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いろえんぴつ白書 その2

玄関に可憐な花が咲いていた。

とまあ、これは比喩表現である。

白く清純さを感じさせる花が、彼女にはよく似合うだろう。

「おはようございまーす」

背丈は瑠環と変わらないくらいだが、体つきはこっちがだいぶスリムだ。

可愛らしくセットされたさらさらの栗色の髪と、パッチリした目。校則の範囲内でおしゃれに制服を着こなした、いいとこのお嬢さんを思わせる女の子。

ああ、眩しい。元気な声についそう感じてしまった。

純真なものを見て眩しく感じるほど、僕もまだ荒んではいないつもりだったんだが。

「おはよう、チコちゃん」

「はい~」

瑠環の親友でクラスメイトのチコちゃん(Chicory)だ。

一方親友同士の二人は最近お気に入りらしい、謎の挨拶を交わしていた。

「るっわるっわるぅ~」

「ちっこり~」

この妙な挨拶は、僕のクラスメイトが原因となってるのだが、それはまた今度でいいだろう。

 

いつものように前を歩く二人が楽しげにおしゃべりするのを眺めながら、その後ろを彼女達の歩調に合わせて歩く。

僕たちが通うアークス学園は本校である大学のキャンパスはやや離れた場所にあるが、中等部と高等部の校舎は隣あった場所にあり、共用の設備や合同で行われている部やクラブなどがある。だから学校が変わっても、三人でこうして登校するのは変わること無く続いている。

チコちゃんは明るい性格と愛らしい容姿と相まって、入学したときからとても人気があった。そして瑠環も見てくれは悪くない。

そんなふたりを連れて登校してたものだから、やっかまれるのも不本意だけど仕方ないかもしれない。

途中他の生徒からの視線や、殺気を感じたりするし、他にもご近所から奇異の目で見られたり、たまにどこからか通報するような声が聞こえてきたりもする。

まあ、だいぶ慣れてはきたけれども。

前を歩く二人から中間テストの結果について話が聞こえてくる。

元々成績の良いチコちゃんはいい感じだったようだけど、瑠環は・・・。まぁ、いつものことだ。

瑠環はなんでもこなせるようにみえるが、実は勉強のほうはイマイチなのである。

期間中家庭教師役を務めていた身としては、少しは責任を感じないことも無い。

「お兄さん」

チコちゃんが振り返った。

「お兄さんはテストどうだったんですか?」

テストがあった時期は同じくらいだった。その期間中、高等部が早く終わるのを羨ましがられたものだ。

「まあまあだったかな」

一応上の下から中の上くらいの点数は取れていた。

これでも結構頑張って勉強しているのだ。

成績が下がったり、遅刻が多かったりと生活が乱れてるといったことが親の耳に入ったりしたら、僕一人で置いておくのは不安と判断されて、瑠環の家に下宿させられてしまう。

「そうですか。高等部のお勉強は大変そうです」

「覚えることは多いけれど、まだ始まったばかりだからね。それにチコちゃんなら大丈夫さ。成績いいんだし」

横で上目遣いで渋い顔を送ってくる瑠環の方は見ないようにする。武士の情けである。

「チコちゃんならもっといい高校に行けるだろう。ほら、例えば・・・」

僕は近場で名門女子高と言われている学校の名前をあげた。

体育会系のイメージが強い今の学校より、そっちのほうが彼女に似合っているような気がしたからだ。

しかし当人にその気は無いらしい。

「えー。チコは、瑠環ちゃんと一緒がいいですー」

と、いかにも親友らしいことを言うが、僕は内心頭を悩ませる。

アークス学園は中等部、高等部、大学とエスカレーター式ではない。進学する際は外部からくる入学志願者と同じ入学試験を受けなければならない。

たしかに同じ学園内で推薦枠が多いという有利はあるが、これは武道系の部活動に力を入れてる学園が脳筋のために設置しているようなものだ。

現在帰宅部である瑠環にはおそらく縁がない。

それにアークス学園の学力のレベルが低いというわけではない。文武を重んじる硬派な校風で人気が高く、その偏差値は全国の平均より高めである。

このままだと瑠環の進路はだいぶ限られるだろう。

僕の脳裏にはカラフルな頭と着崩した詰襟の男子ばかりが闊歩し、タバコの臭いがそこかしこから漂い、バイクのエンジンと生活指導のゴリラのような先生の怒声が轟く、某工業高校っぽい高校に迷い込んだ哀れな子羊となった二人を思い浮かべてしまった。

やばいな。割と現実的な未来に思える。

「瑠環、名門女子高へ行くため今日から猛勉強だ」

これ以上なく本気だった。チコちゃんのために。

瑠環が僕の制服の袖をぎゅっと掴んだ。

「あたしはお兄ちゃんと一緒がいい」

いじらしい態度は可愛らしいが、それでも相当頑張らないといけないからな?

しかし折角瑠環が目標を示したのだ。協力を惜しむほど薄情なお兄ちゃんであるつもりはない。

とりあえず、今夜お邪魔した時にテストの見直しから初めてみるかと考えてみる。

「それならわたしも一緒でーす」

反対側の腕にチコちゃんがしがみついてきた。

「えっ?チコちゃん?」

あまりに驚いて、考えていた瑠環の学習計画が頭からすっとんでいってしまう。

チコちゃんがこんな積極的な行動にでるのは初めてだ。

正直に言うが、僕はこれまでチコちゃんに触れたことなどほとんど無いのだ。

「えへへ。ずっとやってみたかったんでーす」

頬を赤く染めて、恥ずかしそうに僕を見上げている。

かわいい・・・。自分の顔が熱くなるのを感じる。

「む」

こら瑠環。対抗するな。

左腕にやわらかいものが当たる感触。

しかし残念だったな。世の中にはレア度というものがある。

右腕★11

左腕★6

もっとも衆目の集まる場所での両腕に花状態。

さっきからとても好意的とは言えない視線に晒されて、幸せな両腕と裏腹に背中の方は冷や汗で冷たい。

もちろんまんざら悪い気がするわけでも無いのだが。

「チコちゃんそろそろ・・・」

放して欲しいとはっきり口にできなかった。未練である。

「もうちょっと、こうしてたいです」

「あはは・・・。仕方ないなー」

「むむ」

左腕が軽くなった。

「痛っ!!」

「お兄ちゃんのばーか」

僕の脛を蹴り飛ばし、悪態をついて走っていく瑠環。

おかげで驚いたチコちゃんが腕をはなしてしまったじゃないか。

「まったく、なんてやつだ」

「瑠環ちゃんヤキモチやき屋さんです」

原因を作ったのチコちゃんじゃありませんか?これまで、もしかしたらと思っていたがチコちゃんは結構天然なのかもしれない。

「お兄さん、瑠環ちゃんのこと大事にしてあげないとダメですよ?お兄さんチコのことばかり気にしてました」

「それは仕方ないじゃないか。チコちゃんがあんなことしてくるから」

それを聞いたチコちゃんが、めずらしく眉を釣り上げる。

「それでもお兄さんは瑠環ちゃんのことも意識してあげなきゃダメなんです。さっきだって・・・」

チコちゃんが強く僕の腕を引いた。

「わわっ」

急に体を引き寄せられて、僕はたたらを踏みつつ前のめりになる。僕とチコちゃんの顔が近づく。その距離ほっぺとほっぺの間で役15センチ。

しかし、チコちゃんの表情は真面目だった。

「こうやって、わたしたちを一緒に引き寄せて、『三人で一緒に勉強しよう。ずっと一緒にいられるようにね』って言ってあげなきゃいけなかったんです。お兄さんがチコを見るときは、瑠環ちゃんも忘れちゃダメです。チコに優しくしてくれるのは嬉しいけれど、チコに優しくするときは瑠環ちゃんにも同じくらい優しくしなくちゃいけないんですよ」

そんなスーパーハードな事言えるかっ!

チコちゃんの二股大肯定の言葉に心の中で絶叫する。

年頃のかわいい女の子に同時に優しくするということは、女性に優しくするというフェミニズムや兄弟や娘を平等に接する家族の愛とは違う。

社会一般的には、僕は蹴飛ばされて正しかったはずだ。

しかし愛と、下心と、ヘタレ心について講釈しようとした僕の口は、結局次のチコちゃんの言葉で開かれることは無かった。

「瑠環ちゃんはお兄さんのことが大好きなんです。一緒にいたくて、いっぱい頑張ってるんです!辛いことにも我慢してるんです!だからお兄さんは瑠環ちゃんの気持ちに答えてあげなきゃいけないんです!」

強い口調でそう言ってチコちゃんも走って行ってしまう。

チコちゃんが怒ったところなど初めて見たが、そのことは今頭に無い。考えていたのは瑠環のことだ。

おそらくチコちゃんは僕が知らない瑠環の悩みを知っているのだろう。それも僕がかかわることでだ。

学校で何かあったのだろうか?

小さくなっていくその背中を見送りながら。僕は呆然と立ち尽くしていた。

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とんとん。

フリーズしていた僕の肩を叩くものがいた。

見ず知らずの男子生徒。

いや、こいつはさっきまで僕に敵意むき出しの視線を送っていたやつじゃないか?

そいつは下手なウィンクをして親指を立てて歩いて行った。

その後何人かの男子生徒に、肩や背中を叩いていく。

どいつもこいつも満足気な顔をして・・・。

 

まったく、台無しだった

 

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コメント

レア度(笑)

投稿: エトワール | 2014年7月10日 (木) 18時04分

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