くなりぐったりと机に突っ伏す。

無事斜面を下り終えたトラクターを隠して、校舎裏へ侵入を果たした僕たちは転がるように窓から教室に入り込んだ。

「なんだ、クレアが裏からとは珍しいな」

「おはよぅリコたん。ギリギリセーフだぉ」

窓の方から声がした。この声はクレアさんか?

「ぅん、今日はメリアが先にいっちゃったからぁ、寝坊しちゃったぉ」

うんしょっと、声が聞こえた。クレアさんが窓を登っているのだろう。きっとパンツ丸見えで。

今頃女子有志によるバリケードが作られていることだろう。

起きる気力など今の僕に有りはしないが。

「ぅにょっ!」

どてんと音がした。

きっと乗り越えるに失敗して落っこちたのだろう。きっとパンツ丸見えで。

たしかクレアさんの家も尾根の向こうだっけか?

こんなんで、どうやってあの尾根越えてきたんだ?

「おはよう」

またもや窓の外から声がした。

この声は委員長か?長い髪と頭から生えたうさ耳が特徴の美貌のクラスのまとめ役。ショコミソ委員長。

「ぉー。コミたんもギリギリだねぇ」

「わたしだってそんな日もあるよ」

だからどうやってあの山道攻略してきたんだよ!?

このクラスで普通の人間は僕だけなのだろうか?

その日、ようやく僕が復活することができたのは昼休みになってのことである。

 

 

 

    あとがき

予告通り、書くの時間かかってしまいました。

ごめんねリコたん。

いよいよ時系列無視になってきましたね。朝の登校別パターンです。

瑠環の好感度が低いと発生するリコたんルートです。

嘘です。

なるべく早くチームの人いっぱいだそうと思って、優先的にこの話書きました。

書きながらよく寝落ちてました。

チームルームのコテージがお気に入りです。

海岸で踊るのもいいですね。

さて次回もきっと遅くなります。

ではいずれまた~。

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コメント

PSO2のロビアクに、ナイフを研ぐ が実装されれば・・・←

投稿: ジョウ | 2014年10月27日 (月) 01時05分

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