おことわり
この作品は、セガから発売されているオンラインゲーム。ファンタシースターユニバースシリーズを元に、勝手な解釈と設定を持ち込んで書かれた二次創作物です。
そういったものが苦手という方や、不愉快に思うファンの方もいるかと思います。
まして、作者は素人であり文章もあまり読みやすいものではありません。全ては作者自身の自己満足のために書かれたものですので、本来読むことをお勧めはいたしません。
しかし、どうしても読んでやる!!という方は、後の感情の処理は全て自己責任で読んでくださいませ。
第三幕「ぽにテク誕生!!」
今日は遅くなっちゃったな。その日、吉乃 メリアはいつもより遅い時間に寮の自室へと戻ることになった。
午後9時。チームメイトとの勉強会が思いの他長引いて、こんな時間になってしまったのだ。
それにしても・・・。
メリアはさっきの勉強会での出来事を思い出す。
元々は、チームメイトであるスキュラ・コルセスカのためにこの勉強会は催された。
それは彼女が、今日初めて受けた法学の講義のとき、「法律って何?」などと言い出したのが始まりだった。
無法地帯とよばれるモトゥブの荒野で育った彼女は、法律という言葉すら知らなかったのである。
「法律とは、各惑星の議会で制定された・・・(略)・・・現在では、ニューデイズ、パルム間では法律、条令の共通化が進んでおり・・・(略)・・・つまりは、人が共同生活をする上で守らなければならないきまりのことなのですが、分かっていただけましたか?コルセスカさん」
と、親切に、分かりやすく、コッコと名乗ったその座学の講師は解説してくれたのだが・・・。それを彼女は「なんだ、仁義のことか」などと言い出し、その日の法学の講義は中止となった。
コッコ講師曰く、
「まずは、コルセスカさんとのカルチャーギャップを、埋めることから始めなければいけませんね。いえ、この訓練校では稀によくあることです。はい・・・。では、ワタシはブリタニアに帰りますので・・・」
と言い残して、コッコは立ち去ってしまい、その時間は自習となった。
そして始まった、スキュラの文化圏での常識度を測る勉強会。
その後、放課後になっても勉強会は続き、この時間になってしまったのである。
それにしても面白かったな・・・。
スキュラの珍回答の連発を思い出し笑いしながら、ドアの鍵を開けようと、暗証番号をいれようとして、普段との違いに気がついた。
鍵が開いてる・・・。そうか、ミュラちゃんが帰ってるんだ。
ミュラ・ルルホ。講義のサボタージュを繰り返している彼女は、普段何をしているのか知らないが、いつもメリアより遅くに帰ってくる。自分の方が遅くなるのは始めてだ。
「ただいま~♪」
久しぶりに言うこの言葉がうれしくて、つい声が弾んでしまった。
「あ、お帰りなさい」
と、挨拶が返ってくる。お帰りと誰かにいわれるのも久しぶりだ。
「うん、ただいま、ミュラちゃん」
と、気分良く部屋に入ると、見知らぬ少女がそこにいた。
「誰・・・?」
小柄で可愛い子だった。やや吊り目がちなのが印象的な、幼い顔立ち。白い寝巻き姿で、黒い髪にバンダナを巻き、黒い瞳がこっちを向いている。この顔に見覚えがないのだけれど・・・。
「えっと・・・。わたしですけれど」
たしかに、声とその珍しいニューデイズ様式の寝巻きには覚えがある。
「え?ミュラちゃん?全然わかんなかった」
ミュラの顔は普段長い前髪に隠されている。この1ヶ月、同じ部屋に暮らしていたがメリアでさえ、その前髪の下を見ることはなかったのだが・・・。
結構可愛い顔してるんだ・・・。
「あ・・・」
ミュラの顔が赤く染まる。
照れた様子でミュラが頭のバンダナを取ると、またその顔は長い前髪に隠されてしまった。
「ご、ごめんね。じろじろ見ちゃって。気を悪くしたなら誤るよ」
「ううん。顔見られるの慣れてなくて。こっちこそごめんなさい」
「そっか。よかった・・・。でも今日はどうしたの?わたし、ミュラちゃんの顔始めてみたよ?」
「テレビ、見てたから」
「え?テレビ?」
なるほど、テレビを見ようと視界をあけてたわけだ。しかし普段ミュラはそんなことはしない。前が見えてるのか怪しいくらい長い前髪で、普通に本も読めば、外を出歩いている。
つまりそのテレビ番組は、ミュラが視界を開けて、しっかりよく見たいほどのものということだ。
「ふぅん。ミュラちゃんって、どんなの見るの?」
「ん」
ミュラが手元の空間に投影された映像を拡大する。
「解説のOratorioさん。本場所の頑龍は、いい感じですね」
「そうだねー。今場所行けるかもね。優勝。でも対する居斬も結構キテルよ?これはいい勝負になるんじゃないかな?」
「体格では居斬に分がありますが、そんな相手をこれまで幾度となく跳ね除けてきた頑龍。・・・今日はどんな取り組みを見せてくれるのでしょうか?」
「どうでもいいけど、何で俺、こんなことしてるんだろうねー?お兄さんぐれちゃうよ?」
NHK(ニューデイズ放送協会)の相撲中継!?
「おすもう、好きなんだ?」
「ん」
コクンとうなずく。なんだかとても楽しそうだ。
「なんか、すごく以外かも」
「そう?」
「うん。だってミュラちゃん、いつも物静かで、おとなしそうだったから。こういう格闘技とか見てるんだって、ちょっと驚いたよ」
ミュラは「あはは・・・」と少しだけ笑う。
「そんなことないです。わたし、これでも結構やんちゃなんですよ?わたしニューデイズの田舎で育ったんですけど、うちの近所男の子ばっかりだったから、遊びといえば相撲とかチャンバラとかそんなのばっかりで」
「そ、そうなんだ」
彼女のそんな幼少期を、メリアはまったく想像できなかった。
「ほら。大関の頑龍。わたし好きなんです」
「え?どれどれ?」
メリアも覗き込む。
取り組みが始まっていた。
ミュラが好きだと言っていた、力士は自分より大きな相手に押されているようだ、それでも必死にそれに耐えているのがわかる。
がんばって!!とつい応援したくなる。そんな光景だ。ミュラも表情は見えないが、小さな拳をぎゅっと握り、画面に集中している。
それでも体格差はいかんともしがたく、頑龍はじりじりと押され、やがて土俵際へと追い詰められる。
固唾をのんで見守る中、頑龍の体がついに傾く。観衆の声援と悲鳴。メリアも息を呑む。
しかし、ぐらりと揺らいだのは追い詰めていた居斬も同じだった。
一気に押し倒そうと体重をあずけてきた居斬に対して、頑龍が逆転を狙い投げに打って出たのだ。
もつれ合うように倒れる。
そして、倒れる瞬間、下になっていたのは居斬の方だった。
軍配が頑龍に上がった。
会場が熱狂に包まれた。歓声と拍手が巻き起こり、座布団が飛び交う。
「うわぁ、すごい!やった、やったね、ミュラちゃん!!」
「ん♪」
彼女も嬉しそうだ。いつもより声のイントネーションが微妙に高い。
「でも、負けたほう応援してたからって、座布団をあんなに投げなくたっていいよね」
「あの・・・。あれは、そういう意味じゃないです」
「面白かったね」
「ん」
相撲中継を見終わり、ミュラが持ってきた団子を茶請けにお茶をすする。今日の団子は内側に餡を包み込み、その外側に塩漬けにした桜の葉を巻いた、とても凝ったものだった。
とても香りが良く、上品な味わい。
薄い紅色の見た目も美しい。ミュラの団子はこれまでも何度か食べたことがあったが、これほどのものは初めてだった。
「とっておきです」
とミュラが言うだけのことはあり、すごく美味しい。
「なんだか悪いな。わたし、何かお返ししなきゃだよ」
と、メリアは逆に申し訳なくなってしまう。
「ううん。メリアの淹れるお茶、おいしいからおあいこです」
ずずっと、堂に入った仕草でお茶をすするミュラ。なんだか今日のミュラはやけに機嫌がいいように見える。
普段は、穏やかそうでも、どこか態度が硬かったりするのだが、今日は憑き物が取れたかのように、リラックスしているように見える。
「なにか良いことあった?」
お気に入りの力士が勝ったから。というだけではないと思う。
「ん・・・」
ミュラはお茶を軽く一口すすって、湯飲みをテーブルにおく。
「実はわたし、少し前にある事件に巻き込まれたんです。その時の聴取や、法的な後始末があって今まで講義に出られなかったんですけど、今日それが終わって、次の講義からは出られるかもって・・・。今更、迷惑かもですけど」
「ええっ!?そうだったんだ・・・」
「特別な事件で、ガーディアンズとも機密保持契約とかがあって、今まで言えなかったんです。ごめんなさい・・・」
「ううん、それはいいんだけど・・・」
初めて聞いた、ミュラの事情。
自分は構わない。ミュラが講義に参加することに何も異論は無い。むしろ大歓迎だ。たしかに今から初めて、他のみんなについて来れるのかという不安はあるが、自分でよければ、全力でそれをサポートするつもりである。
ただ、他の皆はどうだろうか?うまく受け入れてもらえるだろうか?
いや、きっと大丈夫だ。最初は少しくらい抵抗はあるだろうけど、ミュラがいい子だって、きっと皆分かってくれる。
「じゃあ、明日時間ある?」
明日は1日センチュリーは講義が無い。休養するも良し、自習するも良し。つまりはお休みだ。
「ん。あるけど?」
「明日の午後、センチュリーのみんなで試験に向けて自主トレしようって話してたんだ。それにミュラちゃんも来ないかなって」
「え?試験、受けるの?」
ガーディアンズ訓練校では、月に5日間のテスト期間がある。その期間内になら、自由に望んだ学科の試験が受けられる。そして、試験で合格点がもらえれば、例え講義を受けていなくても、単位がもらえるのだ。逆にどれだけ講義を真面目に受けていても、この試験の結果が悪ければ、単位はもらえないのである。
「うん。必修の射撃と剣術に挑戦してみようって。この二つはそんなに厳しくなくて、基礎さえ出来ていれば、合格もらえるらしいよ?それでも、半分駄目もとだけど」
入学して一ヶ月。基礎を習得したというには、実際まだ早い段階だとは思う。試験は在学中のどの時期に受けてもかまわないのだから、じっくり技術と自信をつけてから臨んでも良いのだが、気の早いスキュラや、バーシィの希望と、自分のレベルを確認するためにもいいんじゃないかな?という、チームリーダーのフェイトの意見で、受けてみようということになったのだ。
とはいえ、メリアが「駄目もと」というだけあって、全員が合格する見込みはかなり薄い。
そこで、明日の午後に訓練場を借りて、自習しようと計画されたのである。
「ん・・・」
ミュラは考える様子をみせた。
これは望み薄かな?とメリアは考える。皆とは少しずつ馴染んでいってもらった方がいいのかもしれない。
「あの・・・」
やがてミュラが口を開く。
「都合悪かった?無理にとは言わないよ?」
「いえ、それって午後からですよね?もしよかったら午前中少し付き合ってもらえませんか?」
「え?いいけど、なんで?」
するとミュラは言いづらそうに小声で。
「あの、わたし女の子らしい服とか、髪型とか、そういうのよくわからなくて。いい美容院とか、服屋さんとか知ってたら、教えてもらいたいなって・・・」
「ええっ!?」
ミュラは伸びた髪をいじりながら、
「他の皆さんの前でこの身なりでは、さすがに失礼だと思って・・・」
それは全く考えもしなかった。てっきり人見知りしてるのかと思ったら、そんなことを気にしていたのかと可笑しくなって、「ぷっ」と吹き出してしまった。
「笑わないでください!!結構気にしてるんです・・・」
これまで誘っても来なかったのは、案外そのためだったのかもしれない。
「ごめん。じゃあ、明日午前中クライズシティへ行こう?わたし案内するね」
「本当ですか?ありがとうございます!!」
前髪に隠されたミュラの表情が、ぱっと華やいだ。・・・のがメリアには見えた。
「ん」
「ん・・・?」
「えへへ、真似してみました」
そして次の日。
メイアの案内で訪れたガーディアンズ御用達のエステLumilass。
「ど、どうですか?」
ミュラは別人のように見違えていた。余分な毛と、重苦しい前髪をカットしたロングヘア。
「うわぁ、よく似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます」
照れくさそうに、はにかむミュラ。
「ちょっと、後ろいい?」
「ん?」
ミュラの背後に立ち、そっとその黒い髪に触れる。
その髪を後ろで束ねてリボンで止める。紫色のリボン。彼女に似合うような気がして、ミュラがカットしてもらってる間に買っておいたのだ。
「ポニーテール。おそろいだよ。リボンはプレゼントね」
「え?」
ミュラは尻尾に束ねた、自分の髪に手をやる。
「よくお似合いですよ」
お店の人が気を利かせて鏡を持ってきてくれた。ミュラはそれを見ながら色々眺めたり触ったりたりしていたが、やがて納得すると、丁寧にお礼を言って鏡を店員に返す。
「どうかな?」
「うん。ありがとうメリア」
会ってから一ヶ月。それはメリアが始めて見たミュラの笑顔だった。
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