令和6年 ~迎春~

開けましておめでとうございます。

元日より地震に津波と大変な幕開けとなりましたが、今年が皆様にとって良き年となりますようお祈りいたします。

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サービス内容変更対策

サービス内容変更により今後書き込みができなくなるとのこと。お金払えば再開できるとのことですがやはり勿体ない。

いっそのこと削除も考えましたが、PSUの二次小説とかここにしか置いてないようなのもあるわけで…

 

 

 

 

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~迎春~2023

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

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2022迎春!!

新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

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2021年末

一応生存報告させて頂きます。

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2021~迎春~

新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

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令和2年迎春

新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

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2019 迎春

新年、明けましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします。
……新年の挨拶しかしないブログになってしまった。

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2018 迎春

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

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ファルプファンタジア試

 鳴海彩兼、18歳。水産高校に通う高校生だった彼は、夏休みに冒険家にして発明家だった父親、鳴海譲二が遺した自作のクルーザー、アリスリット号の試験航海中に別の世界に迷い込む。

 そこはファルプと呼ばれる世界。

 魔力によって突然変異した獣、魔獣が大陸を跋扈し、人類は離島や僻地へと追いやられ、まったく別の歴史をたどることになった並行世界の地球だった。

 それでも国を作り、文明を育んでいく人々と出会い、交流を深めながら彩兼はアリスリット号を駆り、元の世界へ帰る方法を探していくことになる。

 それから2ヶ月、若狭沖、水深100メートルの海底に身を潜めたアリスリット号。その中で眉をひそめ、モニターを眺める彩兼の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「……反応あった。こりゃ、でかいな」

 

 アリスリット号のソナーに映し出されたのは、鰭竜(フィンドラゴン)と呼ばれる肉食の海洋生物だ。

 最近、この近海に出没するようになったこの生物を調査するため、彩兼はアリスリット号と共に海底に潜んで2時間と経たず、それは彩兼の予想より随分と早い邂逅であった。

 

「全長約……、20メートルはあるだろこれ」

「結構早く見つかりましたね」

 

 アリスリット号の操縦室にはもう一人、年若い少女が彩兼の横からソナーの映像を眺める。

 名前はルルホ。この世界で出会った少女で彩兼の助手を務めている。  

 

「そうだな。こいつの活動範囲が思った以上に狭いのか、単に運が良かったのか。まさか何匹もいたりはしないよな?」

「鰭竜(フィンドラゴン)は群れは作らないそうです。それにこのあたりには、鰭竜の胃を満たせるような獲物がいないはずです」

「……だな。人間以外は、だけど」

「はい」

 

 すでに何人もの漁師や人魚が犠牲になっている。この調査は鰭竜を実際確認して、それが討伐可能かどうかを見極めることにあった。

 

「ごめん、ファルカ呼んできてくれ。あいつにもみせてやろう」

 

 この船にはもう1人乗員がいるのだが、交代で休憩を取るため、今はラウンジで寝息を立てているはずだった。長丁場を覚悟してのことだったが、無駄になってしまったようだ。

 

「ファルは寝起きが悪いんですよ?」

 

 ルルホが少し嫌そうな顔をする。

 

「頼むよ。海の魔獣にはあいつそれなりに詳しいだろ。意見が聞きたい。それに俺が今ここを離れるわけにはいかない」

 

 鰭竜が想像以上に大きいことから、彩兼はアクティブソナーの使用を危険だと判断して、パッシブソナーへと切り替える。

 アクティブソナーは音の跳ね返りを測定して水中にあるものを捉えるシステムだ。制度が高く便利だが、こっちから音を立てるため周囲を刺激したくない場合は使えない。

 対してパッシブソナーは、拾った音から周囲を探るシステムである。

 よく映像作品で、潜水艦のソナー員がヘッドホンをつけて耳を澄ましていたりするのがそれである。しかし、このアリスリット号にはそんな熟練のソナー員が乗ることなど考えていないため、拾った音をコンピューターで解析してレーダーのように映し出すシステムが積まれている。だがそれは、探知可能な範囲が狭く、精度の方もやや怪しい。

 ソナーだけでなく、船外の高感度カメラ、サーモセンサーなど、一応、海洋調査を目的として造られたアリスリット号は、その手の観測装置が充実している。だが、それらの機材は使えるのが現状では、彩兼にしかいないいのだ。

 ルルホにもこの船のことを少しずつ教えてはいるが、これまで弓矢持って、熊や猪を狩って生きてた自然派少女が、これらハイテク機器を使いこなすには、まだまだ時間がかかるだろう。

 

 彼女の祖先は昔、彩兼と同じようにこの世界に流れ着いた日本人だという。

 UVカットも美白化粧水も無いこの世界を逞しく生きてきたその肌は、健康的な小麦色。長い黒髪をポニーテールにして、可愛らしい顔立ちはまだ幼さを残しているが、長い手足と、均整のとれた体付きで14歳という年齢の割にスタイルが良い。

 健やかに成長中のバストを布で覆って後ろで縛り、張りのあるヒップにはきゅっと締められた褌。6尺褌のようだが、後ろは解けにくいようにしっかりと結んでいる。

 その生地は厚みがあり丈夫で、製法技術が低いため仕立てが荒いが、それが野性的で健康的な少女の色気を引き立てている。

 今はその上に、蛍光オレンジのライフジャケット身に付けているという、なんとも奇天烈かつ刺激的な格好をしているのだから、彩兼も目のやり場に困るというものである。

 決してルルホの趣味、思考がおかしいわけではない。ルルホは気立てが良く、純朴な少女である。ただ、このファルプには彩兼が元いた世界のような水着が存在しないため、水に入る姿としてこれが一般的なものなのだ。

 あと、ライフジャケットは着ておくようにと彩兼が指示した。

 水中からの脱出に役立つものではないが、泳ぎがあまり得意ではないルルホが海に出る際には必須のアイテムとなっている。

 しかし、ライフジャケットを着せておいた目的が、ルルホの露出をできるだけ抑えたかったことにあるのは間違いなく、これが無ければ、狭い操縦室の中であられもない姿の少女の魅力に抗えたかどうか少し怪しい。

 全ては安全の為である。

 ちなみに彩兼も、愛用のブーメランの上にTシャツを着て、それにパーカーという出で立ちだ。

 ルルホにパーカー貸してやればいいだろうよ?と言いたいところだが、逆に自らの劣情を煽りそうだからやめたのだ。

 元の世界で水産高校に通っていた彩兼は、実習航海や海難救助訓練で鍛えられ、背はそれほど高くないが、それなりに引き締まった体をしている。

 北欧出身の母と日本人の父親とのハーフで、プラチナブロンドの髪にコーカソイドとしては珍しく彫りの浅い少女のような甘い顔立ち、そして翡翠の瞳と、実は相当なイケメンであるのだが、女子の少ない水産高校に通い、また冒険と発明に取り憑かれた父を持ち、それに付き合っていたせいか彼女がいた試しはなく、色恋に対してほとんど経験がない。

 ルルホのことも可愛いと思っているが、薄衣の男女が狭い操縦室で2人きりだというのに、ルルホがあまりに普通なものだから、俺って男として魅力ないんだろうか?とやや自信喪失気味になっていた。

 もう1人の、今ルルホが呼びに行った少女の方はストレートに愛情を向けてきてくれるのだが、生憎ある事情で、その娘を恋愛対象として見ることができない。

 なんとも悩ましい状態である。

 

「ん? またやらかしたか?」 

 

 ルルホがラウンジへ向かった後、何か重いものがが落ちるような音がして、船が小さく揺れた。

 

 

 

 明かりが消され、暗いラウンジのソファーの上にぼんやりと白く光っている物体が見える。

 それは魚の鰭ように見えるがまさしくその通りであり、仄かに白く光を放つ半透明の鱗に覆われた、魚のような下半身、パレオを境目に上半身は優美な曲線を描く乙女の体、白い素肌に金色の髪を持つ少女が、クッションを抱えて寝息をたてていた。

 その半身が示す通り彼女は人ではない。メロウ族と呼ばれる人魚である。

 日焼け知らずの白い肌、いくら潮風に吹かれても痛むことのない艶やかな金髪。まだ13歳でありながら、粗い布地に包まれたバストはルルホより大きく、むき出しのウエストは締まっている。

 彼女の種族は人よりやや成長が早いかわりに、短命なのだという。

 左の手首に巻かれた白と藍色の糸で編まれた組紐は、この船の乗組員の証として3人で揃えたもので、彩兼やルルホの手首にも同じものがある。

 ちなみにこの人魚もまた刺激的で姿ではあるが、ライフジャケットを着ていない。人魚はライフジャケットを着ると溺れるからだ(確認済み)。

 

「ファル、起きて。アヤカネさんが呼んでるよ」

 

 肩を揺さぶって声をかける。この細い肩で自分よりずっと強い力が出せるのだから不条理だ。

 

「エヘヘ、アヤカネ……」

 

 桜色の唇から甘く囁くような声が溢れ落ちる。クッションを抱きしめ、良い夢を見ているようで起きる様子はない。

 手加減不要と判断したルルホは、ファルカの胸と腰に巻かれた、わずかばかり素肌を隠している布に手をかけると、思いっきりそれを引っ張った。

 

「ふぎゃ!」

 

 体長約2メートル、体重も100キロ近い人魚のファルカの体がソファーから床に落ちると、ズシンと音を立てて僅かに船が揺らす。

 なにその巨体? と驚くかもしれないが、それは人魚の下半身が人のそれより大きく発達しているためである。

 ファルカの上半身は、胸部を除けばルルホに比べてやや細い。

 開かれた青い瞳が不満げにルルホを捉える。

 

「おはようファル。目、覚めた?」

「うぅ~。るるっぽの仕業か!」

 

 起き上がるや、ファルカがルルホに掴みかかる。その時には彼女の腰に巻かれたパレオの下は鰭ではなく、形の良い人間の素足が伸びていた。

 変幻(メタモルフォーゼ)。人魚に限らず、魔力の影響を受けて人から派生した種族、通称魔族と呼ばれる彼らは、通常人と異なる外観をしていても、魔法の力で人の姿をとることができる。

 この状態のファルカはルルホと同じくらいの体格である。身長で僅かに高く、体重は僅かに軽い。

 質量一体どこに消えてるん? とか疑問に思ってはいけない。魔法の力で解決なのである。

 

「君たち、何暴れてんの?」

 

 ラウンジがあまりに騒々しいので、結局、彩兼が操縦室から顔を出すと、そこではルルホを組み敷いているファルカの姿。

 絡み合う小麦の肌と白磁の肌。2人は今さぞ色っぽい状態になっているのだろうが、残念ながら明かりが消されたラウンジ内は暗く、彩兼はそれを確かめることはできなかった。

 小さくため息をつく彩兼。決して残念だったからではない。

 

「だってるるっぽが!」

「ファルが起きないから!」

「あーもう、静かに。こっち来なさい。奴が来る」

 

 よく見えはしないが、一応視線を外して、見てませんアピールをしながら彩兼は操縦室へと2人を手招く。

 

「待って、パンツ、パンツ……」

 

 寝ている間に変幻してしまい、脱げてしまった下着を穿く光景は、美しい見た目に似合わないなんとも残念な感じである。

 

 この世界での一般的な下着は紐でサイドを結ぶ、いわゆる紐パンや褌だが、ファルカが愛用しているのは、伸縮性のあるゴム状の繊維が織り込まれた、地球の衣服を参考にして作られた、最新の高級品である。

 穿きやすく、脱ぎやすいこのタイプの下着でないと、穿いたままうっかり変幻した時、とても痛い思いをする事になるらしい。

 

 

 

 

 操縦室も今は明りが落とされ、モニターからの光だけが室内をわずかに照らすのみである。

 大きめのワゴン車の中くらいの広さの操縦席は、1番前に操縦席、左斜め後ろに折りたたみ式の補助席があり、その後ろ側面にソナー。対面にはキーボードと、21インチのモニターが3面で設置され、現在そこには高感度カメラが映し出す外の映像が映し出されていた。

 3人共息を飲んでモニターを見つめる。

 深さ100メートルの海底は太陽の光も届くことはなく真っ暗だが、高感度カメラは近づいてくる蛇のようなその姿を捉えることができた。鰭竜だ。

 細長い体はまるで魚雷のようで白く、不気味なまだら模様が入っている。

 見慣れないモノが海底にあることに興味を引いたのか、鰭竜はわずかに上下にうねりながらアリスリット号の周囲を回遊する。

 

「2人共、静かにしてろよ? あんなのに襲われたら、この船もただじゃすまないんだからな?」

 

 この船は民間船であって、武器もなければ超合金でできた装甲も無い。普通の船よりはずっと頑丈ではあるが、相手はざっと見積もって、20トンはありそうな怪物だ。下手すればこの船も海の藻屑となり、3人仲良く奴の昼食になるだろう。

 

「速いな。この深さで20ノット以上? 本気ならもっと出るか? なるほど、活動範囲が広い割にこうも早く出会えたのは、奴の動きが早いからなわけか……。これも精霊魔法?」

 

 この世界の人々は、自分たちの常識では説明のつかない現象を十把一絡げに魔法と呼んで片付けている。

 彩兼の目には、自分がこのファルプに流されてきた現象と、ファルプで魔獣が発生した現象と、魔族が変幻(メタモルフォーゼ)する現象と、精霊魔法って全然別物に見えるのだが、そのあたりの形骸化は実に曖昧なものらしい。

 その中で最もポピュラーなものが、魔獣や魔族が扱う精霊魔法だ。

 魔力をもって精霊を使役し、火を吹いたり、水を剣や槍といった武器にしたり、風の精霊使いとかはレーダーのように周囲を探ったり、遠くに居る同じ風の精霊使いと会話できたりと、様々だ。

 もちろん人はそんなの使えない。

 魔法が使えるのは魔力の影響を受けて異常進化した生物、魔獣や魔族だけである。

 ちなみに魔族とはエルフや人魚、ドワーフ、獣人など魔力を受けて生まれた種族を指す。

 

「うん。鰭竜とか海の魔獣はあたし達メロウと同じ、海の精霊の力を借りて泳ぐことが出来る」

「精霊魔法による流体推進か。便利なものだなぁ……」

 

 流体推進の意味が分からずファルカはきょとんとしているが、彩兼は鰭竜の速さの秘密が分かっているようである。

 ファルカ達メロウ族は、熱帯魚のように優美に広がる鰭を持っていて、魔法無しでもそれなりに高い泳力があるが、鰭竜と呼ばれている割にその鰭は巨体に似合わず小さい。

 細長い体躯もあって、魚雷のようなその体型は魔法で泳ぐのに特化しているのだろう。

 

 天敵への潜在的な恐怖心だろうか? 気が付くと、彩兼の二の腕を掴むファルカの手が震えている。空気より抵抗の強い水中で生きる人魚の筋力は人より強く、また地球の裏側からでも自力で泳いで帰ってくると言われるほどの持久力を持つ。そのため掴まれるとかなり痛いが、彩兼は引き離すことなく、その震える手をそっと握る。

 ルルホもファルカの肩に手を回している。もう片方の手はファルカが掴んでいるのと逆の腕の袖をしっかりと握っていたが。

 

 鰭竜がすぐ頭上を通り抜けていく。その瞬間3人は息を飲んでそれが過ぎ去るのを待った。

 しばらくして興味を失ったのか、鰭竜が離れていく。カメラの視界から、そしてソナーの探知範囲外へと消えていく。

 それでも数分の間、三人は暗い船内で息を殺していた。

 やがてダイバーズウォッチを見ながら3分たったのを確認して、彩兼がその沈黙を破る。鰭竜の速度からして十分距離が取れただろうという判断だ。

 

「よし、もう大丈夫だろう。でも大きな音は出すなよ? 喧嘩も厳禁。わかってるな?」

「「はい……」」

 

 2人ともぐったりしている。喧嘩する気力もなさそうだった。

 

「ルルホ、ここ見ててくれ」

「わかりました」

 ソナーの監視をルルホに任せると、彩兼はアリスリット号に備え付けられたコンピューターを使って、カメラが撮った映像の解析を始める。

 

「体長21メートル、体重が推定22トン? 結構細いな。モササウルスに似てるけど、上下にうねってる。元は鯨か? だったらバシロサウルスに近いな?まぁ、年代合わないし、全然違う種族なんだろうけど……」

 

 モササウルスは7000万年前、バシロサウルスは4000万年前に生息していた肉食の海洋生物だ。

 この世界が魔力の影響を受け、それによって魔獣が生まれたのが、おおよそ10万年前だとされている。

 

「アヤカネ?」

 

 その様子を後ろから眺めるファルカ。出会って2ヶ月経つが、いまだにコンピューターを扱う彩兼を見て不思議そうな顔をしている。

 

「ああ、ごめん。あれはたぶん鯨の仲間だよ。大昔に魔力を受けて先祖返りでもしたんじゃないかな?」

 

 肉食の鯨としてはマッコウクジラやシャチなどがいるが、鰭龍のワニのような顎は原始の鯨に見られた特徴である。

 現代の鯨はプランクトンや小魚などを髭でこしとるように食べるようになった。効率よく必要な食料を摂取出来るように進化したことで、シロナガスクジラなど大型の鯨もその巨体を維持出来るわけであるが、その流れに逆向したかのような姿の鰭竜は、魔力によって生物が再び大型化したこの世界では時流にあったものなのだろう。

 

「よし、帰って作戦会議といこうじゃないか」

 

 彩兼はアリスリット号に音声で浮上を指示する。

 海底を離れ、ゆっくりと浮上していくアリスリット号。この船は簡単な操縦ならば声をかけるだけでできるのだ。

 

「アヤカネ、あの鰭竜をどうにかできるの?」

 

 鰭竜が現れたことでメロウ族には大きな被害が出ている。

 何人も犠牲になっているというのもあるが、人魚は腹が減ればそのへん泳いでいる魚獲って食べるというのが普通で、海に出られなければその日の糧にも困るのだ。

 海に入れない日が続けば、餓死者が出かねない状態なのである。

 

「まぁ、やれそうな事、考えてみるよ」

「本当!? やったあ」

 

 後ろから抱きつくファルカ。長い金髪が首筋に触れてくすぐったい。

 ストレートに感情を表現してくるファルカ。会ってからそう間もないが、彼女が向けてくる素直な好意は、恋愛経験に乏しい彩兼にも伝わってくる。

 もちろんこんな綺麗な子に慕われて悪い気はしない。しかし、それ以上の関係に進展することが望めないことも理解していた。

 なぜなら種族が違うからだ。この世界で異種族間の恋愛は禁忌とされている。

 理由は簡単で、2人の間にできる子供ってどんな子?という話で、そこに論じる余地など無いのである。

 どうしてもというなら、男子のナニをちょんぎって……と、冗談でなくそういう話になるのだ。

 

「アヤカネさん!」

 

 ソナーを見ていたルルホが突然声を上げた。

 

「うん? ……アレが戻ってきたのか?」

 

 ソナーには急速に接近してくる影が映し出されている。さっきの鰭竜に間違いない。

 

「あー。これは、まずいな」

 

 

 こちらの探知範囲外からこの船の動きを察知して戻ってきたようだ。どうやら鰭竜はこちらより良い耳を持っているらしい。

 かなりの速度で迫ってくる鰭竜に対して、アリスリット号の潜水能力は元々おまけのようなもので、水中でのその機動はどん亀だ。

 彩兼はアリスリット号のまるで戦闘機のコクピットのような操縦席に座る。そこにはステアリングのようなものはなく、サイドレストから伸びた操縦桿を握って操作する。

 操縦系にフライバイワイヤー使ってみた!と生前、彩兼の父親、鳴海譲二は喜々として言っていた。

 正面にはタッチパネル対応のディスプレイ。深度や速度、燃料計などがそこに表示されている。

 そして周辺には何に使うのかわからないようなスイッチやレバーやボタンがややたくさん。

 海面まであと30メートル。このあたりならば太陽の光も届くため、フロントウインドウ越しに青い世界が広がっている。

 そこに黒地に白のまだら模様が入った蛇のような生物が真っ直ぐこちらに向かってくるのが見えた。

 細長い体、小さな鰭。体長の割に頭は小さいが、それでも人や人魚を一口で捕食できるくらいはあるだろう。

 よほど腹がへっているのか、縄張りを犯されて腹を立てているのか、とにかくあんなのに襲われたら沈没もありえる。

 彩兼は操縦桿を引き、鰭竜を真正面にアリスリット号の舳先を向ける。

 潜水能力があったりと、ただのクルーザーではないアリスリット号だが、船首にドリルや冷凍兵器積んでいるわけではない。

 小型船でありながら鋭角的なバウが衝角っぽく伸びていたりと、かなり独特の形状をしたアリスリット号の船首部分ではあるが、それでもって体当たりをしようというわけでもなかった。

 バウ部分には、アクティブソナーが備え付けられているのだが、アリスリット号のそれにはある機能が追加されていた。

 

「2人とも、耳を塞げ!」

 

 ゴォォォン!

 

 大音響がアリスリット号の船体を震わせる。

 ピンガーを転用した鯨よけだ。大音量と振動波で人間なら脳震盪を起こして昏倒してたところだろう。さすがにそこまでの効果をあの怪物には望めないが、驚かせることには成功したようだ。

 真正面から向かってきた鰭竜がはじかれたように進路を変える。

 

「よし、今のうちにとんずらだ!」

 

 操縦桿を引く。船体が大きく上を向き、少女たちが小さく悲鳴を上げた。

 

 ついにアリスリット号が洋上に浮上する。

 44.4フィートの翼のない航空機のような流線型の白い船体。船体上面の大半は黒水晶のようなソーラーパネルで覆われていて、それが陽光を受けて煌めいている。

 万能クルーザーアリスリット号。彩兼の父親、鳴海譲二が世界を旅するために建造した情熱と趣味と借金の結晶である。

 甲板の左右にサメのエラのように配置されていた吸気装置が開き、甲高い音が波間に響き始めたかと思うと、船尾から爆音と共に高々と水柱が上がる。

 飛ぶように海面を駆けだすアリスリット号。

 やや遅れて海面に現れた鰭竜だったが、足の速さが自慢の鰭竜も、さすがにそれを見送ることしかできず、やがて再び海中へと姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 ルネッタリア王国。200年前に魔獣から逃れてきた人々が集まって建国された、地球でいう日本列島の本州、中国から近畿地方を開拓してできた国である。

 琵琶湖を中心に王都メリルが広がり、その北側に、豊後半島から若狭湾一帯を治めるシャルパンティエ公爵領があった。

 

 シャルパンティエ公爵領最大の都市マイヅル。

 ルネッタリア王国では、130年前に向こうの世界からの漂流船によって地図がもたらされ、その頃未開地だった場所はその地図にあった地名がそのまま使われている。

 マイヅルという地名もそこから来ていて、その場所も日本の舞鶴市の位置と変わらない。

 山間で平地が少なく、王都までの交通の便は悪いが、現在の王国の最北端に位置し、日本海側の航路の要所であり、また佐渡島への金採掘船団の拠点でもあるため、王国でも屈指の港湾都市として栄えていた。

 

 大小数多くの船が繋がれている。マイヅル港。

 沿岸警邏隊の船が並ぶ一角に一般からは隔離された専用の桟橋が設けられ、そこがアリスリット号の母港となっていた。

 また、この街は王国最高学府の教育機関であるマイヅル学園を有し、学問の都としても知られている。

 そして、現在彩兼はこの学園の講師という立場にある。

 この学園には向こうの世界から流れ着いた様々なものが集められ、彩兼も最初は保護という形で連れてこられたが、その知識を買われて正式に講師として採用されることになったのだ。

 なんでも生きた人間は130年ぶりだったらしい。

 

 魔力変異微生物と精霊魔法に関する概要。

 それは、この世界で精霊呼ばれている存在は、魔獣や魔族のように、魔力で変化した微生物であるとした論文である。

 

 学園で雇う口実をつくるため、向こうの世界の何か役立つ知識でもまとめてくれればそれでいいと、学園側が彩兼に論文の提出を求めたのだが、何故か彼は、この世界の根底を揺さぶるものを持ってきた。

 この世界ではまだ顕微鏡が発明されておらず、ミクロの世界に足を踏み入れていない。

 そんな世界で、精霊=変異微生物とした論文がひょっこり出てきたものだから、学者達は大騒ぎになったのである。

 

 実は彩兼はジョークのつもりでこれを書いた。

 彩兼は元の世界に帰る方法をすぐにでも探しに行くつもりでいたため、定職に就くつもりなどなかったのである。

 だからあえて敬遠されそうなネタを選んだ。

 精霊魔法とは、その名の通り精霊の力を借りて様々な自称を引き起こす魔法である。

 この世界の宗教観はよくわからなかったが、人々が魔法や精霊というものに対して、何かしらの敬意や信仰心を抱いているであろうと予想したからだ。

 いきなり宗教裁判で死刑とかも有り得たかもしれないが……。

 ところが、それは思わぬ方向に転がることになる。

 

 この世界の人は神を信じていなかった。

 魔法が使えるのは魔力を受けて進化した、魔獣や魔族だけ。

 神は人を万物の霊長として選ばなかった

 精霊もまた人を選ばなかった。

 そんな世界で精霊を科学的に解明しようとする彩兼の論文は、予想に反して好意的に受け止められることになったのである。

 同時に顕微鏡の設計図も提出され、今その開発が行われているところである。

 もっとも、その確認に必要な性能の顕微鏡、さらにその先にある電子顕微鏡が開発されるのは、遥か先の事になるだろう。

 

 そんな事があり、このマイヅル学園で講師として迎えられることになってしまった彩兼。

 当初の思惑とは異なる結果になってしまったが、それは良い方向に向かったと言えた。

 彩兼自身がそれなのだが、まず、この世界には向こうの世界から色々モノが流れてくることがあるらしい。

 大抵はゴミ、希に結構やばいもの。白骨を乗せた某国の船とかが流れ着いた事もあったらしい。即焼却されたらしいが……。

 マイヅル学園ではそういったものが集められ、その研究が行われていたのである。

 それから国内最高学府の講師という立場には、ちょっとした貴族並みの権威があったということ。

 これによって貴族や商人などの協力を得やすくなった。

 アリスリット号も学園の調査船という扱いとなり、彩兼の知識や技術を狙う輩に下手に手出しされる恐れが減り、より安全に調査探索を行えるようになったわけである。

 

 

 

 暦は9月、日差しはだいぶ柔らかくなってきたものの、日中はまだ残暑が厳しく、エアコンなど当然存在しないそこは、窓が全開でもかなり暑い。

 このマイヅル学園の学舎は、木とレンガと漆喰で作られた二階建ての西洋風の建築物でだ。

 ルネッタリア王国は、200年前に西から来た人々によって出来た国のため、社会システムや、建築、衣服などは、その持ち込まれたものが基礎となっている。

 しかしそれも、四季があり多湿な土地の環境に合わせて次第に変化し、また向こうの世界からの影響にもあって、現在は良く言えば和洋折衷、彩兼の目には、何でもアリのごっちゃ煮な文化に見えている。

 

 彩兼達がここマイヅルへ逃げ帰ってから数時間の後、入口に鰭竜対策本部と書かれた立札がかけられたマイヅル学園の会議室。

 そこには警邏隊の衛士など国の武官を始め、学者や学生、商人から漁師など、様々な役職の人が集まっている。それなりの立場の人も多いが、畏まった場ではなく、集まってる人達も老若男女まちまちで、服装も畏まったものではない。

 この国には王族や貴族といった、やんごとなき身分の方々はいらっしゃるが、それ以外の武官や町人といった庶民は、身分や立場による垣根が低く、あまり頓着しないようである。

 

 さて、鰭竜対策会議であるが、実はこれで2回目である。

 1度目の会議で彩兼による偵察が決まり、これからその報告と、その後の対応を話し合うことになっている。現状まだ領主に陳情するかを決めかねているという、その段階であった。

 鰭竜が現れていることは領主の耳にも入っているだろうが、その対応をどうするかは、こちらから陳情する内容によって異なるだろう。

 下手に陳情して、血気にはやった領主様が討伐するぞと言いだしたら、勝ち目のない戦いに赴かなければならなくなる可能性もあるのだ。

 

 この会議の発起人であり、対策委員長の席には、国の武官の長である、フリックス・フリント警邏庁長官。30代に入ったばかりと若いが、ルネッタリア王国随一の武人である。

 またこのマイヅル学園の卒業生でもあるとのことで、文武に優れた男であるが、190センチはある長身に黒の長髪。精悍な顔立ちで眼光鋭い切れ長の目と、威圧感が半端ない。

 彩兼は初めて会ったとき、魔王かと思ったと語っている。

 今は武具の類はつけておらず、普段着らしい着流し姿である。

 どこかのお奉行様のように、よくこの姿で街を見回っているらしいが、有名人で見た目にも目立つため、まったくお忍びにはならないらしい。

 ちなみに、この国には軍隊というものは存在しない。なぜなら戦争をするような国が他に無いからだ。

 一番近い隣国が、遥か南の海の先にあるが、海を越えてこの国に軍勢を送るような国力のある国は、この世界には存在しない。

 しかしそれでも、治安維持や魔獣への対応は必要なため武力を持つ組織として、一つが国王や貴族の私設部隊である騎士団、もう一つが国の機関である警邏庁である。

 権威を守るための騎士団と、法と民を護る警邏庁と考えてもらって間違いない。警邏庁に所属する武官は衛士とよばれ、子供達の憧れの対象である。

 

 

 

「あー、というわけで。自分の見解としましては、あえて手を出さずに静観するのがよろしいかと」

 

 教壇に立ち、実際鰭竜を見てきたことを踏まえて発言する彩兼。

 その後ろで助手であるルルホが、黒板に静観とでかでかと書きなぐる。

 もちろん今はちゃんと服を着ている。飾り気の無い質素な貫頭衣に、丈夫そうな革のブーツ。狩人が本業である彼女の基本スタイルだ。

 周囲からあからさまな落胆のため息が聞こえてくる。

 そのくらいの反応はわかっていたことなので、気にせず続ける。

 

「この付近にはあのサイズの魔獣が腹を満たすのに十分な大きさの他の生物が少ないため、しばらくすれば自分から餌の豊富な遠洋に出ていくだろうというのが自分の見解であります」

 

 またも大きなため息が聞こえてくる。

 しかし、誰も彩兼を悪く言うものはいない。ただ少し、失望の視線を送るだけである。

「あのー、それじゃメロウ族困るんですけどー」

 どこか棒読みのように声を上げるのはファルカだ。

 ファルカは、この学園の学生であるため、制服を着て会議に参加している。

 白いブラウスに膝上の短いプリーツスカートは、地球のデザインを元に再現したものだ。

 この学園は国の最高学府であり、その入学には高い倍率の入学試験を勝ち抜かねばならないが、種族枠というものがあり各種族の有力者なの子息、令嬢に至っては試験不要で学費や滞在費なども国費で負担するという制度がある。

 魔法の研究には魔族の協力が不可欠であり、また将来のためのコネ作りのためでもある。

 ややアホの子入っているファルカがこの学園にいるのも、一応メロウ族の長の娘であるからだ。

 実はマジモンの人魚姫だったのである。

 ファルカに同調する漁師の皆さん彼らもメロウ族同様、海には入れないのは死活問題なのだから当然だろう。

 しかし彩兼はすました顔を崩さない。

 

「幸いこの街の財政は豊かです。メロウ族や海に出れない間の漁師のみなさんを賄うくらいは余裕でしょう。この街が港町として発展できたのは、メロウ族やみなさん海に生きる方々の協力があってこそですから、領主であるシャルパンティエ公がみなさんを見捨てることはありません」

 

 必殺、領主様に丸投げである。

 本来それが正しい。

 この場には彩兼が持つ異世界の技術と知識を当てにしてる人も多く、彩兼としてはあんまり頼られても困るというのが本音のところだ。

 事実、彩兼の見立てではこの世界の人々だけであの鰭竜を討伐することはまず不可能だ。

 30ノット以上で泳ぐ20トンの怪物に対して、今この世界にある船は大型のものでも全長30メートル、300トン程度の帆船で、速力も10ノット程度、これではあの怪物相手に性能が全然足りない。網で下手に引っ掛けようものなら、ひっくり返されてしまうだろう。

 ならばもっと強力な武器や船を望んでも、一朝一夕で作れるものではない。

 重苦しい空気が会議室を包む。

 なんとかしたい。でもどうにもならない。

 この世界の人類は10万年、これを繰り返してきたのだろう。

 身内を食われ、仲間を食われても、悔しさを押し殺して、逃れて生き延びた人々が作った文明。

 それがこの国だ。

 そこで1人の男が口を開く。この会議の発起人であり、警邏庁長官のフリックスだ。

 

「アヤカネ講師の言うことはもっともだ。正直今の我々には鰭竜に対抗する手立ては無い。しかし、奴はここに人魚が住んでいることを知っている。ならば一度離れたとしてもまた戻ってくる可能性は捨てきれないだろう。だが、我々にはそれを知る術も無い。誰かが襲われてからでしか、それを知る術がないのだ……」

 

 魔獣にとって他の魔獣や魔族はご馳走だ。

 もちろん腹を満たすために普通の生物も食べる。そこに泳いでる人がいれば食べるし、小舟に人が乗っているのであれば、小舟をひっくり返して食べる。

 しかし、そこに溺れている人がいたとしても、近くに人魚がいればそっちを追うという。

 それくらい鰭竜にとって人魚というのは美味しいらしい。

 鰭竜が諦めることはない。それはその場にいる誰もが同じ見解だった。

 一時的にいなくなっても必ずまた戻ってくる。そしてその度に誰かが食われることになるだろう。

 メロウ族も、漁師たちもそれを恐れながら海に出ることになる。

「私はなんとしてもあの鰭竜を今ここで打つべきだと考える。どうか皆諦めずにあの魔獣を倒す手段を考えて頂きたい。そして手段があるというならば、我々警邏庁は私も含めて、命をかけてそれを実行することを誓おう」

 

 それは彩兼ではなく、この場にいるこの国の住人へと向けられた言葉だった。

 めちゃくちゃ強くて、魔王みたいな見た目で、そして偉い人。

 そんなフリックス・フリント警邏庁長官の発言は重い。

 拍手する者、同調する声、涙を流している者もいる。

 その後、フリックスの言葉に感化されたのか、火が付いたかのように議論が繰り広げられた。

 皆それぞれ知恵を絞り、できそうなことを考える。しかし、これという妙案は出てこない。相応の犠牲を覚悟して一時的に追い払うことはできるかもしれないが、海中にいる相手を仕留めるとなるとやはり厳しいのだ。

 その様子を見て、フリックスが彩兼にそっと耳打ちする。

 

「どうだアヤカネ。そろそろいいんじゃないか?」

 

 彩兼がこの世界に来てからフリックスとは親しくしている。この会議の流れも、ここまでは彼と打ち合わせた上での茶番だったりする。

 彩兼がやれやれという感じで、再び教壇上に立ち口を開く。

 

「フリント長官のおっしゃる通りです。人魚の味を知った鰭竜が簡単に諦めるというのも考えにくい。また奴がいることで、同種の魔獣。またはそれを捕食するさらに大型の魔獣が現れることも考えられます。他の港町で人を襲う恐れもありますしね。そこで俺なりにあの鰭竜の討伐案を考えてみました」

 

 そんなものがあるなら最初から出せよと誰かが呟いたが、彩兼はそれを苦笑して受け流す。

 彩兼としては周囲にやる気が無いならやりたくなかったからだ。

 討伐作戦を実行するならば、この場にいる者だけでなく、他にもたくさんの人に協力してもらわなければならない。

 それも命懸けでだ。

 

「ほう? で、どうするんだ?」

 

 漁師の男が言った。相手は海中を高速で泳ぎ回る巨大肉食生物である。普通にクジラ漁をするのとはわけが違う。

 

「まぁ、釣り上げてみようかと」

 

 ルルホが黒板の静観の文字を消して、ファルカと手分けして用意していた資料を参加者に配る。そこにはアリスリット号で集めた鰭竜のデータと、その討伐作戦について詳細に書かれていた。

 この世界、窓にガラスは入っていないが、わら半紙とガリ版印刷はある。

 その用意の良さに、会議参加者は呆れていたが、書かれた内容に目を通せば誰もが食い入るように資料を見つめ会場はしばし無言となる。

 彩兼の立てた作戦に、驚嘆するもの、呆れた目を向けるものと様々であったが、反対意見もなく、その討伐作戦は満場一致で決行はされることになった。

 

「奴が最後に人を喰ったのが2日前。すでに空腹なはずです。他の餌場を求めて移動するかもしれませんが、準備を怠ることもできません。そこで作戦開始は明後日の夜明けとします。それまでに必要な資材の準備と人員の手配をお願いします」

 

 彩兼が言い終わると共に講堂内が慌ただしい喧騒に包まれる。

 警邏隊長官のフリックスが次々と部下に指示をだす。

 学者達は彩兼が作った資料の内容を精査、検証するために自分の研究室へと帰っていく。

 皆が自分の役割を果たすために動き出したのを、彩兼はやや複雑な気持ちで眺めていた。

 これはフリックスにも言っていないことだが、本当はより安全にあの魔獣を仕留める方法が彩兼にはある。

 爆薬を作ればいいのだ。

 魚雷は難しいだろうが、機雷や爆雷ならば作れないこともない。囮の餌にでも仕掛けておくという手もある。

 しかし、彩兼にはそれを実行できない理由があった。

 それはこの世界を一変しかねない知識を広めることを禁じた契約を結んでいるからだ。

 例えば、爆弾、大砲のような火薬を用いた武器の製造法。

 例えば、こちらの世界ではまだ発見されていない資源の埋蔵地。

 そして、王国を根底から揺るがしかねない、民主主義、社会主義といった思想。

 そういった知識を広めないことを条件に彩兼はこの国での立場を保証されているのだ。

 そして彩兼もそれを納得している。

 

「勇者? 救世主? そんなものに頼るほど、この世界は落ちぶれちゃいませんよ」

 

 契約を結んだとき、マイヅル学園の学長であるエルフの言葉だ。その通りだと思う。

 確かに人類はこの世界の覇者にはなれなかったが、種族、民族関係なく助け合い、小さいながらもこうして国を作り平和に暮らしているのだ。

 そんな彼らに安易に爆薬を与えようとは思わない。そのうち誰かが発明するだろうし、いずれ自らの英知でもって魔獣を駆逐し、覇権を手にする日がくるかもしれない。

 けれどそれは遥か先の未来だろう。

 この場にいるほとんどの人間は彩兼にそんな知識があることを知らない。ただちょっと変わった船を持つ、異世界から来た少年くらいにしか思っていないはずだ。

 しかし、もし、作戦が上手くいったにしろ、失敗したにしろ、犠牲がでたならば?それがルルホやファルカだったならば……?

 そのとき彩兼はどうするだろうか?

 

 

 

 

「それじゃ行ってくるね」

 

 メロウ族の仲間に作戦の協力を求めるため、ファルカはここより少し北にあるオバマ地方へと向かう。

 そこにメロウ族の根城があるのだ。

 いつもなら海を泳いでいくのだが今海に入るのは鰭竜がいて危険なため、陸路で行く事になる。

 警邏庁所属の武官、衛士が手綱を握る大鹿の背に乗せてもらい、手を振るファルカを見送る。

 ちなみにこの国に馬はいない。代わりにトナカイみたいなやたら大きい鹿が人々の足として使われている。

 走る速度は馬に劣るだろうが、馬力は高く野山に強い。

 

「ああ、頼む。ルルホ、俺たちも行こうか」

「はい」

 

 彩兼とルルホは領主であるシャルパンティエ公爵の元へ向かう。

 ルルホが手綱を握り、彩兼が後ろに乗るのは格好悪いが、彩兼がまだ鹿にのるのに慣れていないため仕方がない。

 

「いくよコハル」

 

 この鹿は学園でも飼育されていて、ルルホも手が空いてる時はその世話の手伝いをしている。コハルというこの鹿はルルホのお気に入りらしい。

 手馴れた手綱さばきでコハルを歩かせる。

 彩兼とルルホはその背中に乗って、ぽくぽくと郊外にあるシャルパンティエ公爵の館へと向かう。

 途中、パオーンと鳴き声を上げる、材木を積んだ荷車を引く象が道を横切っていく。

 この世界の日本列島では、大きい鹿が生息しているだけでなく、ナウマン象も絶滅していなかったりする。それは移動用として、また労働力として、この国で欠かせないものになっていた。

 

 

 

 

 シャルパンティエ公爵家の祖先は向こうの世界のフランス人らしい。ルルホの祖先と同じ船でこの世界に流れ着いたそうだ。

 それゆえか、ルルホの事は自分の孫のように大事にしているため、大貴族にも関わらず、面会の段取りはあっさり取ることができた。

 

「ほう、鰭竜をか。よろしい。船と人員はわしが手配しよう」

 

 シモン・シャルパンティエ公爵。港湾都市マイヅルを含むシャルパンティエ公爵領の領主である。

 禿げ上がった頭に白い髭を蓄え御歳68歳になるが、180センチはあるだろう長躯と、フリックス警邏庁長官にも劣らない肉体を持つマッチョな爺様である。

 

「我が一族は代々船乗りの家系。この鰭竜討伐、一枚噛んでおかねば先祖に顔向けできん」

 

 彩兼の持ち込んだ作戦に二つ返事で協力を約束してくれたシャルパンティエ公爵。しかし、次からは作戦会議に自分も参加させるようにと念を押されてしまった。

 

 

 

 

「なんなのよ、これはーーっ!!」

 

 翌日。

 港では作戦に備えて、順調に作業が進められていた。

 そんな中、メロウ族と話をつけて帰ってきたファルカが、ソレを見て声を上げた。

 ソレとは、鰭竜を釣り上げるために用意されたな疑似餌である。

 学園の生徒や街の人達の協力でついさっき完成した代物で、現在アリスリット号の船尾にある牽引用ウインチへの取り付け作業中が行われている。

 

「ちょっと、アヤカネ。なんなのよこれは!?」

「みんなが頑張って1日で用意してくれたんだ。文句言うなよ」

「そうだけど。これよ。あたし、こんな下品な胸してないわよ!?」

「……この疑似餌は別にお前を模したわけじゃないぞ?」

「嘘! 絶対これあたしじゃない! この胸のとこ以外!」

 

 この人魚型の疑似餌は設計図だけ簡単に書いて、あとは町の職人や学園生に制作はまかせていたのだが、悪乗りしたのか、人魚=ファルカの印象が強いのか、完成した疑似餌はファルカによく似たものになっていた。

 体長は人魚形態のファルカとほぼ一緒。わざわざ金髪のかつらを被せ、顔まで精巧に彫ってある。

 ただし、一目見て当人と大きく違う点が一箇所。それがファルカがごねてる胸の部分である。

 ファルカも大きい方だが、この疑似餌のそれはオリジナルをはるかに上回るボリュームがあり、さっき彩兼も触ってみたが、これで人肌の温度だったら完璧というくらい、設計以上の高い完成度を誇っていた。

 

「さっきから、通りすぎてく人がみんな無駄に揉んでいくのも腹立つのよねー」

 

 そう言ってファルカがその手でむにむにとその擬似おっぱいをいじりまわす。まるで本物のように柔らかい。

 

「あまりいじるなよ? そこには近隣からかき集めた鱶殺しの肝がしこたま詰め込んであるんだからな?」

「うげ!?」

 

 鱶殺しとはこの世界にいるふぐのでっかい奴である。もちろんその肝は猛毒で鱶も食べたら死ぬと言われていることからそう呼ばれている。

 猛毒が詰まっていると聞いて、慌てててを引っ込めるファルカ。

 獣の内蔵を元につくったその擬似おっぱいの中には、片側約3キログラム。人間なら数千人分にあたる致死量の肝が詰め込まれていた。女性の乳房の感触に近いものになってしまったのは、あくまで偶然、副次的なものである。

 しかし、これだけの毒物でも、正直あの怪物相手に彩兼はあまりあてにしていない。少し弱らせることができればいいな、くらいにしか思っていなかった。

 

「で、メロウ族の方では話ついたのか?」

「あ、うん。みんな協力してくれるって。警邏の人たちが出してくれた象や鹿で、夕方までには来ると思うよ」

 

 頷く彩兼。

 作戦に必要なものはこれで全て揃った。後は綿密な打ち合わせである。

 彩兼は周囲に聞こえるように声を張り上げる。

 

「よし!ミーティングを始めよう!」

 

 そのミーティングは日が沈むまで続いた。その後は船出に備えて各自早めに休むことになった。

 明日、無事鰭竜を討伐したあかつきには盛大な宴を催すことを約束して……。

 

 

 

 

 

 

 明けて早朝。霧立ち込めるマイヅル港を出航するアリスリット号。

 そこでアリスリット号は2隻の船と合流して船団を組む。

 どちらも2本マストの木造洋式帆船で、30メートルクラスの大型の船だ。

 公爵家所有のユジーヌ号。白く塗られた船体に公爵家の紋章が入った美しい船であるが、それほど豪奢な装飾はない。機能性を重視しているようだ。

 それよりやや大きいサラザール号。こちらはサドガ島との定期便として使われている船である。

 ユジーヌ号の甲板上で船の指揮を執るシャルパンティエ公爵の姿は、実に堂に入ったものであり、先祖代々船乗りの家系というのも伊達ではないようだ。

 鉤爪船長のような、船長服と帽子をかぶりバッチリ決め込んで、相当な気合の入れようである。

 それもそのはずで、ユジーヌ号の甲板は50人ものメロウ族の女性がひしめき合うように乗り込んでおり、肌色で溢れていた。そこはもうハーレム状態、桃色パラダイスである。

 対してサラザール号の甲板は同じくメロウ族の野郎が詰め込まれている。

 そんなわけで、サラザール号のクルーの殺視線がさっきからユジーヌ号に向かって飛びまくっていたりする。

 そんな2隻の様子を苦笑しながら眺める彩兼達。

 ビキニパレオのファルカと、褌ライフジャケットのルルホを傍らに、今日は彩兼もライフジャケってを身につけている。

 両手に花状態の彩兼にもサラザール号の水夫達の妬みの視線が飛ぶ。

 

 マイヅル湾を出てからしばらくしてすぐソナーに反応があった。

 

「なんだあいつ。しっかり近くにいるんじゃないか」

 

 とっくにどっかいってました、となってもつまらないが、こうもあっさり見つかると拍子抜けである。

 かなり近くまで近づいてきているにも関わらず、アリスリット号に襲いかかるでもなく、一定の距離をとってついてきているようだ。

 

「まいいや。作戦開始と行こう。それじゃファルカ、鍵針には気をつけろよ?」

「おっしゃあ!」

 

 疑似餌の背中から伸びた、人間をまとめて3人ほど串刺しに出来そうなくらい大きな鈎針。先端は鋭く返しが入っていて陽光を受けて鈍色に光っている。

 海面にいい感じに浮かぶように設計されているため、本物よりは軽いがそれでも人間並みの重さは有るはずのその疑似餌を、喜々として頭上にまで持ち上げる。そして……。

 

「どっせぇぇい!」

 

 海に向かって10メートル程放り投げた。

 

「おー、さすがの馬鹿力」

「むふー、任せたまえ!」

 

 実は別にぶん投げなくても、疑似餌は牽引用ウインチに繋がれていてそれを緩めていけばよかったのだが、ファルカがそれをやりたがったのだ。

 アリスリット号のウィンチに繋がれているロープは、鋼より強く絹糸よりしなやかな特殊素材を用いたロープを使っているので、鰭竜を相手に切断の心配はない。

 鰭竜釣りの始まりである。

 

 

 

「かかんないなー」

「あんまり美味しそうじゃないからとか?」

「るるっぽ放り込んでみようか?」

「やめなさい」

 

 作戦開始から小一時間程が経つが、どうにも引っかかる様子がない。

 鰭竜が近くにいないというのなら仕方がないが、それがそうでも無いらしい。

 最初はソナーの探知範囲ギリギリのところあたりをついてきていたのだが、だんだん近づいてきて、そのうち海面付近をうろうろし始める。

 やがてアリスリット号などがん無視で、2隻の帆船の周りで頭を出したり、飛んだり跳ねたりし始めた。

 ユジーヌ号、サラザール号の甲板上は大騒ぎである。

 クジラが船に興味を持って寄ってくることはある話で、鰭竜がそういった行動をとってもおかしくはない。

 つまりはじゃれてきているのである。

 しかし、ぶち殺すつもり満々で来た側からしてみれば、挑発されてるようにしか感じないわけで、船団は殺気立った雰囲気に包まれ始めていた。

 

「……もしかして、あたし達馬鹿にされてる?」

「落ち着け。じゃれてきてるだけだ。あの鰭竜、案外ただの寂しんぼなのかもしれん」

「あ、でもあっちの船、やばそうです」

 

 ルルホの指差す方を見ると、サラザール号の甲板が騒がしい。どうやらメロウ族の男が何人か飛び降りようとしている。他のメロウ族や水夫達が止めようとしているが、どうも厳しそうな雰囲気だ。

 

「もー、あいつらしょうがないなぁ」

 

 ファルカと同年代の若い連中らしい。

 若さ故の無謀さというところか、ファルカに良いところ見せたいだけなのか……。

 どこの世界にもいるんだなーと、眺めていたら、サラザール号から3つの小さな水しぶきが上がった。

 

「あー、もー、やりやがった!」

 

 呆れるやら、はらはらするやら、怒るやら、複雑なファルカ。

 どうやら騒ぎが起きているのは、サラザール号の方のみで、シャルパンティエ公爵が指揮するユジーヌ号の方はまだ落ち着いているようだ。

 サラザール号の様子を見てすぐに救助のためロープを下ろしている。

 

「さすが公爵様。で、あっちはどうするか……」

 

 鰭竜にしてみれば、面白そうなの見つけてはしゃいでいたら、なぜかそれがご飯くれたといったところだろう。

 飛び込んだメロウ族を捕食しようと大喜びで向かっていく。

 

「あたしちょっと行ってくる!」

「何? ちょっと待て!?」

 

 彩兼が呼び止めるも、ファルカは迷うこと無く海に飛び込んでしまう。

 ひらひらとデッキに舞い落ちる純白のパンツ。

 

「すまん、ルルホ。船外機で出てくれ。馬鹿共のフォローを頼む!」

 

 アリスリット号に2機搭載されている船外機は、補助動力であると同時に、水上バイクとしてに分離独立して活用できる。

 

「わかりました! あの子ちょっとぶん殴ってきます!」

「頼む」

 

 ルルホは左側の船外機に慣れたように跨ると、操縦桿を起こし、それを変形させる。

 左右連結した船外機が、双胴の水上バイクになってアリスリット号から分離、モーターを唸らせ、猛スピードで波間を駆ける。

 

 さて、粋がって飛び降りたメロウ族の若者3人はというと、早々にパニックに陥っていた。

 その手には精霊魔法で海水を凝縮、固形化させた矛が握られているが、これが鰭竜に全く通用しなかった。

 矛を突き刺そうとしても、鰭竜に触れた瞬間、霧散し消えてしまうのだ。

 鰭竜は確かに早いが目で負えないほどではない。また、小回りが利かないらしく、大口を開けて襲いかかる鰭竜を今はなんとか躱しているが、背後を見せれば間違いなく食いつかれるであろう恐怖で、逃げることもできず、神経をすり減らしていく。

 1人のメロウ族が2人の仲間を逃がすために自ら囮になろうと、果敢に鰭竜に挑んでいく。

 水の槍を手にして気を引こうとするが、無常にも鰭竜はそれを無視。脱出しようと背を向けた1人に向かって一直線に進んでいく。

 あわや、捕食される寸前、白い鱗をもつ美しい人魚がそこへ割って入った。ファルカだ。

 海水がファルカの頭上でドリルのように渦を巻き鰭竜にも匹敵する速度でその鼻先を掠める。

 ファルカから発生している水圧で、食われそうになったメロウ族の男は弾き飛ばされて難を逃れる。

 メロウ族の奥義コホリンドリュー。

 海水を操り固形化させることでメロウ族はそれを武器とするが、ファルカのそれは回転させることで、機動力と攻撃力を引き上げている。

 普通の生物ならこれで大穴を開けられるほど強力な精霊魔法で、メロウ族でもその使い手はそうはいない。

 しかしそれをもってしても、鰭竜には傷ひとつ付けることはできず、また魔力消費が激しいためファルカも相当疲弊することになる。

 仲間を助けることに成功したファルカだったが、状況は見事に悪化させていた。

 ファルカはこれでも彼らにとっては大事なお姫様なのだ。彼女を助けようと、また数人飛び込んでしまったのである。

 鰭竜にとっては入れ食い状態だ。

 

「早く船に上がって!」

 

 海面に顔を出して、仲間に船に戻るように促すファルカ。

 その隙を鰭竜は見逃すはずがない。大口を開けてファルかを狙ってくる。

 しかしその牙の一本が、横合いから飛翔してきた矢によって弾け飛んだ。海中に姿を消す鰭竜。

 見ると併走する船外機のシートをふくらはぎでグリップし、弓を構えるルルホの姿。

 ポニーテールをなびかせて、重心移動で華麗に船外機を操ってみせるその姿に、船上から歓声が上がる。

 

「捕まって!」

 

 ルルホが投げたロープのついた救命浮き輪を掴む。ファルカが、船外機に引っ張られていく。そこに一拍遅れて水中から巨大な口が現れて閉じた。

 ロープを手繰り寄せながら、どうにかファルカが右側の船外機へとよじ登ると、その頭に頬を膨らませたルルホの拳骨が落ちる。

 

「「馬鹿っ!」」

 

 そして、ルルホと船外機のスピーカーからの彩兼の声が綺麗にハモった。

 

「うぅ……ごめん」

 

 涙目で頭をさするファルカ。反省はしているようである。

 

「お前が飛び込んだおかげでメロウ族の連中がまた何人か飛び込んじまった。救助のフォローするぞ、いいな? 2人とも」

「「了解」」

 

 ルルホとファルカが船外機の上で、お互いの平手をパチンと打ち合わせると、連結していた船外機が左右に分離、それぞれ海上のメロウ族を引き上げ中の採掘船へと波間を駆けていく。

 

 ファルカを食べ損なった鰭竜が船に上がろうとするメロウ族を狙って海面に姿を現した。

 その背中にルルホの放った矢が突き刺さるが、鰭竜はまったく気にしている様子はない。

 大熊の心臓を一矢で射抜ける強弓も、鰭竜にとっては小さな刺が刺さる程のものでしかないようだ。

 二本、三本と矢が刺さって、ようやく意識をこちらに向けることができたようだ。

 続いてファルカが船外機で鰭竜前方へと回り込み、海水から形成した刃ですれ違いざま鰭竜を切り裂く……ことなく、やはり刃は鰭竜の表面で霧散し全くダメージを与えることはできなかった。

 

「あ~、鰭竜の流体推進のせいだな。奴の方が精霊への干渉力強いから、同種の精霊使った魔法はかき消されるんだろ」

 

 アリスリット号の操縦席上にあるハッチを開き、自らも水中銃で鰭竜を狙いながら冷静に考察を述べる彩兼。

 

「そんなぁ」

 

 しょんぼりファルカ。すっかり役立たずである。

 メロウ族の精霊魔法は通用しない。だったら物理で殴ればいいかと、その変に木片でも板切れでもなんでもいいから落ちてないかとファルカはあたりを見回す。

 そして、すっかり忘れられ、波間に浮かぶ自分に似せたソレを見つける。

 

「ファルカ、何やってるそっち行ったぞ!」

 

 ファルカめがけて突き進んでくる海面に浮かぶ黒い影。

 ファルカはその疑似餌を急いで船外機へ引き上げると、ヤケクソのようにその影めがけて思い切り投げつけた。

 

「どりゃぁぁっ!」

 

 放物線を描き落下する人魚型の疑似餌。

 意味がないと思われたファルカの行動だったが、鰭竜は誰もが思いもよらぬ動きを見せた。

 大きく海上へと躍り出た鰭竜が空中でぱくっとそれに食らいつき、海中へと消えたのだ。

 

「「「あ」」」

 

 呆気にとられる彩兼、ルルホ、ファルカ。

 ガクンと揺れて、海中へと引かれていくアリスリット号。

 

「フロート展開、反転180度、最大船速。ウインチ巻き上げ開始!」

 

 思わぬ僥倖に喜んでる暇はない。音声入力でアリスリット号に指示を出し、彩兼は船内に飛び込みハッチを閉める。

 小さく軋む船体。バランスを大きく崩し横転しそうになるになる寸前、黒いフロートがアリスリット号を囲い込むように膨らみ、それを防いだ。

 爆音と水しぶきを上げて加速するアリスリット号。鰭竜を引ずるように海原を駆け、随伴する2隻の船の間を通過する。

 アリスリット号から甲高い警笛がなった。作戦第二段階への合図である。

 メロウ族が船から次々と船から飛び降りていくと、アリスリット号に引っ張られた鰭龍に並走を始める。

 

 

 

 精霊魔法にはその空間において使える力が有限であるという特徴がある。

 彩兼の理論で言えば、魔力と呼ばれる因子Xで突然変異した微生物、バクテリア等と謎の力で交信して使役することで引き起こされる現象である。

 それならば同じ精霊の力、を一定の間隔内で何人もの使い手が一度に使おうとするとどうなるか?

 答えは、精霊の力は分散してしまい、得られる力は弱くなるである。

 彩兼の狙いは、鰭竜の武器である口を封じたところで100人以上のメロウ族を投入。一斉に精霊魔法を使わせることで鰭竜の精霊魔法による力を弱めることにあった。

 鰭竜は体の造りを、精霊魔法による流体推進に特化させている。つまり、精霊の力が使えなければ泳力はガタ落ちしてしまうのだ。

 この状態ならば銛など武器を使えば、討伐も可能かもしれない。しかし、鰭竜の巨体とその膂力は健在で、メロウ族も精霊魔法が使えず力を発揮できないため、苦戦は免れない。犠牲が出ればその分鰭龍に精霊の力を与える事になるため、リスクが非常に大きい。

 彩兼が目指しているのは誰ひとり犠牲を出さない完全勝利だ。

 流体推進さえ使えなければ、鰭竜の泳力は大したことはない。アリスリット号は丸太を引くように西へと舵を切る。

 メロウ族の速度に合わせて、およそ1時間ほどで、目的の場所が見えてきた。

 弧を描く美しい砂浜。向こうの世界でそこは天橋立とよばれていた。

 作戦はいよいよ大詰めだ。

 再び警笛が鳴り響き、メロウ族と船外機の2人がその場を離れていく。

 精霊の力を取り戻す鰭竜だったが、全力のアリスリット号に搭載された2基の水素ジェットエンジンの本気はそれをはるかに凌駕する。

 2つの噴射口には4枚のベクトル変更パドルがクロス状に取り付けられ、船の方向を自在に変える。

 なんでこうなった? という問いに譲二は清々しい程の笑顔で言った。ATD-Xが格好良かったから真似してみたと。

 燃料である水素は、ソーラーパネルで得た電力で海水を分解して作り出している。

 元々は燃料電池と超伝導モーターが取り付けられる予定だった。ところが……、小型高性能淡水化装置を作っていたはずの譲二、しかし完成させたのはなぜかジェットエンジンだった。

 そのときの譲二のドヤ顔は脳裏に焼き付いて離れない。母親が写真にしっかり残していたようで、後に遺影として使われた。

 この摩訶不思議な譲二マジックに比べれば、精霊魔法など理科の実験程度に思えてしまうくらいである。

 燃料である水素の残量は残り3割。ジェットエンジンは強力だが、燃費も悪い。メロウ族の協力が無ければここまで鰭竜を引っ張ってくることはできなかっただろう。

 砂浜へ向けて全速力で進むアリスリット号。

 

「フロート最大展開。上陸モードへトランスフォーメーション」

 

 アリスリット号の周囲を囲うフロートが、船体を持ち上げるほどにまで大きく膨らみ、アリスリット号はホバークラフトへと姿を変える。

 ジェットエンジンと、ベクトル変更パドルの搭載で可能になった水陸両用形態だ。

 任意に展開できるフロートは、元々は安全にどこでも接岸できるように搭載されていたが、その機能を拡張。ジェットエンジンのパワーで船を浮かび上がらせることが出来るようになり、噴射口に付けられたベクトル変更パドルで方向転換も行える。

 

「くっ!」

 

 アリスリット号が砂浜を走り抜けた後、一瞬背後から引かれたかのようにがくんと船が大きく揺れた。

 砂浜に乗り上げた鰭竜。その重量に耐え切れず、ついにワイヤーの先にあった巨大な鈎針が、鰭竜の喉を割いて外れたのだ。

 鮮血をまき散らしながら暴れ、のたうつ鰭竜。普通の鯨ならば陸に乗り上げると自重で動けなくなるが、さすがは魔獣といったところだろう。

 しかしそれもしばらくのことだった。

 上陸モードを解除し、海面でドリフトするかのように水しぶきを上げて急静止したアリスリット号。

 その操縦席から、砂浜の様子に目を向ける。

「さぁ、仕上げです。長官」

 

 

 

 

 弓状の砂浜にはすでに警邏庁の衛士達が配置を終えて待ち構えていた。

 漆黒の具足を身に付け、巨大な太刀を背負った警邏庁長官フリックス・フリントと、その部下の精鋭達だ。

 狭い場所故、数は多くない。50人もいないだろう。

 しかし、陸に打ち上げられた鰭竜を仕留めるには十分だった。

 

「弩、放て」

 

 車輪のついた台車で運ぶ、大型の弩はこの世界で人が持つ最強の兵器である。

 それが2基、フリックスの下知の元、弩から太い杜が放たれ、鰭竜の首を貫き、腹に突き刺さる。

 フリックスが軍配をふるう。

 瀕死となった鰭竜を、槍を構えた衛士達が左右から取り囲む。

 

「総員、獣槍構え……進め!」

 

 幅広で無骨なノコギリ状の先端の横に半月状の刃ついた二股の長槍は、対人用にはほとんど使えないだろう。衛士達はその半月状の刃を上に、地面に対して垂直に構え、雄叫びを上げて砂浜を駆けていく。

 獣槍は魔獣を殺すための武器だ。突き刺さしてから、、真下に向けて渾身の力と体重をかけながら引き抜く。ノコギリ状の刃は肉を引き裂きながら抜けていくようにできている。

 為すすべもなく、全身を切り裂かれ、虫の息の鰭竜。

 その眼前に立ち、フリックスは背中の太刀を抜く。鰭竜は美しい砂浜をその血で真っ赤に染め、力なく濁った目だけをフリックスに向ける。

 

「ふんっ!」

 

 鉄塊のような太刀が振り下ろされる。そして鰭龍は頭を叩き割られ、息絶えた

 

 

 

 

 終わったかな?

 外部のマイクが拾う音を聞きながら、操縦席のシートに身を沈め、彩兼は祈るようにその時を待っていた。

 自分の立てた作戦で人が命を懸ける。その緊張感からこの数時間、彩兼の精神は相当疲弊していた。

 衛士達の歓声が聴こえてくると、喜びよりも安堵感が勝り一気に気が抜けてしまったようである。

 このまま眠ってしまいそうだった。

 アリスリット号の背面で船外機が接続される音がした。

 かしましい声がして、少女達が帰ってくる。

 今日はすっかり2人に助けられてしまった。

 ファルカがいなければメロウ族の若者は食われていた。そしてルルホがいなければファルカが食われていた。

 

「まったく、すごい子達だよ……」

 

 アヤカネはデッキに出て、素晴らしき褌少女とノーパン人魚を出迎える。

 

「おつかれ、2人共怪我はないか?」

「うん、だいじょうぶ」

「わたしも大丈夫です」

「そうか、よかった。ファルカは仲間のところに行かなくていいのか?」

 

 砂浜では小舟で上陸してきたシャルパンティエ公爵が、フリックス長官の横で討伐した鰭竜を満足そうに眺めている

 協力してくれたメロウ族達も混じってお祭り騒ぎになっているようだ。

 対岸の方にも騒ぎを聞きつけた近隣の人が集まってきているのが見える。

 屍となった鰭竜はもちろんだが、アリスリット号への好奇の目も相当向けられているようだ。

 

「アヤカネは行かないの?」

「うん? そうだね。疲れたし」

「なら、あたしも行かない。アヤカネと一緒にいるほうがいい」

「そうか」

 

 ファルカはあまり同族と一緒にいることを好まない。孤立しているわけではないが、人と接してその文明の影響を受けたファルカは、メロウ族の原始の生活に馴染めなくなってきているのだという。

 

「ヘックチ!」

 

 小さくくしゃみをしているのはルルホだ。

 

「ルルホは寒かっただろ? シャワー浴びてきな。ファルカもな」

 

 人魚のファルカはともかく、9月の日本海はさすがのルルホも冷えただろう。

 水素ジェットエンジンのおかげでアリスリット号は真水もお湯も潤沢だった。

 温かい真水が出るシャワーは、この世界でここでしか味わえない贅沢である。ルルホは気に入っているようだが、ファルカはちょっとお湯を嫌がる。しかしシャワーでしっかり塩を落としてからでないと船内には入れない決まりになっている。

 シャワー室に入るルルホ、ファルカはデッキにあるホースでカラスの行水だ。

 

「おっと忘れるとこだった。ほれ」

「うん? なぁに?」

 

 アヤカネがファルカに手渡したソレは回収しておいた彼女のパンツだった。

 

 

 

 砂浜では、衛士達によって鰭竜の死体を埋めるための穴掘りが急ピッチで行われている。あと数時間もすれば腐敗によってあのあたりが悪臭に包まれることになるだろう。

 彼らも頑張ってはいるが、まぁ、間に合わないだろうと彩兼は踏んでいる。

 鰭竜の死体の扱いについては、是非標本として欲しいという公爵と学園の希望があり、肉が落ちるまでその場に埋めておく事が予め決まっていた。

 

「さて、向こうまだ忙しそうだし、先に上がらせてもらおうか」

「え? いいんですか? アヤカネさん。今回の立役者なのに」

 

 さっきからこっちに向かって手を振っている衛士達の姿が見えるが、手伝わされたらかなわんと、気がつかないフリを決め込んでいるのである。

 シャワーから出たルルホは丈の短い浴衣のような着物姿に着替えて、濡れた長い髪を丁寧にタオルで拭いている。

 湯上りの火照った肌に、湿り気を帯びた黒い髪がしんなりと張り付き、年齢以上の色香を醸し出す。

 ポニーテールを下ろした姿も新鮮だった。

 

「まぁ、いいさ、学園のみんなも心配してるだろうし。それに腹も減ったろ?」

「すいたー」

 

 水をかぶって、髪なんて洗いざらしでOKのメンテナンスフリーな人魚姫も同じように着物姿である。

 

「そういえば、もうお昼ですね」

「うん。何食べよう?」

「お肉!」

「魚がいです」

 

 肉好きのルルホが魚と言って、魚が主食のファルカが肉という。

 顔を見合わせる2人。

 彩兼はその様子が可笑しくてつい吹き出してしまう。

 

「あはは、それじゃ仕方ない。どっちも食べよう。鰭竜退治の打ち上げだ。豪勢に行こう」

「「わーい!」」

 

 バンザーイな少女達。それを見て彩兼はまた笑った。

 しかし、彼女達と過ごす幸せな時間が僅かな間だけだということを彩兼は知っている。なぜなら、自分は必ず元の世界へ帰る方法を見つけ出すと、信じているからだ。

 いずれくる別れの時、せめてそれまでは……。

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